第29話 成長を感じる冒険者
教室の窓から外をふと見る。
校庭の桜はとっくに花が散り、もう直ぐ4月も終わろうとしとった。
散った桜が葉桜になって移ろい行くように、ウチの生活も色々と変わっている。
ふっ……我ながらウチの詩的センスが怖いで……。
一番大きな変化と言えば、第3層に到達して新しい動画を撮影する環境が整ったことや。
…………………
【ステータス】
氏名:掛田 志保
レベル:7/100
必要経験値:700(現在450)
体力:75 ≪基礎5・レベル補正70≫
攻撃力:58 ≪基礎3・レベル補正35・装備補正20≫
防御力:46 ≪基礎5・レベル補正21・装備補正20≫
魔防力:10 ≪基礎3・レベル補正7≫
【装備】
鉄の剣:攻撃力20
鉄の鎧:防御力10
鉄の盾:防御力10
…………………
スマホを取り出して確認したステータスも、かなり上昇しとる。
第3層に行けるようになったんも、地道にゴブリンを倒してレベルを上げて、スライムとの戦闘を連続でこなせるようになったんが大きいな。
あいつらは防御力を無視して来るから防具を変えても意味ないのがホンマにいやらしいわ。
まあ、言い換えれば防具を買い替える必要がないから、その点は助かってるんやけどな。
「あっちは逆に変化なく相変わらずやけどな……」
再び窓の外を見ながら最近のことを思い返す。
魔王のネタには困らんかった。
突然くっそ長いメールを送って来て、何日かおらんなったと思ったら、帰って来た途端にまたしても詐欺グループが捕まったニュースが流れるという。
というか、魔王がスマホを手に入れたこと自体が大きな事件かもしれん。
まあ、お母さんは学生の頃から株のトレードでお金稼いどるみたいやし、魔王がスマホないとウチも困るからええんやけど。
「何を外を見ながら独り言を言ってるん?」
葉桜への視線を遮るように美優が目の前に現れる。
「ああ、美優か」
「『美優か』って、随分と薄い反応やな」
「いや、ちょっと自分の成長を感じてたんや」
「うーん……」
上から下まで丁寧に美優がねっとりと視線を送る。
特に上半身の一部に関しては3度見くらいする。
「見た感じ成長したようには見えないけど……」
「外見の話ちゃうわ! もう! センチな気分が台無しやで!」
「ぷっ……ご、ごめん。ふふっ……志保がセンチな気分とかおもろすぎて我慢できへん……あははは!」
その後、美優が大声で笑い始めたところで丁度昼休みが終了する。
全く我が親友ながら失礼な奴やで!
ええい!
こうなったら今日はダンジョンに潜って、この怒りをモンスターにぶつけたるからな!
学校が終わるや否や、遊びに誘おうとする美優を振り切る。
気合十分で帰宅すると、リビングでオオサンショウウオ君と戯れていた魔王を部屋に呼びつける。
「魔王! さっさと次のモンスターを倒すで!」
「う、うむ。吾輩もそのつもりであるが、突然どうしたのだ?」
「ウチにも色々とあるんや!」
「そ、そうか……」
魔王に乙女心を説明するだけ無駄やからな。
こういうときはゴリ押しに限るで。
「第3層からはオークとゾンビが出て来るけど、もちろん次に倒すのはオークやでな? 単純にウチはゾンビと戦いたくないし」
ゾンビの戦闘力自体は今のウチでも勝てるレベルであり、特別強力なモンスターというわけやない。
ただ、とにもかくにもゾンビが噴出する体液がこの上なく臭いんや。
ダンジョンを出るまで斬りつけた剣も匂うらしいし、ゾンビ以外のモンスターが寄り付かんなると言われるほどや。
「お前の言わんとしていることは理解している。だが、いずれはゾンビと戦うこともあると思うぞ?」
「うぅー、どうしても戦わなアカンか?」
「別に動画のために無理に戦う必要はない。が、ダンジョンに潜って居れば戦わざるを得ない場面も出て来るだろう」
「ぐっ……そのときはしゃあないから覚悟決めて戦うわ」
女は度胸や!
いざとなったら腹を括るしかないわ。
「なれば、まずはオークのステータスを探らねばな」
「いつもの通りやな」
「特に今回は事前の準備が必要になるだろう」
魔王がいつも以上に真剣な顔で訴えてくる。
その顔を見て、オークについてのおさらいをせなあかんと判断する。
「確かオークってゴブリンと違って武器を持ってるんやったな」
オークはゴブリンと異なって棍棒を所持しており、リーチを生かした攻撃をしてくる。
しかも、冒険者と同じく、どうやら棍棒分の攻撃力ステータスが盛られとるらしい。
魔王とこの前一緒に見た動画では、素手と棍棒でオークの攻撃力が違うことを検証してくれとる動画も存在しとった。
ゴブリンを倒せるようになって、調子に乗っとる初心者冒険者の鼻をへし折るモンスターとして知られとった。
「うぅ、なんか改めて確認すると、強そうやなぁ……」
「なに。いきなり倒す必要はない。いや、倒せそうなら倒せばよいが」
「まあ、無理はせんとくわ。せっかくついた自信が失せてもいややし」
「ほう。冒険者としての余裕が多少は生まれたようだな」
確かに魔王が言うように、オークを倒されへんかもしれんことに対して、焦ることが無くなっとる。
「戦士として良い傾向である」
「いや、ウチは別に戦士になるつもりはないんやけど……」
やっぱり魔王の価値観はどっか日本人とはズレとるわ。
「それはもったいない気もするが、まあよい。それで今からダンジョンへ行くか? それとも学校から戻ったばかりであるから明日にするか?」
「ステータスをゲットするだけやから今日やっとこうや。というか、今日はダンジョンに潜って暴れたいんや!」
「元気なものだ」
「若さには自信あるで」
「では、その若さとやらを見せてもらうとしよう」
魔王にガッツポーズをして意気込みを見せつける。
魔王もガッツポーズは分からんみたいやけど、こっちの意図は察してくれてようで力強く頷いてくれた。
勢いよく部屋を飛び出して、ダンジョンへと向かうとお母さんに声を掛ける。
「あ、志保」
「うん?」
「帰りに牛乳買って来てね」
「う、うん。わかった」
何だか少しだけ勢いを削がれてしまった。
けど、やっぱりウチはお母さんには勝たれへん。
牛乳はオークのステータス以上に重要な任務や。
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