休息のカフェ

「……何してるの?」

「限界を超えた賢者タイムだ……」

「……?」


丁度アンが起きたのがこのタイミングでよかった。


「なんで私がライヤのパジャマ掴んでるのかしら?」


少し前だったならライヤが脱皮してパンツ一丁で爆速でトイレに向かう様を見られていただろう。


「……まぁいいわ。さぁ、今日は遊ぶわよ!」

「おぉー……」


図らずも一夜を起きて明かすことになったライヤはアンと比べテンションが低い。


「ほら行くわよ!」





「で、なんで黒ローブ……」

「学生時代を思い出したいからよ。そんなに昔のことじゃないでしょ?」


2人が着ているのは学生用の黒ローブ。

2人が8年生の時に着ていたものだった。

そして、よく訪れていたカフェに来ている。


「アン王女がいらっしゃるのはいつぶりのことでしょうか」

「忙しくて1年くらい来れてなかったものね」

「ライヤ様もアン王女とでなければ顔を出してくれませんので……」

「俺も忙しかったんだけどな?」

「顔を出せないほどじゃないでしょ?」


それはそうだが。

カフェってそういうところじゃなくないか?


「いつものスコーンをお願い。ゆっくりしていくからそのつもりでね」

「かしこまりました。お客様の数にもよりますが……」

「えぇ、できるだけここに案内しなければ何も問題はないわ。案内する前にはひと声かけてね」

「失礼します」


カフェのオーナーとはもう5年ほどの付き合いになるだろうか。

落ち着いた雰囲気のカフェの奥にある2,3室の小部屋。

やんごとなき身分の方々の密会に使われたりする場らしいが、2人は学生時代からよく利用していた。

用途はなんてことはない、勉強のためなのだが。

アンとライヤが2人でいるところを見て良くない噂を立てる者もいるだろうとオーナーが気遣ってくれた。

結果として居心地が良かったので愛用するようになっていた。


「なんでまたここに? 黒ローブまで引っ張り出して」


ライヤの持っている服は少ないので引っ張り出すほどにしまい込まれてるわけでもなかったが。


「理由はさっきも言ったでしょ?」

「学生時代を思い出したいってやつか?」

「それだけよ」


ペタンと机に頬をつけるアン。


「戦争からこっち、のんびりとした時間なんて皆無だったから」

「戦後処理は上手くいってないのか?」

「ううん、上手くはいってるわね。ただ、どこまで干渉するかの区切りに悩んでいるところ」


前にも言っていた。

諸国連合を丸ごと王国に組み入れるとなるとデメリットの方が大きいと。

そこのさじ加減で悩んでいるのか。


「……やめやめ! そんな話をするためにここに来たわけじゃないもの」


丁度良くオーナーが運んできた紅茶とスコーンを受け取り、バッグの中からアンが2冊の本を取りだす。


「はい」

「そっちの本は?」

「同じものよ?」

「お、なるほどな。感想を言い合いたいのか」

「その通りよ」


テスト期間後など、少し休息が欲しい時には2人で同じ本を読んで感想を言い合ったりなどしていた。


「この頃本なんて読む時間無かったから楽しみだわ。最近話題になっているらしいわよ?」


ライヤも本を読むのは好きだ。




しばらくの間、2人がページをめくる音と、カチャリとカップを置く音だけが個室で聞こえた。





[あとがき]

ちなみに僕はとある理由から3日尿を我慢したことがあります。

二度としたくないです。


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