3人組の葛藤

「先生」

「お、今日はデラロサか」


テストまであと4日。

どうやら生徒たちは俺への質問権を一人につき一日持っているという事にしたらしい。

もちろん、ウィルやエウレアは質問する必要がないので教える側に回っていたりするが。


「じゃあ、俺の部屋いくか」

「お願いします」


そういえば。


「デラロサとマロンって学園に入る前からゲイルと知り合いだったのか?」

「どうしたんですか、急に」


茶色のおかっぱ頭を揺らしてデラロサは答えるが、特に意味はない。

自宅までの暇つぶしだ。


「最初から仲良さそうだったから気になっただけだよ」

「まぁ仲は良いのかもしれませんね。ただ、先生が思っているものとも違う気がしますが」

「そうなのか?」

「えぇ。出会いは単純です。俺とマロンの親が、ゲイルの親の傘下だったんです」


確かに、貴族社会においては良くある話だ。


「当然、子どもたちにもその立場は受け継がれるわけですが、俺たちには性格に大きな違いがあります。ゲイルは今でこそ落ち着いていますが、元々凄く自尊心が高く、俺たちの意見にも耳を貸しませんでした」


目に浮かぶようである。


「マロンはおっとりした奴で、めったに自分の意見も言わないですから、ゲイルとは相性はいいかもしれません」

「で、デラロサが」

「……俺は、自分で言うのもなんですが、かなりしっかりしていると思います。貴族として、ちゃんと勉強もしてきました」


デラロサの魔力制御はエウレアに次いで、ウィルと並ぶほどである。

幼いころから必死に練習を積んでいたのだろう。


「だけど、俺は絶望的に要領が悪い。みんなが一度で覚えられることでも、三回は必要になってしまうんです」


しかし、テストの点数はそれほどではなかった。

これが、デラロサの言う要領が悪いという事だろう。


「その点、ゲイルには才能があります。自然と、付き従う形になってしまっていたんです」


デラロサとマロンがゲイルの取り巻きという認識は、未だにライヤも持っているものだった。

ゲイルの意識が変わったことで露骨に上下関係が現れたりはしていないが、デラロサとマロンの仕草に今までの関係が現れている気もする。


「それを、今回のテストで払拭したいんです」


目標がある者特有の、見据えるものがある目でデラロサは前を向く。


「見返したいのか?」

「いいえ。ゲイルはいい奴です。俺たちに威張り散らすようなことはありませんでしたから」


そこらへんはしっかりしてたんだな。


「自分の中のけじめですね。これで大きく何かが変わるわけでもないですが。対等なんだぞという意識づけというか……」


そんな話を聞いてしまっては協力しないわけにもいかない。


「よし、じゃあ、ひとまず今日。頑張ってみようか。俺も頑張るから」

「はい!」


デラロサはSクラスの中でもティムと並んで真面目だ。

本人は要領が悪いと言っているが、方法を知らないだけという説もある。

どうにかしてあげたいものだ。


「よし、着いたぞ。ここの最上階だ」

「ここが先生たちの……」

「まぁ、住んでるのは俺くらいなもんだけどな」


むしろ貴族の先生が住んでいたとしても俺が来たことでいなくなるということまで見えるな。


「お、今日は男の子なんだねー。安心安心♪」

「先輩、その恰好はやめてくださいって……」

「!?」


管理人室からフィオナが顔を出す。

警備室も兼ねているので入口の廊下に窓でつながっているのだが、タンクトップ姿のフィオナが窓から身を乗り出すと、その、零れそうになる。


「せ、先生、この方は……?」

「この建物の管理人さんだ」

「ライヤ君の先輩でもあるよー。よろしくねー、後輩君?」

「は、はい!」


なぜかガッチガチに緊張したデラロサを連れて自室に向かう。

部屋に入ったところで少しは緊張がほぐれたようだ。


「先生」

「なんだ」

「あの方の連絡先をお聞きしても……?」

「!?」


まさか、お前……!


「一目惚れ、かもしれません……」


ややこしくなってきた……!





「先輩、小さな生徒の性癖を歪ませないでくださいよ……」

「あら、大きなおっぱいに憧れるのは、男の人共通のものだと思うけどー?」

「時期が時期なんですよ……!」


9歳の男の子にその気づきは必要ないだろう。

それがいずれ通る道であっても!


「……デラロサも一応は貴族です。親経由で話がくるかもしれませんよ」

「親からの話なんて相手にしないよー。あ! もしかして、嫉妬してくれたのかなー?」

「そりゃ、まぁ、ちょっとは」

「え……?」


予想外のライヤの返答に動揺を隠せないフィオナ。


「え、えっと、ありがとう……?」


不本意にも少し赤くなってしまった顔を隠すように俯いたフィオナにライヤは近づく。


「先輩?」

「うん?」


顔を上げると、これまた少し顔を赤くしたライヤが立っていた。


「ドキッとしました?」

「……もう! 自分も恥ずかしがるくらいなら最初からしないでよー!」


テストまで、あと4日。

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