伊田 天美編
第8話:三大美女の一人・伊田 天美
昼休みに突然
広志はワケがわからず固まって、嬉しそうに笑う伊田の顔を呆然と眺めた。向かいに座る田中健太は目をぱちくりさせながら、伊田さんと広志の顔を交互に見比べている。
「きょ、興味って、なんの?」
しばらく固まっていた広志がようやく口を開くと、伊田さんはニコっと笑って「色々!」と力強く答えた。
(色々って……答えになってるようで全然なってない。ワケがわからん)
「で、僕のことを知りたいってどんなことを?」
「色々!」
「ふーん」
あまりに訳がわからなさ過ぎて、なんとも答えようがない。
「だからね、ちょっと付き合って」
「え? どこに?」
「カフェ・ワールド。お茶飲も」
世界高校には学食が三つあって、一般的な学食イメージのカフェテリア形式の食堂と、小洒落た洋食屋さんと、そして軽食と飲み物のカフェ・ワールド。
世界高校では学食が三つあることと、昼休みが1時間半もあるおかげで、ゆったりとした時間を過ごすことができる。
その時間をスポーツに使うも良し、芸術活動に使うも良し、のんびりしたり、仮眠を取るも良しということになっている。
それがまた生徒達の才能を伸ばす一因になってるらしい。
仮眠を取ると脳の集中力が取り戻せるということで、世の中には全生徒で一斉に仮眠を取る学校もあるらしいけど、世界高校では昼休み時間の使い方は生徒の自主性に任せられている。
広志は隣の席に座る凛をチラッと見た。凛はニコリと笑顔で返す。行ってらっしゃいというメッセージだ。
「うん。別にいいけど、僕なんかと話しても、何も面白いことはないよ」
「面白いかどうかは、話してみないとわからないぞっ」
大手カフェチェーンみたいにお洒落な雰囲気のカフェ・ワールドに入って、カウンターで二人ともアイスコーヒーを注文した。二人分のコーヒーを乗せたトレーを広志が持って、壁際の二人がけ席に座る。
「おい、あれ伊田さんだろ。男と二人でいるよ」
「あっ、ホントだ。なんだか地味な男子だけど、彼氏か?」
「んなワケないだろ。クラスメイトか、陸上部の人じゃないの?」
「伊田さんに彼氏がいるなんて、聞いたことないぞ」
僕たちを見かけた生徒のあちこちから、ヒソヒソ話すのが聞こえてくる。
高校生が学校内で彼氏・彼女じゃない異性と一緒に行動するなんて、別に珍しいことじゃないのに。人気ランクベスト3ともなれば、すぐに噂になって大変だ。
ましてや彼氏ができたとなったら、周りからどんなふうに言われるかわからない。そう考えたら、人気者は精神的に大変そうだ。
(やっぱり凛みたいに、周りにどう思われてもいいって割り切った方が良いのかも。でもそうは言っても、周りの評判が気になるのが人間ってヤツだもんなぁ)
人気者って羨ましがられるけど、実は結構大変なんじゃないのかと、広志は少し気の毒に思った。
「で、どんな話を聞きたいの?」
広志が笑顔で伊田に問いかける。
「空野君ってさ、
おぉっ、いきなりのど直球。しかも笑顔でハキハキと訊いてきた。まあ、正直に答えるのが一番いいかと広志は思う。
「そうだよ」
「ほぉー。じゃあなんで付き合わないん?」
ずかずかと人の心の中に踏み込んでくるような会話だけど、伊田さんの話し口はサバサバとしてて嫌味がない。
だからごく普通の会話のように思えるし、広志も腹を割って話そうという気持ちになる。
だけど──
「悪いけどそれは言えない。色々事情があってさ。関係する人に、嫌な思いをさせたくないし」
妹が辛いことがあったせいで兄に精神的に依存してるから、他の女の子と付き合うわけにいかない。
茜も凛も、こんな事情は他の人に知られるのは嫌だろうと思うから、言わない。
「そうなのか。内容はわからないけど、深い事情がありそうだね。そうとは知らず、そんなことを聞こうとした私が悪かったよ。ごめん!」
伊田さんはテーブルに両手をついて、深く頭を下げた。
(頭を下げるなんてことまでしなくてもいいのに)
話し方がちょっと男子ぽいけど、ホント誠実で爽やかな子だ。
「いや、伊田さんってめっちゃ爽やかだし、ホントはなんでも腹を割って話したいって思える人だね。伊田さんとは初めて話すけど、そういう魅力があるよね」
「え?……」
「でも、そういうことだから、ごめんね」
「いや、こちらこそ……」
伊田さんは、少し照れたように頭を掻いてる。
「それが伊田さんが、僕に聞きたかったこと?」
「まぁそれもあるけど、人気投票で2票獲得した空野君って、どんな人かと思ってね」
伊田さんは広志を真っ直ぐに見て、興味深そうにニコリと笑いかけた。
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