人嫌い、学校へ行く

「図書委員ね…忘れてたよ。」


「図書室の解放日、私キズナで送ってたと思うけれど。」


「僕が他人の通知、一つ一つ確認すると思う?」


「全く…見に来て良かったわ。」


それは、秀人がのんびりしようと二度寝に入る直前、鳴り響いたチャイムの主によって教えられた。今日は鳴門学校の図書室解放日、もちろん図書委員は行かなくてはいけない。


「そういの、事前に出れるか出れないか聞くんじゃないの?」


「安心して。この日あなたが休みと、しっかり店長さんには確認済みよ。」


「…まさか参加にしたのかい。」


「たまには学生らしい事も良いでしょう?」


「はいはい。」


しばらく着ないと片付けた制服を引っ張りだし、秀人は彩花と一緒に学校を目指す。


「参考に聞きたいんだけど、休みに借りようと学校へ来る生徒はいるのかい?」


「まあまあよ。本が好きな人はもちろん、感想文や宿題に使う辞書とかが人気かしら。漫画には負けるけれど。」


「漫画ね…読まないから何がいいやら。」


「後は、いつもより借りれる本数が多いの。普段は5冊だけれど、休み中は15冊。シリーズものをまとめ借りする人もいるわね。」


「へー。」


「…もう興味失ったのかしら。」


「考えてみたら、他人の事なんて興味ないしね。」


「はいはい。あと今日はそれ以外に、届いた新刊を配置するわ。」


「初耳なんだけれど。」


「言ってないし、聞かれなかったわ。」


「夏休み前に張り出してあった、希望図書が届いたってこと?」


「そうね。今回は予算が下りたから、ほぼ全て買えたそうよ。」


「…なるほど。」


その言葉を聞いた秀人は立ち止まり、ふいにストレッチを始める。隣にいた彩花も振り返り、その様子から次を予想する。


「…まさかだけど。」


「僕は先に行くよ、それじゃ。」


彩花に一言告げ、秀人は全力で走った。彩花も負けじと走り出すが、秀人の早さには追い付けない。学校へ着いた秀人は素早く職員室へ行く。


「おー高山じゃねえか。」


「畑山先生、図書室の鍵を借りに来ました。」


「そうだったな。ちゃんと仕事してるようで、俺も安心だよ。ほら。」


「ありがとうございます。」


「あーそうだ。高山は…いない。」


鍵を預かった秀人は早足で図書室に。ドアの前には何人か生徒がおり、秀人が鍵を開けるのを待っていた。開けると同時に、生徒たちは中へ入っていく。ある者は宿題を片付けるため。ある者は暇潰しに、そして秀人は。


「これか…」


図書委員が座るカウンター裏に、まだ開いていない段ボールが置いてあった。噂の新刊だろう、秀人はすぐに蓋を開け中を確かめる。


「…これこれ!」


その叫びに何人かが秀人を見る。しかしそれは一瞬のこと、すぐに各々自分の世界へと帰っていく。


「はあ…はあ。」


「やあ遅かったね、そんなに遠かったかな?」


「あ、あなたね。こんな暑い日に…走らせないで。」


汗だくで室内に入ってくる彩花。秀人は鞄からタオルを取り出し、投げ渡す。


「や、優しいわね。」


「まさか君も走るなんて。僕の独走に、追い付けるはずないのにさ。」


「…ふう。それでも、一人のんびり歩いてたら申し訳ないもの。」


「ああそう。1つ言っとくけれど、着替えでもしたらどうかな。」


「…そうするわ。」


彩花の制服は汗で透けており、さらに図書室の空調で風邪を引く可能性がある。秀人の指示を受け、彩花は先に着替えることにした。普段の秀人なら、ここまで他人に優しくしない。優しくした理由は、一人になりたかったからだ。


「さてと、僕も仕事しますか。」


彼の仕事は、まだ始まったばかりだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る