第88話



「結?……さっきの、あの私の意識してるって話……本当に気にしないでいいからね?なんか変な目で見てたんじゃないけどキモかっただろうから…。…それにさっきから私ちゃんと気を付けてるからね。だから、ごめんね?本当に」


今日は楽しませたかったし結の喜んだ顔が見たかったのに、まさか自分のこんな事で不快に思わせてしまうだなんて…。デートが台無しだ。隣にいた結は私の腕を掴んだ。


「……あれは、違うから」


結は強く腕を掴むと私を恥ずかしそうに見つめる。



「さっきのは……その、言い過ぎたって言うか……その、……本当に思ってたんじゃないから…。……ごめん」


「そうだったの?全然いいよ。平気だから」


あの発言は本当に照れ隠しだったのにほっとする。ていう事は、結のさっきから素っ気ないのも照れ隠し?私は照れていそうな結に話しかけようとしたら結は小さく呟いた。


「私も、……一緒だから」


「ん?」


「私も、泉と一緒。……ていうか、私は……いつも意識してる。だから、あんたが……意識してるとか言うから……余計緊張してるだけ……」


「え?緊張してたの?」


コンクールの時は緊張なんか一ミリもしてなかったのに。しかもいつもそんなに意識してくれてたのか。ふてぶてしい態度は変わらないけど確かによく照れている。結は照れながら眉間にシワを寄せた。


「普通にするから。私だってデートとか初めてだし、今日は……特別だから、泉には……か、…可愛いとか思ってほしいから……頑張ってきたし……」


結はもう最後ら辺は本当に小さな声で呟いて顔を下に向けた。結は耳も顔も赤いけど私にそれが移ったかのように顔が熱くなるのを感じる。結が同じように考えてくれて嬉しいし、乙女な結の気持ちが可愛くて私はなんか胸がいっぱいだ。


「結も一緒で良かった」


恥ずかしいけど結への気持ちは伝えよう。結が私のために頑張ってくれたならいっぱい誉めてあげないと。


「今日は一番可愛いよ。大好きだよ」


「……うん……」


私は耳元で囁くと照れて黙ってしまった結を連れて紅葉を眺めながら歩いた。

もうすぐ冬だから少し散ってしまっているがそれでも本当に綺麗で見ているだけで癒される。私は照れている結に話しかけながら紅葉を楽しんだ。

途中少しベンチで休みながら紅葉を眺めていたら結は全く話を振らなかったくせに話しかけてきた。


「泉」


「ん?どうかした?」


さっきよりは照れていないみたいだが、今度はなんの話だろう。私は結を見つめた。


「本当に……可愛い?」


「え?」


「だから……可愛いかどうかって聞いてるの」


さっき言った通りなのになぜ疑っているんだろう。私はまた照れだした結にもう一度言ってあげた。


「可愛いよ?結が一番可愛いと思うけど」


「……琴美とか、千秋とかより?」


自信がなさそうに言った結のそれで私はようやく察する事ができた。つまり嫉妬もしていたのか。結が安心できるようにいつも好きとか言ってあげているが結は私を見ていたら不安になってしまったのかもしれない。


「可愛いよ。不安になっちゃったの?」


私の問いかけに結は少し暗い顔をした。


「……いつも、皆に優しいんだもん……」


「え?そうかな?」


私は普通にしてるだけだけど結の捉え方は違うのだろう。結は更に続けた。


「……泉はそうじゃないかもしれないけど、……よく可愛いとか言ってるし、誰にでも分け隔てないから……ちょっとモヤってする。でも、それは良い事だし泉は優しいから分かってるんだけど……ごめん、私の我が儘だった」


自己完結する結は気を使ったように笑った。


「私まだ自分の気持ちが制御できてないみたい。こんな事言われても困るよね。……ごめん。やっぱり平気だから。……気にしないで」


「結…」


結の話を聞いてあげたかったのに結は強制的に終わらせてきた。


「平気。本当に平気だから。変な話してごめん。スフレ食べに行こう?私お腹減った」


「うん、分かった……」


結が立ち上がるから私も立ち上がった。また知らないうちに結に嫉妬させていたのか私は。これ以上聞いてほしくなさそうな結に私は聞かなかった。ただ結が私に対して嫉妬の感情があるのは事実だからもっと私が気を付けないといけないと思った。



