人嫌い、初委員

「さてと、委員会行ってみるかな。」


「…がんば。」


「ああそうだ。忘れないうちにこれ、渡しとくよ。」


そう言う秀人の手には千円札があり、麗華は首をかしげる。


「…なにこれ。」


「朝言ってたパフェ代。まさかもっと必要?」


「…秀人…その対応は…ないわ。」


「うわ珍しく引いてるね。その調子で僕の前からも引いてほしいよ。」


「と、図書委員はいつ終わるの?」


「下校時間一杯だから、5時くらいじゃない?先生がやってくれたらいいのに。」


「せ、先生も忙しいんだよ多分。」


「…部活に…採点…過労かも。」


「そんなもんかね。まあ先帰ってね。」


「先生!初仕事前にご挨拶へ来ました!」


「来た。」


「なんで来るかな。」


「頑張ってくださいね!」


「努力。」


「なんだか賑やかね。」


「お、本職の登場だ。じゃあ僕はこれで。」


彩花が来たのをチャンスと思い、さっさと飛び出した秀人。後から彩花が追い付いてきた。


「は、早いわよ。あんまり運動させないでよね。」


「知ってる?運動は適度にしないと、将来苦労するんだってよ。」


「だからって校内は走るの厳禁じゃないかしら?」


「見つかってなければセーフだよ。」


そんな話をしていると、図書室に到着。今日の指導役は彩花がやるらしく、明日は先輩が見るらしい。


「まるでバイトだね。」


「そんなに難しくはないわ。本のカテゴリで棚は別れてるし、あなたも知ってるでしょうけど利用者も少ないの。受付で座って本を読むか、たまに間違えた棚にある本を戻すのが仕事よ。」


「うん分かったよ。じゃあさよなら。」


「…今日は監督が仕事なの。」


「ちっ。」


こうして始まった図書委員の仕事。しかし想像通り、誰も来ない静かな時間がそこにはあった。これこそ秀人が待ち望んだ時であり、この学校生活始まって以来の穏やかな時間だった。


「はあー…最高。」


「あなたって本当に分かりやすいわね。」


「当たり前でしょ?ここに来てから常に誰かが近くにいて、1人の時間なんてそれこそ入学以来と言ってもいい。」


「はいはい。それならこの仕事について、必ず良かったと言えるわね。」


「ちなみに、貸し出し期限を守らない人がいたらどうするのさ。」


「先生を通じての警告かしらね。」


「追い詰めたりはしないんだ。」


「そんな事まではしないわよ…」


「でも自分が読んでたシリーズの、なぜか真ん中だけ借りて返さない人は。」


「どこまでも追い詰めるわ。」


「さっきと違うじゃないか…」


「時と場合よ。」


彩花と適当に話をしながら、図書室でまだ読んでいなかった本を読み続けている秀人。今の秀人は普段見れない笑顔に溢れていた。


「普段からその顔できないの?」


「あ?」


「そうやって笑顔ができてたら、人付き合いも円滑に進むと思うわ。」


「やるときはやるよ。」


「あらそう。」


「で?もうすぐ5時になるけど、最後はどうやって終わるのさ。」


「来てないのはわかるけど、念のため部屋の見回りね。いないのが分かったら鍵を閉めて、職員室に返却よ。ちなみに鍵を取りに行くのも委員だから、忘れないでね。」


「今日は君が持ってきてくれたっけ。つまり僕が鍵を取りに行かなきゃ、その日の利用者は絶望するわけね…」


「悪い顔してるわよ。」


図書室の鍵を閉め、職員室へ返却を済ます秀人たち。これにて業務終了となり、まっすぐ帰ることにした。


「ああそうだわ、これあげとく。」


「どんな風の吹き回しだい?」


「お疲れさまってだけよ。」


怪しむような顔をしつつ、秀人は彩花から飲み物をもらった。


「まあ貰えるものはもらうよ。」


「恩だなんて感じなくていいわ。」


「はいはい。」


学校が閉まる時間にもなると、生徒はほとんどいなかった。誰もいない校舎や下駄箱に新鮮さを感じながら、秀人は帰宅するのだった。

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