第24話 神電池実戦・対阿吽バランス
最初の対戦相手は
「嫌です~! この前みたいに怖い人がいるに決まってますう~!」
「古都の平和のために我が身を盾にするんだろうが!」
放課後、駄々をこねる幽香を校内を上へ下へと追い回し、雨樋を伝って壁を這いながら逃げるのを捕まえ、決闘場へ引きずっていった。
相手の指定に応じて町はずれの八幡神社へ赴く。寺社を荒事の舞台に使うのは不敬の極みであるがシステム上やむを得ないことだ。
「帰る帰る帰ります~!」
往生際の悪い女にゲンコツをお見舞いして祓詞で身を清める。
「祓へ給へ清め給へ。祓へ給へ清め給へ」
制服のジャケットの下のガンベルトに触れ、ポケットの携帯ラジオも電源を入れておく。事前確認を終えて鳥居をくぐると、神楽奉納のときに使う舞殿で横になっている奴が見えた。
「そこで寝るな。罰が当たるぞ」
「おうっ! 来たか来たか待ち焦がれたぜ!」
無作法を注意すると、髪を真っ赤に染めた若い男が起き上がった。
その隣には、同じく真紅の長髪の男が一人。
やたらと身長差がある。声のでかい男が160センチ台前半なら長髪は180超えだ。二人とも濃紺の作務衣の上から〝正一位〟と刺繍された青海波柄の半纏を羽織っている。
「おうおうおう! まずはビビらず来たことだけは誉めてやるぜ」
小さいほうが歩みよって俺を下から睨みつけた。
忿怒に揺れる炎の瞳。髪色とも相まって頭が燃えているみたいだ。
「おうおうおう! お誉めにあずかって光栄だぜ!」
怯んでならじとこちらも眼力レーザーで対抗、眼球が乾燥しそうだ。
「やややっぱり怖い人がいたあ~!」
もはや説明不要のプリンセス・オブ・チキンは、凶悪さんタイプのオラオラ系の出現に怯えまくって俺の後ろで縮こまっている。
「名乗らせてもらうぜ。オレは阿吽バランスの阿を司る突撃隊長・
「ん」
長身長髪の男は眉ひとつ動かさず最小の発言で答えた。
視線もしっかり前を向いているのだが、どことはなしに上の空みたいで何もかもが対照的な二人である。
ところで阿吽バランスというチーム名には聞き覚えがある。
「這月那月の根室重光だ。後ろの女は根室幽香。あんたら、もしかして青銅の孔雀に闇討ちされたっていう……」
「闇討ちどころじゃねえ! いきなり頭に袋かぶせられてバットで殴られまくって全治三週間! 退院できたのが一昨日のことよ」
「退院おめでとう。しかし、なぜ俺たちにケンカをふっかけるんだ? むしろカタキを取ってやったんだから感謝されてもいいだろう」
「何ゆえええええ⁉」
顔芸すさまじい澤合浩蔵は目を血走らせた。
「おいヒョウ! サンピンどもに俺の胸の内を説明してやれ!」
「ん」
痩身長躯の青年は、そう言ったきり黙した。
「通訳するぜ――コウは退院したその足で、あのピーコック野郎を血祭にあげてやろうと準備していたのに、新人のてめえらごときにヤツの首を持って行かれちまった日にゃあ、リハビリに励みながらベッドの上で練りに練った報復戦術も水の泡、怒りの持って行き場に困った挙句にてめらにケンカを売ると決めた――と言ってるわけよ」
「いや、〝ん〟としか言ってないし」
「うるせえ! ヒョウは口下手なんだよ! 人には得手不得手があるんだから、他人の意志を代弁するのが不得意な奴に代弁を頼んだら本人が代弁してやってもいいだろうが!」
「代弁じゃねえよ! 最初からあんたが言ったほうが早いだろ!」
「早いのがお好みなら、お礼も兼ねた祝砲を食らいな!」
浩蔵とやらがストレートを放つ。なるほど速い。
いいパンチだったが、なにぶん直線軌道なので見切りやすい。ヒョイとかわすと負けん気盛んな男は勢い余ってのめり伏す。
ずいぶん脆い。ダメージが回復しきっていない印象を受けた。
「なかなかやるじゃねえか……だが、有頂天になるのは早い。酒屋空手二段のオレの突きを初見でかわせた奴はおまえで九人めだぜ。つまり、てめえぐらい珍しくもねえってこった!」
妥当な人数である。かわす難度は低めの技だ。
「これしきでくたばるオレじゃねえ。オレを墓に埋めたかったら両手両足もいで、心臓に鉄の楔を打ち込んでからにするんだな。それでもオレの
立ち上がるのにガッツを要するほど奴の足元はフラフラだった。
「おまえもなかなか愉快な奴じゃないか」
凶悪さんの同類と見たのは失礼だったな。はるかに健全なタイプだ。
「顔洗って出直してこいってやつですね」
滑稽な転倒劇で恐怖心が薄れた幽香がケラケラ笑う。今日は期待できそうだ。
しかし、病み上がりの人間を嘲笑する態度は生意気かつ無礼である。ほっぺたを摘まむと涙目になるまで捩じり上げてやった。
「いつから底意地悪いキャラになったおまえは?」
「すみませんすみません。気は優しくて力持ち路線に戻ります」
「よせ。敵に気遣われるほうが屈辱だぜ」
赤髪野郎がぺっと吐き捨てた。
「だが今の笑いは高くつくぜお嬢ちゃん? いいな神域移動!」
「心得た」
俺と澤合は同時に五円玉を賽銭箱へ投入する。
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