入学編第八話 来校

 朝、ラノハは自分たちの教室にて、セフィターが来るのを待っていた。

 他の生徒たちも、自分の席に座って各々周りにいる者と談笑している。

 シルア、シルンと話していたミリアは、ラノハに声をかけた。


「ラノハは誰が来ると思う?」


「……なんの話だ?」


「特別講師の話だよ!もう!」


「ああ……。その話か……。はっきりとは分かんねえけど、多分……」


 ラノハがその先を言おうとした時、教室のドアが開いてセフィターが入ってきた。

 それにより、生徒たちは一斉に私語をやめる。

 教室が静寂に包まれていることを確認したセフィターは、その静寂を切り裂くべく口を開いた。


「おはよう諸君。早速だが、今日の特別講師を紹介しようと思う。お二方。どうぞ入ってきてください」


 セフィターがそう言うと、教室のドアが再び開いて、二人の男女が教室の中に入ってきた。

 その姿を見た生徒たちは呆然とし、驚きを隠せなかった。

 なぜなら、この二人の男女は彼ら生徒たちにとっての憧れであり、尊敬している存在だからだ。

 その二人の男女は、生徒たちの前に立つと小さく一礼した。

 そしてその後、その男の方が生徒たちに向かって話し始めた。


「皆、はじめまして。ジーク・スパルドだ。隣にいるのは私の妻のリム・スパルドだ。今日は、特別講師としてここに来た。今日一日、よろしく頼む」


「リム・スパルドです。よろしくね」


 なんと特別講師として来校したのは、ミリアの両親であるジークとリムであった。

 これにはラノハとミリアも驚いたが、ラノハは多少なりとも予想はしていた。

 なぜなら、ジークとリムは二人で『最強夫婦』と称されるスミーナ国の最高戦力であり、ジークに至ってはスミーナ国内で初めて聖装竜機を動かした伝説的人間である。

 そんなスミーナ国が誇る二人がこの竜機操縦士育成学校に特別講師として来校することは、後継の育成という面において、ある種当然のことだろう。

 だが、それだけではなく、裏にはスミーナ国の思惑があった。

 邪装竜機の侵攻から十年がたった今現在、スミーナ国とルマローニ国は所謂膠着状態にあり、いつ戦争が起こってもおかしくない状況なのだ。

 講和条約が結ばれていたとはいえ、十年も経てばもはや意味を持たない。

 現にスタッツ街からの報告によれば、ここ数年、エリス村周辺でルマローニ人の数が目に見えるほど増えているようなのだ。

 スミーナ国はこの事実により、開戦は近いと判断し、竜機操縦士の育成に更に力を入れ始めた。

 今回のジークとリムの来校も、この一環であろう。

 竜機操縦士の人数は増えてきたとはいえ、まだまだ少ない。

 故にスミーナ国は、たとえまだ学生であろうとも戦力として見ているのであろう。

 だが、生徒たちはそんなスミーナ国の思惑など露知らず、『最強夫婦』と名高い二人に教えていただけるという事実に興奮していた。

 そんな生徒たちの興奮を知ってか、セフィターがこう言った。


「君たちも一刻も早くこの方たちに教えていただきたいだろう。よって、すぐに移動する。今回は長時間聖装竜機に乗ることになるので更衣してから来ること。では、すぐに動け」


「「「「はい!」」」」


 セフィターの言葉を聞き、生徒たちは一斉に更衣室に向かい始める。

 だが、ラノハただ一人はセフィターの元に向かった。


「先生。俺は剣の訓練に行ってもいいですか」


「駄目だ。今日は一年が聖装竜機の授業をほぼほぼ一日使うため、二、三年生がそこを使っている。邪魔にならないようにしていろ」


「……なら、家に帰らせてもらいます。この学校で出来ることがないなら、家に帰った方が有意義だ」


「……好きにしろ」


 セフィターから許可をもらったラノハは、支度を済ませて教室を出る。

 そしてそのまま、本当に帰ってしまった。

 ジーク、リム、ミリアのスパルド一家は、そんなラノハを悲しそうな表情で見送るのだった。

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