夏休みへ

「えーっと、じゃあ、明日から長期休みとなるわけだけど……」


1年Sクラスは前期を誰も欠けることなく終えることが出来た。

テストの結果は上々で、平均点で換算すれば他クラスを大いに引き離しての1位だった。

クラスは魔法の技能をもとに振り分けられるので勉強では負ける可能性があった。

元から勉強が出来ていない平民たちとはともかく、同じ環境で育ってきたであろうAクラスに勝てたのは生徒たちにとっても自信になっただろう。


「問題を起こさなければ基本的には自由だからな。あと、宿題だけはちゃんとやるように」

「「はーい」」

「長々としゃべるのももったいないから、終わろう。帰るか!」

「「イエーイ!」」

「解散!」


長期休み前の全校集会での校長のお話しとか、軽く殺意を覚えるレベルで長かったりする。特に、自語りが入ってくると止められないのが凄い嫌だった。

そういった経験をもとにしたライヤの英断である。



「先生」

「お、どうしたエウレア。帰らないのか?」


もう教室に他の生徒の姿はなかったが、どうやらウィルをティムに任せて戻ってきたらしい。


「休みの間、うちに来ない?」

「エウレアの家?」


フルフルと首を振るエウレア。

なんでだ。


「じゃあ、うちってどこだ」

「うちの領地」

「厄介ごとの匂いしかしないな」


マルクス家は王家の裏の部分として代々働いてきたと本人が言っていた。

貴族として王城周りに住んでいながら遠くに領地を持つ貴族は稀だが、この家の場合はその理由がほぼ確定的である。

諜報に役立つからだ。

そして、そんな場所にライヤを招くという事は、何かしらしてほしいことがあるのだろう。


「悪いが、断らせてもらおう。長期休みは生徒にとってだけじゃなく、先生にとってもなんだ。明らかに面倒なことになるところに行くのは御免こうむる」


プクッと頬を膨らませて不満を明らかにするエウレア。

普段無表情な分、ギャップでかなり可愛い。

今思えばこんなに可愛い顔している子をよく男子だと思っていたものだとライヤは感心する。

学園から与えられた個人情報に疑いを持たなかった結果か、それともエウレアの鍛えられた擬態能力によるものか。

どちらにせよ、興味深いのには変わりない。


「悪いが、他を当たってくれ。フィオナ先輩とか、頼りがいのある人はいるだろう?」


荷物をまとめ、帰宅するライヤをジッと静かにエウレアは見守っていた。





「ライヤ! 海に行くわよ!」


長期休み。

思いっきり休もうというささやかな望みは初日の朝からいつものようにドアを蹴破って突入してきたアンによって無残にも打ち砕かれた。


ライヤにとって長い長い夏休みが始まろうとしていた。








少しだけ登場人物紹介やって、その後夏休み編行きたいと思います!

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