治療魔法師
「今日は中央部で補助をする。異論は?」
「「ありません」」
この部隊の凄いところはどれだけ自分たちの部隊が貢献していて、それが大々的に報道されるようなものであったとしてもそれをひけらかさないこと。
そして下積みというか、目立たない仕事でも全く文句を言わない。
それだけ自分たちの仕事に誇りを持っているのだろう。
「よし、じゃあ。今回は俺の指示に従ってもらう。とりあえずは待機だが、戦況が動いたら一気に移動するぞ」
「「了解」」
この戦争最大の戦場。
帝国との戦争の時のような絶望感はないが、それでもまぁここに立っているだけできつい。
後方で戦況を見守っている状態だが、前方で人が死んでいくのだ。
心穏やかではいられない。
「落ち着きましょう、隊長」
「無理だ。それだけは無理だ」
イプシロンもそわそわときっかけを探しているライヤに声をかけてくれるが、落ち着けるわけがない。
それこそライヤが40,50になるときには慣れているのかもしれない。
戦争がある世界だというのは理解しているし、他の方法でどうにかなるものでもないことは理解している。
だが、それで人の生き死にを静観できる気にはならない。
「重傷者はこちらに! 申し訳ありませんが、軽傷者は他の方にお願いします!」
ライヤ達より更に後方。
負傷者が運び込まれるテントではドレスなどとうにかなぐり捨て、人命救助に全力を尽くすヨルの姿があった。
「……! っこの方はもう無理です! 他の方を!」
他の魔法ならいざ知らず、回復魔法は教えれば上達するというものでもない。
素質というものもあるし、年季がものを言う魔法でもある。
もちろん、王国の衛生兵にもヨルと同じ水準にいる者もいるが、彼らは40代を超える歴戦の猛者である。
回復魔法では並んでいても、簡単に見捨てることが出来るメンタルはもっていなかった。
大きな戦争を経験するのは初なのだから。
「ここから先はお願いします! 次の方を!」
だが、そんなことは言ってられない。
日に日に決断するスピードは上がっていき、結果的に助かる命は増えている。
それで折り合いがつくかは別の話だが。
それを救護テントの端で見守るアンはその技量に感嘆する。
何でもできるアンにも回復魔法は使えない。
ライヤ曰く、「人を治すような人間じゃないんだろ」とのことで、言われた時は怒ったものだが、テント内部の様子を見ているとそれも頷ける。
明らかに向いていない。
「その分だと、確かにあの子は向いているかもね」
結局、回復魔法は相手を助けようとするかどうかにかかっている。
アンであれば即座に見捨てているような重傷者も、治せる技量があるとはいえ見捨てないのは性格によるものだ。
それが、回復魔法の素質になるのかもしれないとアンは考える。
であれば、王族に回復魔法の使い手が生まれないのは当然と言える。
場合によっては切り捨てる決断をする立場なのだ。
だからこそ、ヨルは特別な存在だ。
領主の娘という、王家に近いような立場にありながら回復魔法しか使えないという素質。
「!? ヨル様!?」
慌てたような声でアンは思案から戻る。
見れば、ヨルが倒れている。
「ヨル!?」
慌てて駆け寄るアン。
「だ、大丈夫です。少しめまいがしただけで……」
「……もう魔力がないのよね?」
「……」
苦笑いを浮かべるヨルだが、アンにはわかっていた。
ただでさえ他より重傷者を担当していたのだ。
担当した人数もかなり多い。
そして魔力欠乏の顕著な症状としてめまいがある。
「休みなさい。命令よ」
「でも、それだと怪我人が……」
「元々他国のヨルに頼りきりなのがおかしいのよ。王国の治療魔法師が1人抜けた程度で問題があるのかしら」
「「ありません!」」
「だそうよ。ライヤにもあなたを酷使するなと言われてるしね。もちろん、私もあなただよりにする気はないわ。今日は休んで明日また頑張って頂戴」
「はい……」
一方その頃。
「よし、じゃあ行こうか」
ライヤ達も動き出していた。
[あとがき]
日本チームが遂に世界の舞台で勝ちました!
控えめに言って最高でしたが、久しぶりの運動の後に朝8時まで起きていたので1日吹っ飛びました!
ここまで読んで頂きありがとうございます!
良ければブックマーク、応援、評価、感想お願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます