入学式

「ライヤ、遂に着任ね。気分はどうかしら?」

「良くはないのは確かだな。お前も同じ立場だろうが。そっちはどうなんだ」

「相変わらず、私に対する口の利き方がなっていないわね。まぁ、そこはもういいわ。私は上々よ。昨晩もぐっすり眠れたしね」

「その図太さが羨ましいよ、アン」

「せめて王女くらいは付けなさいっていつも言ってるでしょう」


そう、入学式のその日。

俺たち新任教員は初出勤であり、自分の担任する生徒に初めて会うのだ。


俺に話しかけてきたのはアン・シャラル。

シャラル王国の第1王女だ。

同学年で、成績について絡まれた時からの腐れ縁。

王家を象徴する透き通った白色の綺麗に腰まで伸ばした髪に、紅い眼。

目元はキリっとしているが、決してきつめの印象を与えない。

言葉で例えるなら、清廉。

本来、心のありようを例える言葉だが、なんかしっくりくる。


教師用白ローブには首元に金の縁取り。

完全な魔法型であることから、華奢な体でありながら、出るところは出ている。

つまり、胸。

俺の見立てではEはあるな。

いや、実際にどのくらいの大きさならどのサイズなのかとか知らないから適当だけど。


「はいはい、アン王女」

「うむ、よろしい。ライヤ・カサン先生」


俺はあまり生前と姿は変わっていない。

いや、今も生きてるから生前っていう言い方はおかしいか。

黒髪だが、転生にあたって、瞳に少し蒼が入って、青みがかった黒目になっている。

髪はまぁ、ぼさっとしてるが、適度に切ってはいる。

基本的には面倒なのでフードを自分でつけた白ローブにブーツのような格好で行動していることが多い。


ライヤという名前も気に入っている。

日本人にもいそうな名前だから、受け入れやすかったというのがあるかな。

漢字変換はちょっとわからないが。

「雷矢」とかかな。


「でも、アン。お前お忍びで教師やるんだろ? その姿じゃダメじゃないか?」

「あ、そうだったわ」


アンが自分の姿を偽装すると、髪は鳶色に瞳は黄色がかった茶色に変わる。


「どうかしら」

「うん、まぁ、似合ってるんじゃないか?」


元々の素材が別格だからな。


「そ、そんなこと言っておだてたって、給料は上がらないわよ!」


明らかにまんざらでもない顔をしているのは気のせいだろうか。

まぁ、褒められて「なにおぅ!!」ってなるやつはいないか。


「てか給料に影響力あんのか」

「第1王女をなめたらいけないわよ」


王国っていうのはこういうところがあるから怖いな。


「さあ、もうそろそろ時間よ? 準備はいいかしら」

「良くなくっても行かないとなんだよ」


軽口を叩いて新入生たちの前に登壇する。


「今年の新任の先生方です」


俺を知ってくれている校長先生は、にこやかに紹介されているが、他の先生方はかなりこっちを睨んでいる。

いやー、怖い怖い。

この学年に関わる人たちだから、仲良くしておきたいんだけどなー。


「……ライヤ・カサン先生です。彼はこの学校を去年卒業Bクラスとして史上初のなる教職につきました。今年は異例ながらS級(クラス)の担任になっていただきます」


パチパチパチパチ!


拍手自体は大きい。

B級(クラス)以下の生徒がかなり拍手してくれるからだ。

まぁ、A級(クラス)はぼちぼち。

S級(クラス)に至っては誰も拍手していない。

大丈夫か、これ。

一応、担任だぞ。


「……続いて、非常勤の先生を紹介します。アンネ・シャルドネ先生です。こちらもこの学校を昨年卒業されました。忙しくしていらっしゃるので、非常勤講師として、学校に来ていただきます」


俺とは打って変わって拍手喝采。

男子なんかは全員見惚れている。

いや、わかるよ?

その気持ちは。

ただ、ひどくね?





「えっと、今日からこの級(クラス)の担任をすることになった、ライヤ・カサンと言います。ライヤ先生と呼んでもらえると嬉しいです」


教室へ移動し、最初のホームルーム。

先生の自己紹介ってどうするんだっけ。

まぁ、いいや。


「俺なんかより、これから8年間一緒のクラスメイトの方が気になるだろう。順番に自己紹介していってくれ」


もはや丸投げである。


「では、まずわたくしから」


まず立ったのは腰までありそうな白く透き通った髪を後ろで三つ編みにした赤目の少女。


「ウィル・シャラルと申します。どうぞ、お見知りおきを」


この国にいて、知らないものはいないだろう。

アンの妹さんである。

アンが俺と同い年の長女だが、彼女は今年1年生の三女。

兄弟姉妹の中でも末っ子らしい。


「魔法の方が得意ですが、体を動かすのも特に苦手ではありません。この学校でためになることを学べる事、期待していますわ。よろしくお願いしますね? ライヤ先生?」


こちらに意味ありげな視線を送った後、席に座った。

なんだ……?


「次は、我らが自己紹介させていただく。俺はティム・マルコー。王女の護衛を務めている」

「……エウレア・マルクス。……同じく」

「我らは学校での王女の身辺警護を任されている。いかに先生と言えど、王女に無礼を働くようなことがあれば、容赦はしないので気を付けられよ」


9歳で随分と時代がかった喋り方をするもんだな。

この2人は自分でも言っていた通り、王女の護衛である。

共に王家の分家の出身ということで、王女とは小さい頃から面識があるようだ。


ティムの方はツンツンした赤髪に茶褐色の目。

プライドも高そうだ。

エウレアはちょっとぼさっとしたボブくらいの銀髪に鳶色の目。

自己紹介でもわかる通り、無口である。

表情にも出ないため、何を考えているのかわからない。

2人とも分家の息子として、同い年であるウィルを守るための訓練を受けてきたそうだ。


よって、王女と関わるのにふさわしくないと判断した相手に対する風当たりも強い。

つまり、俺に対する風当たりが強い。

ウィルが俺を先生と呼んで、期待しているかのように言ったのが気に食わなかったようだ。

エウレアはわからないが、少なくともティムには。


勘弁してくれよ……。

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