テスト終了?

「ヨル、ウィルの怪我を治してくれ」

「先生の方が痛そうだけど?」

「そうでもない。あの水弾の威力はまぁまぁあるぞ。ウィルが怯むと予想してたくらいにはな」

「じゃあ、そうしようかな。先生、隠して」

「あぁ」


まだ床に転がったまま一発いれたのを噛みしめているウィルに駆け寄ったヨルごと氷魔法でかまくら状に覆う。

治癒するためにローブを捲るので隠す必要があるのだ。

王女の肌などみだりに見せていいものじゃない。


チクリと痛む脇腹当たりの傷を気にしながらライヤは片づけを始める。

テスト結果は言うまでもなく全員……。

シャロン以外は合格だ。

追試も存在するのでシャロンはそこでどうにかするしかない。

実をいえば、1年生の実践テストは先生と戦った時点で点がもらえ、あとは加点方式なのだ。

つまり、戦いを始めさえすればどれだけ完封されても合格は確定なのである。

だが、毎年気の弱い生徒が一定数は存在し、シャロンのように気絶とまではいかずとも戦えないことがあるので追試が用意されているのだ。


「先生! 開けてください!」

「お、治ったか」


氷のかまくらの中からウィルの元気な声が聞こえる。


「先生! 私の勝ちですね!」

「いや、勝ったのは俺な?」


記憶が捏造されている。


「先生への告白と一発当てるのを同時に遂行しました! 人生最大の成功体験です!」

「テンション高っ……」


こんなウィルは初めて見る。


「あとな、ウィルは王女なんだから告白とかやめとけ。騒ぎになるぞ」

「え!?」

「え?」


2人して固まる。


「まさか、嘘だと思ってます?」

「いや、タイミング的に動揺を誘うためのものだと思うだろ」

「それもそうですね……。では、もう一度言いましょう。先生、私と婚約してください!」

「「えぇーー!!?」」


時が止まっていた他の生徒たちは2回目の告白によって我を取り戻した。


「ウィル王女! そんな勝手なことをされては……」

「お母様たちにはもう話しています。今日伝えることは大切な作戦だったので伏せていましたが……」


王妃が知っているという事を聞き更に混乱するライヤ。

なにせ王妃はライヤとアンの仲を取り持っている愉快犯である。

他の者ならまだしも、自分の娘がややこしいことになるのを看過するだろうか。


「それで、先生! お返事は!?」


さながら子犬が尻尾を振っているようだ。

普段の落ち着いた様子からのギャップに狼狽するライヤ。


「お、おい、いいのかよ! だって先生とお前のお姉さんって……」

「えぇ、ただならぬ仲とか。それが何か?」

「え……?」

「今は公的に婚約などが行われているわけではありません。それにアン姉さまは第一王女としての立場がございますが、私は所詮第三王女。子供たちの中でも最年少です。平民で手放したくない傑物と引き合わせるに都合が良いのでは?」

「……!」


確かにアンの立場は何かとネックになっていた。

だからこそライヤに家庭教師という立場を付けたのだが……。


「そして、先生。先生はアン姉さまの家庭教師という立場を持っていますね?」

「そうだな」

「冷静に考えてください。王女と王女の家庭教師が恋仲になりました。外聞はどうでしょう?」

「……」


確かにエグイかもしれない……。


「いや、待てよ。なら俺とウィルの教師と生徒っていう関係も中々じゃね?」

「バレましたか……」


いや、考えてることえげつな……。


「立場上、お答えすることは出来ませんお姫様」

「むぅ……」


膨れるウィルと胸をなでおろすティム、無反応のエウレア。


「はっ……!」


ぎゃあぎゃあ騒いでいたらシャロンが目覚めた。


「……あの、先生、テストは……?」


プルプルと震えるシャロンは自分が留年になってしまうのかという不安からか、また気絶しそうである。


「お、落ち着けシャロン。一回で留年になったりはしないからな。また今度、頑張ろうな」

「……は、はいぃ……」

「ちょうど良かったわ。シャロン、あなたもこちらに来なさい」

「……?」


気を持ち直したシャロンがとてとてとウィルの下に行き、そこにクラスの皆が集まる。


「?」


ヨルだけがわかっていないようだ。


「今からヨルさんの実践テストをします。私たち全員と、ヨルさんの回復を合わせてやります。テストとして適当では?」

「え、いやぁ……」

「その話、乗りましょう」


乗り気でなかったライヤに代わり、賛成する声が響く。

関係者以外立ち入りが禁じられるテスト会場。

自ずと入れる人は限られる。


「アンネ先生……?」


忙しいはずのアンネ先生の登場に戸惑いを隠せないライヤ。


「ですが、8対1はいかにライヤ先生といえど苦しいでしょう。怪我を厭わなければ別ですが。そこで、私とライヤ先生が組んで皆さんと戦うというのはどうです?」

「なぜアンネ先生はここに?」

「身分を顧みず、先生に婚約を申し込んだ生徒がいると聞きまして」


どこからだよ。


「先生として釘を刺しておかねばと思った次第です。何か問題が?」


問題しかないだろう……。


明らかにそれ以上のライバル意識というか、オーラが出ているアンネ先生にライヤはため息をつくのだった。





[あとがき]

近頃生活習慣が吸血鬼な作者です。

1日眠るか1日起きなきゃ陽の下に戻れないのでどうするか悩んで1週間が経ちました。


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