これもデートか

あまりにも技術料が払った値段に見合っていなかったので、予定していた金額の二倍の額を置いてきた。

リーネットは受け取りたくなさそうだったが、無理やり受け取らせた。

五倍おいてこようかと考えたが、クナイが投げることを見越したものだというのを思い出して思いとどまった。

どうせまた注文しなくてはいけないのだから、払いすぎても困る。


「……帰って、やるか?」

「いいの!?」


デートに邪魔が入ってご機嫌斜めだったアンだが、クナイを見てからは態度が豹変。

うずうずが止まらない! という様子だ。


「世にいうデートとは違うけどな。俺たちなら、こういうのもありだろ? みんなもいいか?」

「いいよー。私も使ってみたいしー」

「私は大丈夫です。普段から一番一緒にいますから」

「むぅ。私はちょっと不満だけど……。たまにはアン姉さまに譲ってあげてもいいわ……」

「決まりだな」


一行はぞろぞろと屋敷へと戻る。





「まずは私からよ!」


いきいきとライヤと向き合うアン。


「ルールはいつも通りで」

「いいわ」


数えきれない数の模擬戦を繰り返してきた二人に多くの言葉は必要ない。

簡単な確認だけ終えた二人は一気に集中し始める。

いつも通りの光景を少し外れたところから見守る三人。

違うのは、ライヤの腰にクナイが刺さったベルトがついていること。


初手はライヤの雷魔法から。

アンに一筋の光が伸び音を置き去りして迫るが、アンも慣れたもの。

同じく雷魔法で相殺して、その光の後ろに隠れて投げられていたクナイも剣で弾きあげる。


「やっぱ、まだ遅いか」

「もっと投げる動きを見せないように工夫しないとね」


更に肉薄してきていたライヤの剣を受け止めるアン。

つばぜり合いをしながら短く反省会を行う二人。

そのつばぜり合いも互いの足元にそれぞれの魔法が展開され、それをよけるためにすぐに終わる。





「何度見ても、慣れませんね」

「あの二人の模擬戦に限って言えば、互いのための確認作業なんだよねー。相手がやっていることが有効かどうか、何を変えればよりいいのか、そういうのをまとめてるんだよー」

「やってることはわかっていても、できるとは思いません」

「本当に手の内を知り尽くしている二人ならではだねー。ああやって言葉を交わしている間だって二人は微塵も手を抜いてないわけだしー」

「でしょうね……」


二人がガチなのは直後に二人の足元から出たそれぞれの火魔法と氷魔法の苛烈さで分かる。

模擬戦の後の回復を担うヨルははらはらしながら二人を見守っているが、戦う側の気持ちに立っているフィオナとウィルはそんな考察をする。


「あれも、相手が必ずよけるという確信があってあの威力なわけだしねー」

「下手すれば死にますよね、あれ」

「あの二人は、もうそんな下手をしないんだよー?」

「……」


ウィルから見れば、フィオナもはるか遠い存在である。

自分も才能に恵まれている方だとは思っているし、努力もしているという自信がある。

それでも、三人がいる位置にたどり着ける気がしない。


「焦らなくてもいいんだよー?」


そんなウィルの内心を察してか、フィオナはウィルの頭をなでる。


「成長っていうのは別に日々しているわけじゃなくて、何かのきっかけで階段を上っていくようなものなんだー。一日に何段も登れる日もあれば、何日もその段で停滞することもある。それを平均すると、曲線になっているように見えるってだけー」


ウィルは目をぱちくりとさせる。


「フィオナさんがそんな真面目に考えてるとは……」

「どういう意味かなー?」

「失礼な意図はなく、そのままの意味です。フィオナさんはある意味、アン姉さまよりも才能型だと思っているので……」


その言葉もあながち間違いではない。

ライヤと出会ってから修行漬けであったアンとは違い、ライヤと手合わせしたのなんて寮長時代を合わせても数えるほどしかない。

さらに言えば、フィオナが真面目に修練を積んだこともほとんどない。


「やっぱり、手数が増えるのはいいけど、まだ無駄が多すぎるよな」

「そうね、いつもにはない隙が生まれるって感じかしら。カバーはできてるけど、そのカバーのせいで次の手が遅れてるって気もするわ」


どうやらアンの勝利で終わった手合わせ。

二人が戻ってくるのを見ながら、フィオナはぽつりとつぶやく。


「初めてだったのよ。『置いて行かれたくない』と思ったのは」





【あとがき】

クリスマスも終わりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

自分はゲームでトロールを引いて萎え落ちしていました。

最高のクリスマスですね。


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