第6話
「世界?世界が違う?」
意外なことを聞いたという風に、相手は眉を寄せる。
「どうやって、あの場に現れたのだ?警備をどう抜けた?」
「警備も何も、あそこにいる前には、駅のホームに立って電車が来るのを待っていたんです。年度も終わりだし、金曜日の夜で、人も多くて、残業続きで疲れているのに、電車は原因不明で遅れているし、席には座れそうにないくらいに人が並んでて、荷物は肩に食い込むくらい重たいし、紙ってね、一枚は大したことないけれど、束にすると途端に重量が増すのよ、なんで?」
相手の顔が、どんどん困惑しているのがわかる。
落ち着いて話そうと頭でわかっていたけれど話し出すと止まらなくなってしまった。
「やっと来た電車が、すごい風を巻き起こして体がよろめいたんです。家に帰って、速攻寝る計画だったのに。持ち帰っている手順書とか、毎日、馬鹿みたいにでる通知とか次の日にいっぱい寝てご飯を食べて落ち着いて読もうって思ってて、その重さに気を取られて体勢を崩されてしまって。転ぶって思っていたら、あのテーブルの上で」
エドアルドは何か言おうと、口を動かしたが、声にはならなかった。
暫く、頭を抱えて、考え事をしていた。
「ひとまず、名前を聞こうか」
私が語ったことは、全て無視された。
しかし、聞かれたことには素直に答えたほうが良いだろうと思ったが、少しだけ意地悪をしたくなった。
混乱しているのは私も同じ。
何もかも、素直に答えるのは癪だった。
そんな子どもじみた抵抗だ。
「ミキ」
それは、呼び名だ。
本名は違うのだが、どうせここで証明することは必要ないだろう。
それから、生まれた場所や国、仕事、家族のことを次々に質問された。
相手は、答えを聞くたびに調書に書いていたが、ためらうことが多かった。
わからないことが多いのだろう。
言葉をそのまま書くだけではおそらく駄目なのだ。
私の背景を見ることが目的なのだ。
誰に命令されて、本来なら他人が入ることができない場所にどうやって誰にも知られずに侵入できたのか。目的は何なのか。
何より、そこが知りたいに違いない。
「電車、とは?」
「箱型の乗り物。箱の下に車輪がついていてそれで二本のレールの上を走って、人や物を運ぶ交通手段。それに乗るつもりだったの」
「かなり大がかりなものになると思うが?」
「それは勿論。街の中を通るからね。あと、騒音問題は聞くわね、事故もあるし。何より、ラッシュアワーの酷さは言葉にならないわ」
身振り手振りで訴えたが、相手には熱意が伝わっていないようだ。
やはり電気はないし、電車は存在しない。蒸気機関車もまだというところだろうか。
わざと英語、和製英語を混ぜて話してみると相手は複雑な顔をする。
言葉は通じているが、意味は理解できていない感じだ。
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