第43話:見音様が一番です
楽しそうにじゃれ合う広志達を見て、羨ましそうなことを言った鈴木と佐藤に、
「いやいやいや、見音様。全然羨ましくなんてないですからっ! もちろん見音様が一番素敵です!」
「そうそう! 俺達はこの世で一番美しい見音様のそばにいるのが、一番楽しんですよぉ!」
「ふーん。信じられないわ」
「嘘じゃないですって!」
「ホントにホントですったら!」
見音は二人をジトッとした目つきで睨んでる。鈴木と佐藤は、マンガならきっと頭の上に汗が飛び散ってるような焦った表情だ。
「ホント?」
「はいっ、ホントです!」
「神に誓ってマジです!」
しばらく彼らをジーっと睨んでた見音の表情が突然緩んだ。きつかった猫目は目尻がちょっと下がり、とても優しい笑顔になる。口元も緩んで、そこからふわりとした優しい声が漏れた。
「ふふっ。わかった。信じるわ。いつも私のためにありがとうね♡」
今まで見音が見せてた無表情とも冷たい表情ともまったく違う、とっても柔らな笑顔。
西欧系ハーフのような整った顔が柔らかく変化して、広志が見てもドキッとするくらい可愛らしくて美しい。ホントに魅力的だ。
「あっ、可愛い」
「ホントだねぇー」
凛と伊田さんも思わず口にしてしまうほどの可愛さ。
「見音様ぁ! 信じてくれて、ありがとうですぅ〜」
「見音様〜 一生ついていきますー!」
鈴木と佐藤はフニャリとした顔になって、見音にすりすりと擦り寄ってる。彼らは見音のこのギャップにやられてるに違いない。
ツンデレというのとは少し違う気がするけど、あのツンツンした感じからの、この優しくてとろけるような可愛らしさ。
去年の人気総選挙3位に輝いた見音の凄さは、まさにここにあるんだってところを見せつけられた。
「ねぇ八坂さん」
「何かしら?」
急に伊田さんが見音に話しかけた。
「そんなに疑うなら、八坂さんも一度空野君と付き合ってみたらいいよ。空野君がホントに素敵な人だってわかるから!」
「えっ? 付き合う? 私が? 空野君と?」
見音は急にあたふたし始めた。どうしたのかと広志が不思議に思ってると、取り巻き君が口を開いた。
「見音様は今まで男と付き合ったことがないのに、そんなことを気軽に言うな!」
「えっ? そうなんだぁ!? 意外だぁー!」
伊田さんが目を丸くして、驚きの声を上げた。
「鈴木君! いらないことを言わないでいいの!」
見音にギロッと睨まれて、鈴木は顔を引きつらせて慌ててる。
「いや、あの、見音様は高嶺の花すぎて、釣り合いが取れる男がなかなかいないんだ!」
「そうだそうだ! そんなのちょっと考えたらわかるだろ?」
佐藤も横からフォローの合いの手を入れる。あわあわしてる二人に伊田さんは苦笑いして言った。
「付き合うって、男女交際の意味じゃないよ。友達付き合いをしたら、空野君の魅力がわかるよって意味だよ」
「えっ? あ、そうなの?」
それにしても見音はこれだけの美人なのに、男性と付き合うことには慣れてなさそうなのが意外だ。
大金持ちのお嬢様って話だし、いわゆる箱入り娘で、そういうことには疎いのかもしれない。
まあいずれにしても、世界三大美女の一人、八坂 見音の人となりを少し垣間見れて面白い。
そうは思うものの、これ以上この三人のコントみたいなやり取りに付き合うのは疲れる気がする。
「あ、あの……僕たちは、もう帰ってもいいかな?」
見音は無表情に戻って凛と伊田さん、そして広志を順番に眺めた後、
「そうね。でももう私にぶつからないように、これからは気をつけてくださる?」と言った。
「あ、ああ、もちろん」
「じゃあ、帰っていいわ」
なんだかやっぱり上から目線だなぁと思いながら、広志は「ありがとう、じゃあ」と答える。
広志達が見音の横を通り過ぎようとする時、彼女は独り言のように呟いた。
「空野君……ホントはどんな人なのか興味が湧いてきたわ」
その言葉は凛と伊田さんには聞こえない小声だったけど、広志の耳には届いた。
「えっ?」
すれ違いざまに広志が見音の顔を見ると目が合って、彼女は薄く笑みを浮かべた。
(どういうことだろう?)
広志は疑問に思ったけど、何も言い返さずにその場を離れた。
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