手本

運動場に金属同士がぶつかる音が聞こえる。


「やあぁ!」


可愛げの残る掛け声とともに相手に向かう小柄な影。

相手はというと、同じ武器でその突進を受け流す。


「技術以前の問題って感じだけど……。ふん!」


槍を突き出してその勢いでよろけている生徒の槍の柄。

下からかちあげると、簡単に得物は宙を舞う。


「ううぅ……!」


膝をついて腕のしびれに悶える生徒にライヤは声をかける。


「やっぱそれ、合ってないよ。他のにしよう」

「でもっ、これはっ! 先祖代々継いできたっ……!」

「あぁ、わかってるよグラム。だけど、体がまだできてない今の間からそんな重い得物使ってたら変な癖がつくし、そもそも体壊すぞ。武器ってのは自分に合ったものを使うもんだ。武器に合わせることも多少はできるが、これはその範疇を超えてる」


綺麗に切り揃えられたおかっぱ髪を振り乱して抗議するグラムをなだめる。


「武器に思い入れがあるのはわかる。いずれその武器を背負って戦場に立つこともあるかもしれない。だけど、今は戦場に立つ時ではなく、学ぶ時だ。先人たちだって子孫が合わない武器を使って戦死したとなれば悲しむだろう」


代々伝わる武器というのはただ由緒正しい武器というだけではない。

先祖たちがその武器を持って負けなかったことを表しているのだ。

戦争に負けたほうは、保有しているその一切を奪われる。

特に価値の高い宝石であったり、武器、果てには人でさえも。

そんな奪われる価値のある武器が代々伝わっているということは、先祖はその武器を以て勝利を手にしてきたのだろう。


「自分の体のサイズに合わせて武器も成長していくんだ。自分の背丈ほどもある武器を扱う人たちもいるが、それは普通サイズの武器を自在に扱えるうえで成り立っていることだ。基本的な動作ができ、そしてそれよりも重いものを振るえる膂力を得て初めて武器にふさわしくなる。先祖代々受け継いできた武器に振り回されるだけにはなりたくないだろ?」

「……はい……」

「よし、じゃあ今度の週末にでも武器屋に行こう。俺がいいところを見繕っとくから」





「じゃあ次、キリトいこうか」

「はい!」


今年からの生徒との対面が終わってすでにライヤとやったことのある面子が出てくる。


「グラム、よく見ておいたほうがいい。キリトとお前は体格も似てるし、槍を使うというところもある。目標にするなら、俺よりもキリトのほうがわかりやすいだろう」





こうして先生と向き合うのは何回目だろうか。

二桁を超えたところから覚えていない。

向き合うたびに打ちのめされ、惨めな気持ちになる。

最初に先生を軽んじていたころの気持ちなんて今はどこへ行ってしまったのか。

今のままでは何度やっても先生に勝てるビジョンが見えない。


それなのに、先生は決して優しすぎはしないから。

こうして自分の得意武器でない武器を握って俺の前に立つ。

あまつさえ、お手本に慣れだって?

なれるわけがない。

最初の一回以降、先生は俺の力を引き出してから倒してくれる。

現状の力を見たいというのもあるんだろうが、俺に、いや俺たちに成長する余地を示すためだろう。

それはつまり、ぼろぼろにされることを意味する。


今年から先生の授業を受け始めたやつらはものの数秒でやられていたが、それは今見ても意味がないくらいに基礎がなっていないから。

俺達には、そんな言い訳はもう通用しない。



俺はこれが終わった後、またいつものように思うのだろう。


「あぁ、なんて遠いんだ……」


と。





【あとがき】

手本にされる生徒ってかなりプレッシャーだと思うんです。

はたから見ている方が粗が目立ったりしますから。


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