第9話 修羅場

 ――――――見えた!

 周りには建物が少ないが、廃墟しか無く、その真ん中で高くそびえる木が一本そこには立っている。

 そこで停めたガソリン車の近くにレナが待っているはずだが、その車は置いてあるがレナの姿がない。

 まさか誘拐されたんじゃ!?

 おい、冗談だと言ってくれ!?

 

 俺は急いでその高い木の下に停めていた車に向かうと、車には誰も居なかった。

 誘拐されたと思いながら辺りを見渡すと、その車の近くの木の下で声がした。

 近づくと芝生の上で小さくなりながら爆睡するレナが居た。

 何度も寝返りをしたからか、軍服から着替えた彼女の私服は大胆に乱れ、髪の毛や顔に草が絡まっていたり、くっついている。

 しかも、口からはヨダレが垂れていて、可憐で高潔な美しい姫らしさはどこへ行ったのか。

 俺は気持ち良さそうに寝ている彼女の身体を無理矢理強く揺らして起こした。

 

「おーい!起きろ!!」

「へー、この人がカズト様がゲルマニアに連れていく人ですか。」


 ヴァイスはほっぺを膨らまし不満を示す。

 ヴァイスが何故か不機嫌だ。

 今まで見た中で不機嫌な顔をしている。


「どうした?ヴァイス。」

「いや、別に。………ふーん。」


 いや、だから何だよ。

 すると、話し声で起きたのかゆっくり起きる。


「ふぁーっ…………。」


 レナは大きな欠伸をし、ボーッと俺を見る。

 昼間の太陽の光で一段とキラキラ輝く金色(こんじき)の髪の毛は絡まった草などが起き上がる衝撃で落ちるが、それでもくっついたままが多く、口にはタラッと垂れたよだれが太陽に輝く。

 服は右肩の部分が二の腕までに擦れ、少し谷間が見えていた。

 すると目が醒めるのか段々とレナは俺に気づく。

 

「………って!あなた、いつから居たのよ!?」


 レナは俺を見て、驚く。

 それを見て俺も大声を出すレナに驚く。

 すると、すぐさま顔を隠し背を向けながらレナは呟く。


「ねぇ、私の寝顔、見た………?」


 ああ、これは説教パティーンですわー、間違いない。

 俺は仕方なく嘘を付けばもっと怒ると思いながら正直に答える。

 あー、これは説教パティーンですわー、間違いない。

 俺は仕方なく嘘を付けばもっと怒ると思いながら正直に答える。

 可愛かった。とは言いたかったが、グッと抑える。

 それを聞いたレナは振り向き、顔を赤くしながら呟く。


「ふーん、カズト、貴方覚えておきなさい。次また見たら承知しないから覚悟しなさいよ。」


 意外な反応だったが、怖い顔はしている。

 普通なら殴られるか、罵られると思っていたからまだマシだろう。

 

「ところで、何で遅かったのよ!!情報収集でそこまで時間が掛かるなんて。」

「安心しろ、新聞を買ったし、食べ物も有るぞ!」


 俺はゲルマニア語の新聞と先程のヴァイスの服を買った近くの商店街の屋台で売っていたコロッケみたいなものを買い、それをレナに渡す。


「クロケッテね、私は好きよ。ありがとう。」

「ふう、良かった。庶民の料理には慣れてないとか、食事にワガママが有るのかもしれないと思っていたから。安心したよ。」

「失礼ね!私だって城下町や他の町に偵察するとき勉強の為にいろいろ買うわ。あと、クロケッテは高級レストランにも出るわよ。」


 レナはその彼女が言うクロケッテを頬張っていた。

 彼女のほっぺは膨らみ、まるで少し大きなハムスターがそこにいるような感じである。

 俺もさっき食べてみたが、コロッケというよりハッシュドポテトのようで、そこにニンニクが効いていて美味しい。

 やめられない、止まらないと感じるほどである。

 これならもう少し買っておけば良かったな。

 俺はそんな事を思っていると、レナはジーッと、どこかを見ている。


「ところで、私を睨んでいるイストリアの角人族のあの子は誰なの?」

 

 レナが向いている方向を見ると、ヴァイスがそこにいた。

 レナはヴァイスをじっと睨む。

 ヴァイスもそのクロケッテを頬張っていた。

 そういえばイストリアって何だ?

