計算方法

「悪いな、シャロン。まさか声をかけてくるとは思わなくて……」

「……怖かったですけど、守ってくれましたし……」


学年を超えた関わりがない分、教師についても情報共有はほぼない。

日本であれば、この先生はこんな人だよといううわさが流れたりするものだが、それはない。

だが、そんな壁があってすらイベリコに関しては噂が流れてるレベルでヤバい。

噂の量で言えばライヤの次くらいではないだろうか。

そのうわさが流れることでここ最近は食えなくなっているらしい。

それでストレスが溜まっているのだろう。


「本当にあの先生にだけは関わらない方がいいからな?」


怖いのは、シャロンの家柄を知っている上でイベリコがアプローチをかけてきたという事だ。

叔母が王妃であるほどの家柄であるヨンド家はイベリコ如きの権力で黙らせることは出来ない。

それをわかったうえでアプローチするという事は、それほどに追い詰められているという事ではないだろうか。

追い詰められた人間はどういう思考回路になるのかわかったものではない。


「話しかけられたらそく逃げるくらいの心持ちで良い。もちろん、その逃げで付け込まれないくらいにな?」

「……はい」

「よし、じゃあ、勉強しよう。ただいまー」

「お帰りさないー。あら、シャロンちゃんだー」

「算数を教えるから部屋にいれますよ」

「りょうかーい。後でお茶でも持っていこうかー?」

「お願いしてもいいですか」

「まかせてー」


フィオナとも挨拶を交わし、自室へと昇る。


「さて、何を教えて欲しいんだ?」

「……えと、筆算を……」

「お、そうだな。教科書に載ってないもんな」


この世界には筆算というものがなかった。

2桁以上の計算でも横向きの式で全て解答を作っていたのだが、明らかに効率が悪い。

それこそ、全て暗算で答えられるなら必要ない技能だが、そんなびっくり人間そうはいない。

その点、筆算は繰り上げ繰り下げのルールさえ覚えられれば一桁の計算を連続して行うだけだ。


「で、ここの計算をすると、10の桁が出てくるだろ? だから、ここに1って書いておいて……」


シャロンも苦手とはいえ、理解が遅いわけではない。

ゆっくりながらもちゃんと地道に教えたことをやってくれるのでライヤとしても教えがいがある。


コンコン。


「お茶持ってきたよー」

「早いですね先輩。今始めたところですよ」

「だって、暇なんだもんー。何してるのー?」

「筆算です」

「? それなにー?」


フィオナも筆算は知らない。


「……というわけで、2桁以上の計算が簡単にできるようになります」

「ふーん、なるほどー」


「それ、やらないといけないかなー?」

「と、言うと?」

「いや、頭の中で出来るかなーって」


そうです、この人その稀有な存在でした。


「シャロン、この人は気にしないでいい。天才ってのは得てして人の気持ちがわからないものなんだ」

「ひどい言われようだなー」

「じゃあ382×623は?」

「え? 237986だよー?」

「……正解」


ライヤの答え合わせに時間がかかったのはフィオナが暗算で答えを出す方がライヤが筆算で答えを出すより早かったからである。

やってられねぇ。


「な。こんなじゃなくても計算が出来ることに意味があるから、俺たちは筆算で地道にやっていこうな」

「……はい」

「えー?」


天才って結構いるもんだよなぁ……。





[あとがき]

短くてすみません!

というのも、今からワクチン2回目を打ってくるんですね。

なので更新滞るかもしれませんが、ご理解よろしくお願いします!


そろそろ2年生編に入ると思いますが、このまま続けるか、シリーズとして新しく始めるか迷っています。

意見求む!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る