第322話恋


考えろ。クライス何処にいる?


「申し訳無いけど色々と回って貰う事になるけどガソリン大丈夫?」

我が家の運転手に聞くと大丈夫ですよ?何処に向かいますかと聞いてきた。

「クライスの自宅へ。」


本当に居ないか確認へ向かう。

クライスの車は無いか・・・。じゃあ。

「すまない。学校へお願い。」


レッスンルームかなと予想。

頼むよ。居てくれ。学校に入り駐車場には車は無かった。

「どうします?」

「ちょっと待ってくれ。」


考えろ。僕がクライスなら何処へ行く?

思い出の場所。


もし・・クライスがあの時からなら・・。


「プラナタ山の登山口に向かって下さい。」

運転手は笑顔で頷いた。

山までは結構遠い。

もし、居なかったら。もうコンサートに間に合わない。

頼むから居てくれよ。それでなくてもギリギリなんだよ。


クライス。本当に僕で良いのか?

まだ世間体や将来を考えて迷う自分がいる。


あっ・・・。車あった!

「ごめん。ちょっと待ってて!」

急いで降りてバートリー家の車の運転席をノックした。


「あの。クライスは?」

運転手に尋ねると

「クライス様はパルドデアやアーシェンバードの皆様にプラナタリング茸をご馳走したいと言って山に入られました。」


クライスぅー!!プラナタリング茸が採れるのは春先から夏にかけてだよ。絶対、逃避だ。

「警護人は?」

と聞くと以前行ったから大丈夫だと言われて・・・。お一人でと少し気まずそうに運転手は答えた。


仕方ない。登るか!

運転手に愛想笑いでお礼を言って僕も登山を開始した。


僕、1人だしこの前より早く行けるだろう。居るとしたら多分あの山小屋だ。小一時間あれば登れる。

それで説得して下山。本当にギリギリだ。


初秋の登山はまだ紅葉はしていないがまた春先とは違って気持ち良い。


登山中はクライスの事ばかり考えていた。


恋ってこんなに辛いんだな・・。

でも、クライスの顔を見たり話したりそうすると嬉しくて仕方なくなる。

こう言う気持ちに慣れていない自分。


「湧き水か。」

本当にもう少しだな。

ガブガブと飲み喉を潤す。


しかし、歌う為に鍛えてきたけどルイスやルナリー程に簡単に登れない。

結構、疲れてきたぞ。もう少し。クライス待ってろ!


山小屋が見えて大きく深呼吸する。

ちゃんと言えるかな。


トントントントン!!

山小屋のドアをノックした。

「クライス!居るか?ケビンだ。」

反応は無い。


もう強行突破!

ドアに手をかけて開けようとすると開かない。

いや!クライスが引っ張っているんだ!!


「こら!クライス開けろ!」

「嫌だ!!」


「ちゃんと返事するから。気持ち伝えに来たんだよ!」

「今、言ってよ。」

クライスとのドア開け攻防は続く。本当に困った奴だ。


「顔を見ないと言えない!!」

「じゃあ、開けない!」

クソ。

僕はドアから手を離した。


「クライス!僕は君が僕を好きになる前からずっと好きだった。」

「嘘・・。本当に?」


「ああ。南ピアーナ国に行った時からだよ。ずっとだ。」

本当は前世からずっと君の事が好きだったんだけど。


そっとドアが開いた。


クライス・・・。


顔を見ると安堵と共に気持ちが爆発しそうで涙が溢れた。

「入るよ。」


クライスは少し気まずそうな顔で

「ごめん。」

そう言って頭を下げた。


「僕の方こそごめん。クライスの気持ちは本当に嬉しかったんだ。僕も君が好きだから。でも、クライスは跡取り息子だし将来は結婚しなきゃいけない。その後の跡継ぎも必要になる。そう言う事を考えるとさ。」

そこまで言って胸が苦しくてまた涙が落ちた。


「会長・・・。」

クライスがそっと近づいて来て僕の頬の涙を拭う。


「僕は女性とは結婚しない。会長と・・ケビンとずっと一緒に居る!」

そうは言っても世間体とか色々あるんだよ。

「何とかなるよ!ほら!養子を貰う!それが無理なら妹の子供が跡継ぎ!」

そんな真剣な顔・・・。

でも、その発言・・。

「クライスさあ、ジェファーソンとかルイスやルナリーに似てきたね。」


そう?とクライスは笑う。

全く、能天気と言うかなんと言うか。


「ケビン。大好きだよ。僕と付き合って下さい!」

改めてクライスは真面目な顔でそう言った。

恋は辛い。でも、甘い。

その大好きと言う言葉だけで世間体や将来の不安なんて帳消しに出来る力があるんだな。知らなかった。


「僕も。クライスが大好きだよ。付き合いたい。」

クライスが満面の笑みで僕に抱き着いてきた。

心臓の音・・。煩い。


「ヤバい!クライス!時間が無いんだよ!」

コンサートの時間が頭を過ぎる。

「あー!そうだ行かないと!」


お互いクスクスと笑い会いながら山小屋を出た。

「ほら。クライス手出して。」

クライスは嬉しそうに手を取った。


・・転ばない様にと思ったつもりだったんだけどね。結果オーライかな。


「もし、僕が迎えに来なかったらコンサート出ないつもりだったの?」

そう聞くとクライスは小さく頷く。


「だって。気不味いし。」


本当に間に合って良かったよ。あの日のキノコ狩り思い出して良かった・・・。



・・・・・・・・・・・・


その頃の国立音楽ホール



「お客様入り始めましたね。」

王子が不安そうな顔で私とキャサリンを見る。


「キャサリン?本当に喧嘩?」

王子のツッコミにキャサリンの目が動揺している。

もう、仕方ないな。

「ルイス!王子!キャサリン、こっちで話そう。」


3人を呼びつけて会長とクライスの話をきちんとした。


「やっぱり。何だかんだで10年以上の付き合いですから。解りましたよ?」

王子は微笑んだ。


「俺・・。全然解らなかった!!」

ルイスはこんな感じで。私と似ていてそれで良いと思う。


「間に合わなくても。最初の曲はルナリーメインだから何とかなる筈。」

王子は3曲目までには来て欲しいですね。と難しい顔で最悪、曲順変更かなとブツブツ悩み中。


「取り敢えずさ。皆には内緒にしといてよ。会長も将来を1番悩んでいたし。」

「そうよ。付き合わないって事になるかもしれないし!」


大丈夫だと思うんですけどね?と王子は微笑みながら皆の元に戻ると

「もし、クライスが振られたら慰める!でも会長を責めたりしない!」

「そうですね!上手く行ったら祝福しましょう。」

何かカイン、エミリア、ジョージの間でもそんな話になっていて。


皆、お互いの事を良く解っているんだなあとしみじみ思った。


「じゃあ!2人が来るまで頑張って盛り上げましょう!」

王子の掛け声に全員でおー!!と気合いを入れる。


開演10分前のブザーが鳴った。


間もなく国立音楽ホールコンサート開演!

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