 国?みたいな名前だけど。

 一応聞いておくか。


「イストリアって?」

「イストリアはユーラ大陸の南東のバルカニア半島に位置する国で、昔は魔族の一民族で今は角人族と呼ばれている人が住む国よ。」

「へー、そうなんだ。」


 空気が凍り始めてきた。

 何故か判らないが、多分冬に近づいて来たからだろう、うん絶対そうだ、そうに違いない。

 だが、ヴァイスが何故かこちらを睨んでいる。

 あくまで想像だが、まるで氷河期に更に冬将軍が到来したような空気がここにある。


「それで、あの子は誰なのよ。」

 

 レナはジト目で俺を見ながら聞く。

 俺は説明しようとする、この空気を元に戻すため。


「ああ、あの子はね………。」


 そう俺がレナに説明しようと言った途端、いきなりヴァイスは何かを察したのか突然近づき俺の右腕に抱きつく。


「私はヴァイス、彼と、その………契りを約束したのです!」


 その発言により、この場の空気が一瞬凍り付く。

 ヴァイスはレナにドヤ顔を決めながらレナを見ていて、

 レナは俺に飽きれ、蔑んだ目を向け、

 そして俺はその場てただ上を見て、

 その状況を目にするのを避けるしかなかった。

 数秒位の沈黙から放たれた最初の言葉はレナの言葉だった。

 彼女は俺を見て青ざめながら言う。

 

「あ、貴方、まさかそういう幼女趣味が………。」

「違う!そんな訳無いだろ!?オイ!いつそんな事をしたヴァイスっ!!」


 俺はレナの発言を遮って、直ぐさま否定し、ヴァイスを叱責する。

 

「わ、忘れたのですか、酷いのですカズト様………。」


 ヴァイスは顔を隠して、泣いている様に見せているが涙は一切流していなかった。

 一方レナは先ほどより一層青ざめ、ドン引きしながら後退りしていた。

 

「カズト、貴方ってそんな下衆な………。」

「だから違うって、俺は年下なんて恋愛感情は持ってないって!」


 その時、ヴァイスは俺の右腕をさっきより強く抱きしめる。

 俺はヴァイスの顔を見ると、悲しそうな顔で彼女は質問する。


 その瞬間、頭に何かが過り、モヤッと感じる。

 昔、こんな事を体験したことがある。

 しかし、記憶に無い。

 だが、頭に過った人は泣いていた。

 何故か俺は頭に過った人とヴァイスを重ね合わせていた。


「そうだな、今は無理だが考えてやる。」

「…………本当ですか?」


 ヴァイスはその場をピョンピョンと可愛く跳ねるが、直ぐに止めた。

 というか、先程から悪寒がする。

 まさか、な。

 そう思った俺はゆっくりとレナの方に顔を向ける。

 レナからエルフとは思えない禍々しいオーラが漂っている。

 俺はそれを見て怯えたのか、慌てて彼女に話す。

 

「さ、先に言っておくが、俺は考えるだけで約束はしていないからな!」

 

 レナは俺を見ながら不満そうな顔をし、「ふーん」と鼻で音を鳴らした。

 顔も今までで一番凄い侮蔑の顔をしている。


「あのー、レナさん?」

「なーに?」

「なんか、怒ってます?」

「べつにー、全然怒ってないよー?」

「はあ、そうですか………。」


 俺は咄嗟に目を逸らす。

 な、なんで怒ってるんだよ。

 只の子どもの話だろ?

 本気じゃないだろ?

 今はそんな事はどうでもいい。

 は、早く話を変えないと。

 このままじゃ、ハ○ジみたいな世界が突然ヒャッハーな世紀末になるような感じがする。

 勿論、あくまで今の話は想像だが。

 そうだ、新聞の話をすれば良いじゃないか。

 俺はレナに首を向ける。

 彼女はドキッとする。


「な、何よ。」

「そういえば新聞、新聞だよ。」

 

 レナは何か残念そうに深くため息をする。


「………新聞がどうしたのよ。」

「気になっていただろ!?だろ?」


 必死に俺はレナに新聞の話に逸らさせる


「そ、そうね、こんな話よりこっちの方が重要だわ。」


 俺は肩の力を抜いて、ため息を少し吐く。

 話題を変えることができた。

 

「ヴァイスは、そうだな………。辺りをフラフラするのは危険だし。」

「大丈夫です。あそこの小川で角や髪の手入れでもしておきます。でも………。」


 ……………でも?


「私に対して身の心配までするなんて、さすがカズト様です!」

 

 ヴァイスは目を輝かす。

 すると、後ろから物が飛んできて、俺の後頭部に強く当たる。


「イタッ!?」

「キャッ!!」


 ヴァイスは驚いて叫び声を出す。

 当たった後頭部に右手を押さえながら後ろを向く。

 何か固いものが当たったが、下を向くと木の枝が落ちていた。

 上を向いて真っ直ぐ見ると、レナがそこに立っていた。

 頬を膨らませ、顔が赤くなっていた。


「………イチャイチャしてないで、早くその子を行かせなさいよ!」

「イチャイチャしてねえよ!ったく………ヴァイス、周りには気を付けろよ。」

「カズト様は大丈夫なのですか?」


 ヴァイスは何故か心底心配するような顔をしている。

 俺は軽くヴァイスの頭をポンポンと叩き、そして軽く撫でる。


「大丈夫だよ、安心しな。」

「良かったです、では行ってくるのです!!」

「おう!」

 

 俺は後ろに体の方向を変え、レナの方向に向かう。

 ヴァイスは微笑みながら小声でボソッと「ありがとう。」と呟いた。

 俺はその時の彼女の言葉には音量が小さすぎて俺は気がづかなかった。

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