第106話
三人で遊んでから体育祭が来るのは早かった。結達とはクラス対抗になったら競い合うが最後の体育祭は楽しかった。
まず朝から琴美が写真を撮りまくっていた。最後だからと張り切る琴美に結はウザそうにしていたが私は形に残るのは素直に嬉しかった。
そして競技が始まると梨奈が口悪くでかい声で応援をするので止めた。変に目立っているのに気づいていない梨奈は不思議そうにしていたが私は適当に理由を言っておいた。
競技に何個か参加して梨奈と二人三脚をしたが結果は私のせいでビリだった。最初はうまくいっていたのだが、途中結が私を応援する声に気を取られてバランスを崩して盛大に転んだのだ。本当にバカだと思うしカッコ悪いところを見られたが結に気を取られたのが誰にも気づかれてはいないのが救いだ。これでバレていたら恥ずかしくて死んでしまう。
その後はお待ちかねのリレーでとても楽しみだった。
今年の競技のリレーには結と琴美と梨奈が出る。どうなるのか分からない結果は見ているこちらからするとワクワクしてしまう。
バトンを繋ぐリレーは皆が注目していた。
私も皆と見ながら写真を撮っていたが梨奈は結みたいに早くて驚いた。最初から本気だして頑張ると言っていた梨奈は運動はずば抜けている。
皆を見ていると足が遅い自分はある意味才能があるのかもしれない、と考えてしまう私はちょっと感覚がおかしくなっていた。
そうこうしていたらリレーは結のクラスが勝って終わった。かなり接戦だったが結が勝てたなら良かった。
無事終わった体育祭は楽しい思い出になった。最後には四人で写真も撮れたし疲れたけど楽しかった。
体育祭が終わるとすぐに期末テストがやって来る。期末テスト前に私は梨奈に遅くなってしまったが前に話した通りタピオカを奢ってあげようとしたが断られてしまった。泉にはすげー世話になってるからと逆に奢られた私は困ったけれど、有無も言わせないような梨奈の厚意を素直に受けた。お勧めのお店は教えといたからいいだろう。
そうやって梨奈と時折出掛けていたら結は電話越しで拗ねていた。私の行動を把握している結は気に入らなさそうに言った。
「最近梨奈と遊びすぎじゃない?」
「梨奈は同じクラスだし友達だし……結ともこないだ遊んだじゃん琴美いたけど」
間違っていないのに結の声音は変わらない。
「二人じゃないじゃん……。梨奈梨奈って……梨奈ばっかり……」
「……でも、毎日連絡したり電話したりするのは結だけだよ?」
結との約束は守っている。結が嫉妬をしないように二人で話す時は友達の話はあまりしない。でも、なにしているのかは伝えているから頻繁に名前が出るのが気に入らないんだろう。
「……期末テスト終わったらお泊まりしたい」
このお願いは聞かないと結を益々拗ねさせるだろう。私は笑いながら頷いた。
「うん。お泊まりしよ?私もしたい」
「……バイト絶対休んでよ?」
「もっちろん!一日くっついてるね結に」
お泊まり最近してなかったから楽しみだなと浮かれていたら結はさっきまで拗ねてたのに照れていた。
「……一日くっついてたらウザいし」
「えー、どこが?」
「動けないじゃん……」
「さすがにピアノ弾いてたらくっつかないけどゆっくりしてる時にくっついたら動かなくて平気じゃん」
「……平気じゃないし」
なんか理不尽な事を言われている気がする。今日は素直になれないみたいなので言いくるめてしまおう。照れているから大丈夫だ。
「平気です。結が好きだからくっつかせてね。抱っこしてあげるから。抱っこして頭撫でられるの好きでしょ」
「は?好きとか言ってないし。なにバカみたいな事言ってんの本当に…勘違いすんな…」
「言われなくても分かるんです。じゃあやんなくていいの?くっつくのもやめる?」
拗ねさせてしまったからか今日はつくづく素直じゃない。こないだエッチのあとにしてあげたら喜んでたからしてあげたいのに、私の最終確認に結は小さな声で否定した。
「……やめろとは言ってないし……」
これはやってほしいの解釈で良さそうだ。
素直じゃないくせに好きなのを隠せない結は可愛らしかった。
「じゃあもうぐだぐだ言わないの。あ!私久々に結のピアノ聴きたい。英雄のやつ聴きたい」
「英雄ポロネーズね。別にそれじゃなくても何でも弾いてあげるけど」
「え、本当に?やった!じゃあ、私に一番最初に弾いてくれたやつも聴きたい。あれなんだっけな…ええっと……たしか…」
結のピアノを聴けるのは嬉しくて楽しみなのに曲名が全く覚えられないし思い出せない。結はすぐに答えてくれた。
「ベートーベンでしょ。第三楽章の月光。ベートーベンくらい覚えとけっつーの」
「ごめんごめん。でも楽しみにしてるね」
「そんな大した事ないから」
「結のピアノは好きだから大した事だよ」
もううきうきしてしまう自分はどれだけ好きなんだよと笑ってしまう。
私は期末テスト後のお泊まりが楽しみだった。
