突入
「さぁ、王女様。お別れの時間だ」
私が攫われるときに気を失う前、見た顔の方が部屋に入ってきました。
来る時が来たという事でしょうか。
「早いですね。遺言など残させてはくれないのですか?」
「大臣様の家とは言え、ここは王都の中だ。いつ捜査の手が伸びてくるかわからない。さっさとけりをつける必要がある」
「はぁ」
「落ち着いてるな」
「実感が湧かないだけですよ」
落ち着いて話をしながらウィルは人生で1,2を争うほど頭を回転させていた。
後ろ手で縛られてはいるが年端も行かない少女だという事もあって解けない程ではない。
魔法を使えば解けるものではあるだろうが、目の前の男がいてはそれも難しい。
少なくとも学園の先生方と並ぶような実力の持ち主のはずだ。
魔法を発動しようとしたところで止められるのがオチだろう。
ウィルも自分の魔法の発動速度に自信があるわけではない。
だが、なにもせずに殺されるくらいなら手を考えるべきだろう。
(先生も褒めてくれるかな……)
ウィルの知る限り、ライヤは生徒に甘い。
とてつもなく甘い。
怒ってるのを見たことなんてないし、ゲイルがこれ以上ないくらいの失礼をしていた時も怒りもせず、諫めるだけだった。
ただ、褒めることもあまりない。
いや、褒めてはくれるのだが、褒められたりないというか。
自分たちに出来ることは先生にもできることに他ならない。
自分たちのように1年生の時から頭角を現していた先生にちゃんと褒めてもらうためには、先生の予想だにしないことをしなければならない。
(まぁ、生きて褒めてもらえるかは神のみぞ知るというところでしょうか!)
ナイフを持った相手が近づいてくるのに合わせ、足に魔力をためる。
「! 待て!」
「ごきげんよう」
気付いた男は同じように足に風の魔力を纏う。
発動は恐ろしく速いが、それでもこの一回だけはウィルの方が早い。
ドゥン!!
半ば暴発させた風魔法がウィルの足元を中心に爆発する。
ガシャアァァ!!!
大臣宅のバルコニーへと続く大きなガラス窓をぶち破る音が響く。
衝撃に備えてできるだけ身を丸めていたウィルはその衝撃の少なさにほっとしていた。
ガラスの破片が目に入ることを防ぐために目を閉じたまま考える。
さて、着地どうしよう、と。
「おらぁ!???」
同時刻。
ウィルの部屋に男が入り、ウィルの魔力が大きくなったところでライヤとアンは部屋へと突入した。
気合十分でガラス窓を蹴破ったはいいものの、そこで吹き飛んでいくウィルとすれ違い疑問符の方が大きくなる。
「ライヤ! ウィルを!」
「くそっ!」
アンが部屋にいた男と切り結ぶのを見てライヤは身を翻す。
自分たちが入ってきた窓からウィルを追っていった。
「これはまた。王女様自らおいでになるとは」
「あんたがウィルを攫った張本人ね!?」
「まぁ、そうなるな。しかし、ライヤ先生とやらも大したことないのか? 自分の女を敵の目前において逃げるとはな……」
この会話の間も二人の間では剣と魔法を織り交ぜた駆け引きが行われていた。
幾度となく剣が交わり、魔法が打ち消され合う。
「あなた程度ライヤが出るまでもないのよ」
「……ふん、大層な信頼を置いているようで」
「ところで、あなたは元は貴族家でしょう?」
「……答える義理はないな」
「まぁ、いいわ。そのレベルの魔力ならA
「それには及ばん。その命、もらい受ける」
その一言を機に2人のギアがまた1つ上がる。
「ウィル!!」
宙を舞っているはずの自分と同じ高さから、声が聞こえる。
そんなはずはないと思いながら目を開くと大臣宅を背にして自分を追ってくるライヤの姿が見えた。
「せん、せい……」
「何でもいい! 一瞬だけ落下を遅らせろ!」
ライヤは自分の風魔法に魔力のリソースを割いており、ウィルまで手が回らなかった。
ウィルは最初の魔法による慣性で飛んでいるだけなのでもう体は落下を始めており、地面にほど近いところまで迫っていた。
「で、でも……」
「いいから!」
諦めない。
そう決めた言葉がウィルの頭をよぎる。
落ちていく背中側に風魔法を纏う。
元々、ウィルは風魔法が得意ではない。
どうなるかなんてウィルにもわからなかった。
「先生!」
「!」
「助けて!」
応答する暇もないほど必死にこちらを目指すライヤに一言叫び、魔法を発動した。
アンに任せてウィルを追ったはいいものの、ウィルが土壇場で発動した風魔法はその魔力量に応じて凄い威力のものになっていた。
全力で追うが、どう考えてもウィルが落ちるまでにぎりぎり追い付けない。
必死にウィルに言葉を投げるが、何を言っているかなんてほぼ認識できない。
それほどに魔法に意識を振っているのだ。
「先生!」
そんな中でウィルが笑ったのが見えた。
「助けて!」
その訴えと同時にウィルの背後でまた風魔法が爆発する。
今度は逆に追っているライヤに向かうような形でウィルが吹き飛ぶことになった。
衝突すれば互いにただでは済まない。
ライヤは必死に風魔法を逆向きに転換し、ウィルを受け止める。
「ぐっ!」
方向転換自体は間に合ったが、速さに関してはウィルの方が圧倒的に速い状態でぶつかったため腹にウィルが突き刺さるのは避けようがなかった。
「せんせぇ……」
ライヤのもとについて安心したのか、ウィルはそのまま泣き出してしまった。
「……怖かったな。よく頑張った」
ウィルの手を縛っていた縄を腰から抜いた剣で切り落とすと、ウィルはそのままライヤの腰に手を回す。
しがみついて泣きじゃくるウィルの頭を撫でながら、ライヤはほっと息をつく。
とりあえず、目下最大の問題であったウィルの安否はどうにかなった。
次は……。
「ウィル、すぐにですまんが今アンが戦ってる。俺は助けに行かなくちゃいけない」
「! そうだ、お姉さまが……!」
「あぁ。アンなら負けないと思うが、あいつ以外にいたら困るからな」
「私も連れて行ってください!」
紅い瞳を更に泣きはらして赤くしているウィルはそれでも強く言う。
「いいだろう。だが、戦闘に絡むのは許可できない。外で親衛隊の皆さんと見学してるんだな」
「わかりました」
話がまとまり、ライヤとウィルは大臣宅へまた空を駆ける。
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