その後は結がいつも通り接してくるから私もいつも通り接していた。スフレを食べていつもみたいに話して、暗くなってからライトアップされた紅葉をまた見に行く。その間は本当にいつも通りに話せていた。



「綺麗だね結」


私はライトに照らされた紅葉を見ながら結に話しかけた。明るいうちとはまた違った美しさに目が奪われる。


「うん。綺麗。今日見に来て正解だったね。来週だったら散っちゃってたかもしれないし」


「だね。あっ!写真撮ろ?忘れてた」


私は携帯を取り出した。明るいうちにも撮っておきたかったけど思い出して良かった。私は適当に紅葉が入る所を探して自撮りモードに切り替えると結の腰に手を回した。


「撮るよ?笑っててね」


「うん」


結の体を引き寄せると結は私に更に密着するように凭れてくる。私はそのまま写真を何枚か撮った。


「良い感じ。あとで送っとくね」


「うん、ありがとう」


結から手を離して写真を確認するがよく撮れていた。これでキスとかできたらカップルっぽく見えるんだけど生憎ここでは無理だから友達程度にしか見えない。それでも大事な写真だ。私が携帯をしまってまた歩きだそうとしたら結は私の手を握ってきた。あまりにも自然に握ってくる結に私は動揺しながら歩きだした。


「ゆ、結?どうしたの?……ここ、外だしダメだよ」


「夜だから大丈夫でしょ。私達まだ高校生なんだからこういう事してても変じゃないし」


「でも、……やっぱりダメだよ」


結のお母さんの事もあれば結の将来の事もある。私は慌てて手を離してしまった。


「……そんなに嫌なの?誰かに見られたらいや?」


傷ついたような切ない顔をさせてしまった。だけど、そういう話じゃないんだ。


「違うよ。結の将来の事もあるし、バレそうな可能性がある事はしない方が良いよ。二人でならいつでもできるんだから」


「こんな事じゃバレないでしょ」


「そんなの分かんないよ」


私はついつい口調が強くなってしまった。結と別れるかもしれない可能性なんか作りたくないんだ。


「私は結の事も考えて言ってるんだよ。それに、結のお母さんにも言われてるでしょ。とにかくこういうのは外でするのはやめよう」


「……うん。……ごめん」


しゅんとしたように謝る結はいつもなら私より大人な発言をするのに、今日はどうしたんだろう。私よりもその事は分かっているはずなのに。それでも結にこういう顔をさせるというのは罪悪感が沸いてどうにかしてあげたくなる。私は結が喜んでくれるような話をした。


「結、次のデートは私の家でおうちデートしない?おうちデートならずっとくっついてられるしどうかな?」


私だって結とは同じ気持ちなんだ。外ではできないけど結に触れていたい。結はちょっと嬉しそうに笑ってくれた。


「する。……でも、具体的に何するの?」


「んー、テレビ見たりしてくっつきながらごろごろしたら良いんじゃないかな?私なんか映画とか借りてくるから見ながらくっついてようよ」


「うん。じゃあ、私もなんか持っていく……」


「うん、ありがと。楽しみだね?その前にまたテストだけど……」


結が笑ってくれて良かった。今日はちょっと気まずくなってしまったけれど空気を戻せて良かった。


その後は帰る時まで笑っていられた。



でも、その日のデートから私はよく考えてしまうようになった。

学校にいる時もバイトをしている時も、結の事を前にも増して考えて悶々としている。


結が嫉妬をしないようにしたいけれどどうしたら良いのか分からない。前に言われた時からスキンシップとかは気を付けているけど、あとは具体的に何をしたら良いんだろう。それに結は私ともっとスキンシップをしたいと思うからいきなり手を繋いできた訳で、結からああいう事をするのは珍しいからもっとしてあげたい。


しかし二人の時間があまりないのが現実だった。



私達は携帯で話す事が大半で、結はピアノがあるし私はバイトと塾がある。それに休みの日は医学部の資料を集めたり学校見学に行く事が増えた。


それでも結の態度は変わらなかった。あの日は暗い表情をしていたのに、結は何も不満を言わない。

私はそんな結に何かしてあげたいのに何をすれば良いのか分からなかった。

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