魔力制御学
基本的に、魔法は魔力を使い、制御で形にするというイメージだ。
だから、いくら魔力量が優れていても、制御が下手だと魔法の発動にすら至らない。
俺が初回で魔法を撃ってもらったのはそれが大丈夫かどうかを確認するためだった。
まぁ、全員貴族か王家なだけあってちゃんと出来ていたけどな。
「制御が大切なのは昨日見てもらった通りだ。才能なら俺より遥かにあるはずの君達でも、制御は俺より劣ってしまっているから自分の魔法を奪われてしまう。あれがやられて1番腹が立つだろ?」
魔力制御の何より大切な点は、自分の魔法を自分の思うようにコントロールすること。
そして、相手の魔法を奪ってしまえることにある。
もちろん、自分の魔法に関しては相手より優先度は高くなっているのだが、制御能力にそれなりに差があると、奪えてしまうのである。
これはある意味、相手の魔法より質が悪いと言える。
例えば、面と向かって立ち合った場合、相手の魔法は自分に到達するまでにいくらかの余地があるが、自分の魔法が奪われたらすぐに攻撃が届いてしまう。
制御は距離が離れれば離れるほど難しくなるので、そう簡単に自分の近くで奪われたりはしないのだが、それでも自分の魔法が相手に奪われて攻撃が通らないなんてことは避けたい。
「腹が立つ、とおっしゃいましたが、それは先生の感想ですか?」
ウィルからの質問だ。
「残念だが、これは見聞だな。俺は自分の魔法を奪われた経験がまだないからな」
そう自慢ではないのだが。
……。
いや、やっぱり自慢なのだが。
努力の甲斐もあって俺は魔法を奪われたことがないのだ。
打ち消されたりすることはあっても、奪われたことはない。
模擬戦でやらされたアンとかにもだ。
これくらい自慢してもいいだろ?
「流石ですね。姉に聞いた通りです」
満足そうにもう1本縄を持っていくウィル。
ティムの視線が凄い。
今の会話でもダメなの……?
というかアンは俺のことをウィルに話しすぎだろ。
おかげで面倒なことになってる。
「コツなどはないのですか?」
「あぁ、今のはちょっと試してもらっただけだからな。順序だてて説明していこうか」
ちゃんと授業らしいことしていこう。
「まず、全員が全員消し炭にしてしまったことについてだが、そもそも魔力を制御できていないんだ」
これは学び始めの人は勘違いしているのだが、魔力制御には魔力量の制御と、魔法自体の制御がある。
俺としては前者の方が大事だと思っているのだが、学校では後者の方が大切だと習った。
だが、このクラスの担任は俺だ。
「魔力量の制御というのは、そうだな。1度の魔法発動に費やす魔力を薄める、という解釈が1番正しい気がするな」
「少なくする、ではないのだろうか」
ティムも授業の重要性はわかっているらしく、ちゃんと質問してくれる。
レスポンスがあるとやりやすいし、何よりうれしいな。
「少なくする、という方法もあるな。ただ、そのやり方は魔力量が多ければ多いほど難しくなるように感じる」
学生時代、上の級(クラス)であればあるほどこの習得には時間がかかっていた。
上の方はここを乗り越えさえすればあとは伸びに伸びるんだけどな。
「現に今、全員加減しただろうが、あの結果だろ?」
目の前で起こったことだから誰も否定できない。
「だから、薄める。魔力量を減らすんじゃなくて、魔法の質を悪くするようなイメージだ。例を出してみようか」
俺は3本の縄を教卓に立てる。
「まず、質の高い火」
俺から見て左端の縄に白色の火が灯る。
「これが、火、ですか?」
「あぁ、ただし超高温のな」
火の色は温度によって変化する。7000度くらいより高くなると青くなるし、5000度から7000度当たりだと白になる。
「それにしては熱くありませんね?」
「お前は話が早くて助かるよ」
「おい、王女に向かってお前とはなんだ!?」
「あぁ、ごめんごめん。ウィルな。先生への口調についても考えてくれよ?」
ティムが噛みついてくるが、忠誠心が高いのは悪いことではないので素直に謝っておく。
「……あの、話が早いっていうのは……」
挨拶振りの発声であるシャロン。
相変わらず声が小さい。
ウィルを見ると、優雅に微笑んでいるだけで口を開く様子はない。
「さて、この超高温の火があるのに熱くない理由。それは俺がそういう風に制御しているからだ」
簡単に言えば、魔法で生み出した火は必ずしも自然にある火と同じ性質を持つとは限らないのだ。
もちろん、大方は一緒なので、冷たい火を作れと言われても無理だが。
周りに熱を逃がさない火を作るくらいだったら出来る。
「みんな、近づいて縄を見てくれ」
訝し気に各々席を立って火の点いているところを見に来る。
「あ……」
エウレアも気づいたようだ。
「エウレア、わかったか?」
「縄が、ない」
「ん、まぁ、正解だな」
そう、俺の火が点いているはずのところには縄が無かったのだ。
正確には無くなった。
「何千度もある火が点いたら、縄なんて一瞬で消え去るからな。今もここにあるのは俺がそこに固定しているからだ。長くなったが、これが質の高い火だな。なら、質の低い火は?」
「温度が低いもの、ですか?」
「ウィル、正解だ」
俺は真ん中の縄に普通の色の火を点ける。
「これが真ん中なのですね」
「本当にウィルは説明がいらないな」
悉く俺の意図を読み取ってくる。
「なぁ、どういうことなんだ?」
「王女に向かって……!」
「まぁまぁ、ティムさん。クラスメイトですよ? 良いではないですか」
ティムを諫めたウィルが説明する。
「今、真ん中についている火は先ほど先生が例として示していた火と同じようなものです。しかし、それでは私たちは成功しませんでしたし、なによりもう1本縄が残っています。ここに私たちがやるべきことが示されるのですよね、先生?」
最後は俺に向かって言う。
「正解だ」
その言葉と共に俺は最後の火を点ける。
「……熱い」
そう、最後の火はエウレアが思わず口に出すほど熱を外に放っていた。
「そう、これが薄めるってことだな」
簡単に言えば、無駄を増やすのだ。
「残念ながら、すぐに制御が出来るようになるような都合のいい方法はないが、これで消し炭にしてしまうような高火力から黒焦げになるくらいの火力くらいまでは落とせるはずだ。
あとは反復練習だな」
ここで90分。
90分制の授業で、同じ内容を1日に複数時間で行ってはいけないことになっているので今日はこれかここまでだ。
「あ、一応言っとくが、宿題は出さないぞ。練習するもしないも自分次第だ。ただ、強くなりたいとか思ってる人は家で10分でも練習するのは大切だぞ。縄が欲しい人は言えばあげるから言ってくれな」
結局強制されない学習が最も効率がいいからな。
いやいややっても身につくものなんて限られている。
あくまで自主性を大切にしていきたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます