第17話 ステータスオープン勇者 勇者ダンジョンに死す
「じゃあ、そろそろ部屋から出ますか」
タカギはそう言って隠し部屋から出た。一歩出た瞬間、身の前の光景がぐにゃりと曲がったような感覚にとらわれた。これは後に続いたベルドモットやジゼルたちも同様であった。
「おかしい……なにか違和感がある」
そうベルドモットは周りを見渡す。戦斧の先に付けたコンティニューライトの魔法の明かりで周りを照らす。
「ジゼル、ここまで記録した地図と合ってる?」
魔法使いのシエラがジゼルに確認を取る。シエラが後方で記録をしていたここまでの記した地図と先頭を歩いていたジゼルとの記憶を重ねる。
(いや……ここは元の場所じゃない)
冷静な表情をしながらもステータス画面で地図を開いていたタカギは、自分たちがいる場所が未知の場所であることを知った。そこにはマップは記されていないが、右上に地下10階と記されていたからだ。
(やべえ……おそらく、あの部屋から出ると発動するトラップがあったんだ。ワープで下の階に飛ばす極悪な罠)
ゲームで言えばプレーヤー泣かせの罠である。レベルと合わない場所からの生還は、スリルはあるが一歩間違えば全滅である。
「どうする、ここは安全策を取って指輪の力を使うか?」
そう言ったのはベルドモット。しかし、金の亡者たる僧侶のホーキンスが反対する。ここがどこか分からないからもったいないというのだ。確かにここが地上に近い場所なら指輪を使うのはもったいない。
だが、タカギは知っている。ここは地下10階。このパーティはピンチに陥っている。
(くくく……俺がいなきゃね。ここは指輪を使って逃げ出すのが得策。だけど、俺がいるからここは逃げるんじゃなくて、進むべきだね。いっそ、このダンジョンを攻略してしまうってのもいいんじゃない?)
そんな気楽なことを考えていたタカギは、通路の先から大きな地響きと共にこちらへ向かってくるものを発見した。
青き炎の魔神 攻撃力650 防御力700 魔力560
魔法無効化能力90% 氷系の強魔法を使う。
**の*道化師 攻撃力20 防御力30
魔法無効化 55% 特殊攻撃 ***
「あああ……」
ベルドモットがそう唸って一歩も動けないでいる。それはタカギ以外の全員がそうであった。先ほどのレッサーデーモンなど問題にならない強大な悪魔が目の前に現れたのだ。
(青き炎の魔神ね……確かに数値を見る限り、かなりのもんだ。だけど、俺がステータスを操作すれば数値的には格下。楽勝、楽勝……)
ここでこの強大な悪魔を倒せば、自分はこのパーティの中で絶大な信頼を得られるのは間違いがない。先ほどのシエラなんか、間違いなく自分に惚れるだろう。もしかしたら、無表情の美少女エルフも心が動くかもしれない。
「心配ないですよ。みんなでやっつけましょう」
タカギはそうなんでもないかのように呼びかけた。その言葉にみんなきょとんとしている。
「タカギ……あの悪魔はともかく、後ろの奴は嫌な予感がする」
そう囁くようにタカギに忠告したのはジゼル。タカギもその忠告には頷いた。その小さなモンスターは慎重は150センチくらい。ジゼルと同じくらいの身長で、格好が滑稽であった。赤い髪の女の子のようだが城にいる道化師のコスチュームに身を包んでいるのだ。武器は手にした木製と思われる杖。それだけを見れば危険な感じはしない。
(確かにステータスが一部**で隠されているには気になる。これまでこんなことはなかった。だけど……)
攻撃力や防御力の数値からすると大したことはないとタカギは判断した。道化師の格好をしているとはいえ、見た目は小さな女の子である。自分以上に強いとは思えない。
シュバ、シュバッ……。
ジゼルが道化師の女の子に向かって矢を放つが、素早い動きで矢をかわしていく。タカギもこの道化師が気になったが、それよりもステータス的に強い魔神を倒す方を優先した。
「ファイアーアロー!」
シエラが魔法を唱えたが魔神の魔法無効化能力の前にかき消される。さらにベルドモットが戦斧で斬りかかったが、魔神の固い皮膚で弾かれる。
「@~+$#&“@@>><?$#」
青の魔神が呪文の詠唱に入る。それが古代語で唱えられた上級の氷結魔法『アイスストリーム』であることをタカギは知った。これを喰らえばタカギはともかく、他のメンバーはここで死んでしまうだろう。一刻の猶予もない。タカギは魔神めがけて跳んだ。
「このおおおっ!」
タカギは自分の剣を魔法で強化し、袈裟斬りで魔神にダメージを与える。さらに下から斬り上げ、最後は脳天から一閃する。
強烈な3連撃。だが、魔神は詠唱を止めない。
(くそ!)
「ダブルアクセル!」
タカギは自分に倍速の魔法をかける。もう一度、同じ攻撃を2倍にして行う。勇者タカギによる6連撃である。
「グギャアアアアアアアアッ……」
さすがの青の魔神も存在を維持することができなくなった。同時にタカギのロングソードが折れて地面に転がる。タカギのすさまじい剣圧に量産品の剣は耐えられなくなったようだ。
「ふっ……これで終わりだ。ジゼル、ここは安全策を取って指輪の力で帰ろう」
タカギがそう言って振り返った時、信じられない光景が目に入った。あの道化師の女の子が、僧侶のホーキンスの首を打ち落として右手にもち、ベルドモットに巨大な鎌をを突き立ててとどめを差そうとしているのだ。あまりの恐ろしさにシエラは腰を抜かして顔面蒼白で震えている。
「なっ……」
タカギは攻撃に移ろうとしたが、自分の剣が折れてることに気づいた。右手の剣は折れた断面が怪しく光るのみ。
「タカギ、危ない!」
エルフの少女の叫びが耳に入ったとき、タカギの顔の前に道化師の女の子の顔があった。
「ケケッ……死ネ……」
「えっ?」
タカギは首が熱いと感じた。
そしてここへ来て、ステータス画面が開く。
地獄の女道化師 攻撃力20 防御力30
魔法防御55% 特殊攻撃 首狩り 防御力無視のクリティカル攻撃。その容姿に騙され、弱いと思って油断すると後悔することになる。攻撃は全て特殊攻撃。最も警戒すべき魔物である。手にした杖は擬態で大鎌と化す。
(うそだあああ……早く教えてくれよ……)
即死である。
即死ではさすがの勇者でもいかんともしがたい。
だが、タカギは勇者らしいことをした。彼が時間を稼いだおかげでジゼルはシエラと重傷のベルドモットを連れて指輪の魔法を発動させることができたのだ。
絶望的な状況から、辛うじて3人が生還することにつながった。彼らのギルドへの報告から、タカギは勇者として語り継がれた。しかし、多くの人々が実際に目にしたことのない彼の功績はやがて忘れ去られてしまったのであった。
残念な勇者 その2 ステータスオープン勇者
モンスターのステータスを見抜き、自分のステータスも操作して戦うことで戦闘においては無敵である。結果が分かった戦いにしだいに緊張感がなくなり、最後は油断から命を落とす。
勇者ウォッチャー ジゼル・ハートレイヤー
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