期末テスト前にバイトを頑張った私は期末テストが近づいてきたらしっかり勉強を始めた。
今回も梨奈に教えながら梨奈が自分から結にまた勉強会をしたいと申し出たので三人で勉強会をする。
梨奈に焼きもちをやいていた結はそれでも梨奈にしっかり勉強を教えていた。ちゃんと区別している結は偉い。
結にはお世話になりっぱなしだしお泊まりの日は存分に甘やかしてあげようと思う。
結は甘えたいとは言わないがくっついてくるし私が抱き締めたり頭を撫でたりすると嬉しそうにしているからいっぱいしてあげる予定だ。
期末テストはあっという間に終わった。
梨奈はできた事に以前よりも喜んで興奮していて、結を神だな!と絶賛していた。
結に対する好感度は梨奈の中でかなり上がっていてビックリするが梨奈と結が仲良くなってくれて良かった。
期末テストが終わると皆夏休みモードで浮かれているが私は変わらずバイトがあるので今日はテスト終わりに久々に出勤していた。
「泉ちゃん夏休み今年は皆でどこ行く?」
遠藤さんは手際良く仕事をこなしながら聞いてきた。夏休みは私もすっごく楽しみだったんだが今年は行けなさそうだ。
「行きたいですけど夏休みは夏期講習行こうと思ってて、毎日あるみたいだから無理かもですね。日にちがあえばって感じです」
「そっかぁ~。でも泉ちゃん医学部行きたいんだもんね。忙しいかぁ……。じゃあ落ち着いたら皆でどっか行こうね?」
「はい」
「そうかそうか~。それにしても泉ちゃん医学部って凄いよね。私、泉ちゃんの年の時将来とか何にも考えずに生きてたよ直前まで」
感慨深そうに頷く遠藤さん。私もこんなに真面目に考えるとは正直思わなかった。これも結のおかげか。
「いや、私も二年になるまで全然考えてなかったですよ。ていうか、華のJKも今年で終わりかと思うと呆気なかったです」
「それね~。私もずっとJKが良かった。あの頃階段からスッ転んで骨折ったり階段踏み外してヒビいったり、原付で転けたりさぁ……いい思い出だよ」
「へぇ~……」
懐かしそうに話されてもそれはいい思い出なのか疑う。階段で災難起こりすぎだし転びすぎじゃない?何て言ったらいいのか分からなかった私を他所に遠藤さんは突然やる気を見せた。
「と、色々話ちゃう前に私ちょっくらホール巡回して片してくる。泉ちゃん中お願いね?外は私に任せとけ」
「あ、はい。分かりました」
「じゃ、行ってくるわ」
遠藤さんは颯爽とホールに出てしまったがなぜやる気になったんだろう。巡回してくるとか遠藤さん今日もちょっとあれだなと思いながら仕事を頑張った。
しかし、バイト終わりの遠藤さんはバイト中よりもぶっ飛んだ事を言ってきた。
「泉ちゃん、私最近気づくとアイスばっかり食べてるんだけど止められないんだけど」
遠藤さんはバイト終わりの更衣室で一緒に着替えながら深刻そうな顔をした。暑いから仕方ないと思うけどいきなりどうしたんだろう。遠藤さんは深刻そうに続けた。
「暑いから朝にアイス食べるじゃん?それで暑いから昼にアイス食べてバイトでも隠れて食べてるんだけどさすがに病気になるよね?」
「いつの間に隠れて食べてたんですか?」
アイスの食べる量もびっくりだけど隠れて食べてたのにもびっくりだった。全然知らなかった事実に遠藤さんが少し驚いていた。
「え、食べてたじゃん。コーラフロートとかにしてたじゃん私。今日二回やっちゃったし」
「え?二回も?……さすがですね」
「だってお腹減るじゃん」
理由が単純なのに誰にも気づかれていないだろう隠し食いをしているのはもうすごいとしか言えなかった。
「泉ちゃんやってないの?」
やってるみたいに聞かれても私にそんな度胸はない。
「やってませんよ。そんな事してたら絶対ばれるじゃないですか」
「え?バレないよ。デザート作る時についでにやればいいんだよ。ちょちょってやって隠しとけば平気。あ、さっき廃棄のケーキ持って帰ろうとしてたんだけど泉ちゃん持って帰る?ショートケーキとモンブランあるよ」
これまたビックリ発言をする遠藤さんは小さい箱にいれたケーキを見せてきた。今日真面目に働いてたのに全く気づかない私は鈍いのか。ついていけないがケーキは食べたい。
「あ、食べます。私モンブランで」
「うん、じゃああげるね。店長には秘密だからね?それ食べて勉強がんばってね泉ちゃん。また廃棄あったらあげるから」
モンブランをくれた遠藤さんは廃棄は処分しなきゃならないのにくすねてきたんだろう。たぶんそれもバレていないと思うがどうやってるんだろう。忍者ばりに密かにやってるって事?遠藤さんは本当にちゃっかりしている。
「ありがとうございます。言いませんけど店長にばれないように気を付けてくださいね?」
「大丈夫大丈夫。店長バカだから」
にっこり笑う遠藤さんは手の上で店長を転がしているようだ。
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