力
「はぁっ!」
気合い一発。
王様の周りの地面がせり上がり、壊れていく。
足場を悪くさせる作戦か。
「(だが、それは自分にも不利そうだけど……)」
ライヤがそんなことを一瞬考えた隙。
また轟音を響かせて王様が目の前に現れる。
横薙ぎに放たれる回し蹴りを転がって回避する。
ゴロゴロと転がって止まったのは奇しくも先ほどまで王様がいた位置。
地面を見れば、硬い地面につま先の方と思われる足形のようなものがついている。
こんな威力で地面を蹴ってればそりゃあんな速さになるか……。
「暴風よ」
手を前にかざした王様が呟くと、竜巻のような暴風の中に取り込まれる。
細部の魔力制御には流石にほころびが見られるので防御することは可能なのだが、天災とも言えるその魔法の規模にため息をつく。
王様はオーケストラの指揮者のように構えていた手をゆらりと動かす。
すると、先ほど砕いていた地面が風に巻き込まれ浮いていく。
「(この規模で風と土の並行魔法……!)」
この魔法の厄介なところは飛んでくる土くれ自体には魔力が宿っていないことである。
魔法で生成された土ならば魔力を感知して避けることも可能だが、自然にある土にはその方法は通用しない。
こちらからの視界も遮られ、轟音によってろくに周りの音も聞こえない。
戦争では自軍も巻き込んでしまうため使えないだろうが、ここでなら有用だ。
意味のなくなった迷彩を解き、水球を周りに浮かべる。
高い音と共に射出された水球はその圧力によって土くれを切り裂く。
「ライヤ!」
風に飛ばされながらアンがライヤに合流する。
本来なら危険だが、アンは自分の風魔法で体を覆っており、傷1つ無い。
「一旦、リセットよ」
「よし来た」
アンがライヤの手を握り、互いに魔力を練っていく。
2人が時間をかけて編み出した互いの魔力を合わせていくことで同一の魔法を2人で行使する手法。
互いの魔力をどこで一致させるかを長い時間をかけて見つけなければいけないため2人以上の人数でやるのは難しい。
そもそも、2人でやることすら挑戦したのはアンとライヤが初めてだ。
「「立ち上がれ! 紅蓮の炎!」」
利点は、2人の魔力を使うためより大規模な魔法の行使が簡単になること。
欠点らしい欠点は2人がそろっていないといけないことくらいだ。
2人を中心として立ち上がった高温度の炎の柱が王様の風魔法、土魔法をまとめて吹き飛ばす。
炎の渦が止んだ後、2人から少し離れた位置の地面からボコッと王様が出てくる。
「ははっ! 死ぬところだった!」
なんで嬉しそうなんだこの人……。
服や、肌も所々焦げ付いているが、まだぴんぴんしている。
単純な威力の話なら2人に為せる最大火力だったのだが、避けられてしまえばどうしようもない。
「ライヤ!」
「っ……!」
飛び出して行ったアンに遅れてライヤも王様に迫る。
アンの判断は迅速だった。
先ほどから王様は大剣を手放している。
近距離戦に持ち込めばリーチ差がものを言う。
はずだった。
「なんで素手の方が強いのよ……!」
大剣を簡単に手放したのだ。
その可能性もよぎりはした。
しかし、武器の存在意義を失わせるようなことがあっていいのだろうか。
だが、ここで気付いたことが1つ。
近距離戦をしている時は王様による魔法の発動がないこと。
もちろん、自らを補助するような風魔法の展開はしているが、先ほどのようなそれだけで必殺級の魔法、そして攻撃を目的とした魔法も見られない。
仮説が成り立つ。
さては、それほど細かな魔法が得意じゃないな?
「アン、10秒!」
「8秒!」
「……!」
ライヤはアンが10秒もたせられれば確実だと思ってそう提案したのだが、帰ってきたのはさらに短い時間。
それだけ今の王様は強いのだろう。
そんな余計な思考を押し殺し、急いで魔力を研ぎ澄ませる。
さっきも使った水圧によるカッターをより鋭く。
ついでに氷による氷柱をより鋭く。
「いけっ!」
先ほどのやり取りから7秒ほど。
万全の準備とはいえないが、発動するしかなかった。
王様の拳がアンの剣を大きく弾くのが見えたからだ。
「大丈夫か?」
「……ごめん、げほっ……。ちょっと足りなかった……」
血をペッと吐きながらも意識はあるアンを確認し、ライヤはさらに前に出る。
やるとしたら、今しかない。
しかし、顔をあげたライヤの眼前には既に王様の拳が迫っていた。
その姿は水や氷柱に貫かれてボロボロだったが、魔法を受けながらも前に踏み込んできたのだろう。
じかんが、たりなかった。
[あとがき]
バトルシーンって難しいよね?
ここまで読んで頂きありがとうございます!
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