教師2年目

新任

「で、仕組んだか?」

「何のことでしょう?」


アンとライヤが戦争に行っている間に学校は始まっており、既に始業から2週間が経過していた。

学校に戻り、学園長に無事に挨拶した後、今年も担任をしてもらうと言われた。

始業に間に合わず、無事に帰ってくるかもわからないライヤを担任にするはずがないので今年は諦めていたのだが。

担当するクラスが2年S級(クラス)だと聞き、得心がいった。

どうせ仕組んだのだろうと。

そして、その最有力候補を問い詰めているわけである。


「学園長が私たちに配慮してくれたんじゃないですかね?」


明らかにやっているが容疑を否認するウィル。


「まぁ、本来なら悪いが。今回は礼を言うよ。担任をするなら、いきなり知らないところに2週間遅れてはいるのは気が引けるからな」

「そうでしょう?」

「やっぱやってんじゃねぇか」

「あ」





「「先生―!!」」


クラスに入るなり、わらわらと集まってくる見知った顔。


「大活躍だったらしいですね!」

「凄いねー」

「ご無事で何よりです」

「……お帰りなさい……」


皆口々に労ってくれる。

これだけでも頑張ってよかったと思える。


「ただいま、皆。ちゃんと勉強してたか?」


ようやく、本職へと戻れたのだ。



「それで、授業はどんな感じで進んだんだ?」


アジャイブ魔術学校では先生の裁量に任せられていることが多い。

ライヤの代わりに教えていた先生によるが、そこから引き継がなければいけない。


「今のところは復習しかしてないです」

「2週間も経ってるのに?」

「はい。ライヤ先生が戻ってから始めても遅くないだろうという判断らしいです。去年は私たちが少し進み過ぎていたでしょう?」


確かに、1年の時は範囲を先に終えていた。

それでバランスがとれる計算なのか。


「ついでに今日は新任の先生がいるとかで、どこかのタイミングで挨拶にくるらしい。それだけ頭に置いておいて、授業を始めるか」

「呼ばれた気がしました!」


ガラガラ! と勢いよく教室の扉が開く。

ライヤはそちらを振り向くが、想定した位置には誰もいなかった。


「あら」

「「ええ!?」」


代わりに反応したのは生徒たち。

座っている高さからだと顔が良く見えたのだ。


「ヨル・コンバート! 保険医として赴任してきました! これからよろしくお願いいたします!」


ビシィッ! と綺麗な敬礼をする白いローブに身を包んだヨルが立っていた。


「ヨルって大人だったのか!?」

「ヨル先生、ですよ? ゲイル君」


めっ! と指を立てるヨルだが、背格好からおませさんにしか見えない。


「もしかして、お願いこれに使ったか……?」

「私が王国で頼れるのはライヤさんだけですから。私をこんな体にした責任取ってくださいね……?」


顔を赤らめてもじもじしながら誤解を生むためとしか思えない発言をするヨル。


「何の話だ! 知るか!」

「乙女にあんなことをしておいてポイ捨てですか……?」

「やめろ! 生徒たちからの視線が痛い!」


先ほどまでライヤを労う尊敬のまなざしが注がれていたのに今は絶対零度の視線が向けられている。


「まぁ、冗談です。ただ、頼れるのがライヤさんだけなのは本当ですからね?」

「それは、わかってる。そんなことより、授業中だぞ。挨拶が終わったなら帰れ」

「あ、そうですよね。それじゃ、失礼しましたー!」


その授業は生徒たちからのヨルに関する質問で授業なんて進まなかった。





「晴れてここに住むことになりました! これからよろしくお願いします!」

「はいー、一緒に頑張りましょうねー」


もちろん、教員寮に転がり込んできた。

流石に今回はちゃんと教師という立場なのでライヤの部屋ではなく、自分の部屋を持ったヨル。

だが、隣の部屋なのが解せない。


「部屋なんていくらでも空いてるだろ。男女の部屋は遠くにするべきだ」

「今更でしょー? 戦争は終わったけど、ヨルさんを狙う人がいないとも限らないから、ライヤ君とできるだけ近くにいた方がいいよー」


中途半端に正論である。


「隣の部屋である意味はないだろ」

「意味? 夜這いしやすくなるとかー?」

「……どっちがどっちに?」

「どっちでもー?」


何想定してんだ。



うるさい隣人が増えました。





[あとがき]

涼しくなってきました。

夜が凄い過ごしやすいです。


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