4石 彼女に逢いたい

4石 彼女に逢いたい




「これでとりあえずウルオメアの強化は終わりだな。あと確かめてないのはガチャか」


 さっきチラッと見たときはウルオメアピックアップガチャが帝国ピックアップガチャに変化していた。

 帝国ピックアップガチャとはなんぞや?


 とりあえず俺はスマホを操作してガチャ画面に切り替える。

 すると、帝国ピックアップガチャについての説明が表示されていた。


「……なるほど」


 どうやら帝国ピックアップガチャはファゴアット帝国に関係するキャラクターや装備、素材のみを排出するガチャらしい。

 なので、セミナ王国やその他の勢力に関連するキャラクターなどは出ないそうだ。


「これは俺がウルオメアになった影響か?」


 もし俺がセミナ王国の国王であるタオスになっていたら王国ピックアップガチャになっていたのかもな。


「まぁどうでもいいんだけど」


 だってゲームが出来ない以上、ガチャを引いてキャラクターや装備を出す意味が……。


「まてよ?」


 もしもの話だが、ウルオメアを選択することによってウルオメアになったのだから、他のキャラクターにもなれるのでは?


「……」


 気になる。

 残りの石の数は40個。

 10連ガチャ一回で30個だから引ける。


「引くか?」


 しかし、運良くキャラクターが出るだろうか。

 それに俺は今の俺が気に入ってるから他の姿になってもなぁ。

 少し考えて……決めた。


「よし、引こう」


 どうせ貯めておいても使わないんだし、今使ってしまおう。

 他のキャラクターになれるかどうかは、引いてから色々試してみればいい。


「という訳で」


 俺は10連召喚ボタンをタップした。

 円形が回り始めて、金色に輝く。


「金色か!」


 金色はSSRキャラクター確定演出だ!


「誰が来る!?」


 光が消えてガチャ結果が表示される。

 キャラクターは1体。


「エルミナ!?」


 そこには【エルミナ・スパー】と表示されていた。


 エルミナ・スパー。

 彼女はファゴアット帝国の魔導技師だ。

 魔導というは機械と魔法を組み合わせた技術で、簡単に言うと電力の代わりに魔力を使っているような感じ。

 といっても、この世界のように車が頻繁に行き交ったりとかしているわけではないが、この世界とは違う方向に技術が進んでいる。

 ファゴアット帝国ではその魔導技術が進んでいた。

 逆にセミナ王国では魔導はほとんど使われていない。

 まぁ一部のモノ好きが魔導技術を研究していたが。


 そんな魔導が盛んだった帝国でもトップクラスの腕を持つのがエルミナだ。

 しかし、それだけでなく彼女は優秀な戦士でもあった。

 いざ戦いになれば、自分で作製した巨大なガンブレードを持ち出して戦場に突っ込んでいく。

 原作では、何度もタオスたちの前に立ち塞がって彼らを苦しめていた。


 だが、そんなことよりも重要なことがある。

 彼女はウルオメアの幼馴染なのだ。

 幼い頃から共に育った親友。

 ウルオメアが妹の為にセミナ王国を攻めると決めた時も一番最初に支持してくれたのも彼女だし、戦場で何度もタオスたちの前に立ち塞がったのもウルオメアの苦しみを早く終わらせる為だった。

 タオスとウルオメアの最終決戦の時も満身創痍になりながら戦い抜き、タオスの腕の中でウルオメアが亡くなったあとはタオスを突き飛ばしてウルオメアの亡骸に涙を流しながら縋り付いたほどだ。


「エルミナ……」


 彼女を思い出す度に、彼女に逢いたいという気持ちが強くなっていく。

 ウルオメアの記憶や経験の所為だろうか。

 だが――


「逢うことは出来ない」


 彼女はあくまでタオスの冒険の登場人物。

 この世界には居ない。


「今、出来ることはエルミナになること……か」


 俺は所持一覧からエルミナのステータスを表示する。


名:エルミナ・スパー

Rare:SSR

Lv:1/90

HP:7500 MP:5000

属性:【火】

【筋力:A+】【敏捷:C+】【器用:A+】

【耐久:A+】【魔力:A】【幸運:B】 


 力持ちで器用なエルミナらしいステータスだな。


「……彼女になってみるか?」


 だが、なってどうする?

 この世界にエルミナが現れても中身は俺だぞ。


「……ん?」


 そこで気が付く。

 メインに編成するボタンが灰色になっている。

 押してみると『ウルオメア固定です』と表示された。


「なんだ……悩む必要はなかったのか」


 どうやら俺はウルオメア以外にはなれないらしい。

 まぁこれで良かったのかもな。

 俺はウルオメアが好きだし、他のキャラクターになる必要はないんだ。


「なんだ?」


 そう思っているとメインの下のボタンが点滅し始める。

 点滅しているそれはサブに編成するボタンだ。


「サブに編成?」


 サブに編成すると、どうなる?

 メインが俺ならサブはなんだ?

 俺は気になってそのボタンを押した。

 すると――


 『エルミナ・スパーをこの世界に召喚しますか? はい/いいえ』


 そう画面に表示されていた。


「エルミナを召喚しますかだとッ!?」


 エルミナをこの世界に呼べる?

 彼女に逢える?

 そう理解した瞬間、指が『はい』を押そうとしたが、それをなんとか理性で止める。


「待て待て待て俺!」


 エルミナを呼んでどうする?

 彼女に「見た目は君の親友のウルオメア・ファゴアットだけど中身は別人だ」「君の居た世界はすべて作られた物語で君の記憶や経験もすべて誰かが作ったものだ」なんて説明でもするのか?


 ――あり得ない!

 俺は彼女に逢いたいが、彼女を苦しめたい訳ではない!

 それにもし、タオスの冒険の世界が実在していたとしたらどうする?

 こんな通常ではあり得ない事象がある以上、異世界が存在する可能性もゼロではない。

 異世界で生活している彼女を強引にこちらに呼んでいいのか?


「落ち着け、冷静になれ、考えろ」


 俺はどうする?







 1時間悩み考えた結果、結局俺はエルミナを召喚することに決めた。

 どんな理由を付けたって俺は彼女に逢いたいのだ。

 だから、俺は彼女を悲しませない為にせめてウルオメアになることにした。

 ただファンではなく、親友として彼女に逢う。

 嘘をつくことで何時かバチが当たるかもしれない。

 それでも今は彼女に逢いたかった。

 例えそれが少ない時間であっても。


「……やろう」


 今もスマホの画面に表示され続けている『エルミナ・スパーをこの世界に召喚しますか? はい/いいえ』という文字を見て覚悟を決める。

 指をゆっくりと『はい』に近付ける。


「これを押したら俺は諏訪葵ではなく、ウルオメアになる」


 今さらのことかもしれない。

 見た目がウルオメアになった時からもう諏訪葵としては生活出来ない。

 そしてエルミナと逢う為にはウルオメアとして生きていくしかない。

 中身まではすぐには変われないだろう。

 だが、外面は精一杯ウルオメアになろう。


「……俺は――いや“余”はエルミナに逢いたい!」


 余は『はい』を人差し指で押した。

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