第31話


「ありがと。それより保健室行こう?よく見てもらった方がいいよ」


私は照れてしまったのを何とか隠したくて話を逸らした。胸のドキドキは止まらない。結は友達として好きって言ってくれたんだ。意識するなんて勘違いもはなはだしい。


「……あっ!それよりリレー!忘れてた!早く行かないと…いっ!!」


私も忘れていたリレーを結は思い出したようで思わず立ち上がろうとしたけど顔を歪めてすぐにしゃがんでしまった。私は慌てて結の肩に手を回す。結は無理をしていたのか、私の中にまた不安が生まれる。


「ゆ、結?やっぱり痛いの?足?リレーは最悪補欠がいるから保健室行こう?」


こんな状態じゃ無理なのに結は首を横に振った。


「だめ。私が出るって言ったし、もう始まってるかもしれないけど行かないと」


「でも、痛いんでしょ?やめよう?いないならいないでどうにかしてくれるよ」


「痛いけど平気。迷惑がかかるし、走れないかもしれないけど投げ出すなんてできない。とにかく校庭まで行く」


結は私の制止を遮って痛そうに立ち上がると足を引きずるように歩き出した。こんなんじゃ無理に決まってるのに結は絶対に行く気なんだろう。平気って言ったくせに何も平気じゃないじゃないか。私が心配するからそう言ったのは分かるけど私は悲しかった。私にくらいそういう事を言ってほしかった。


私はゆっくり歩く結に近付いて腕を掴むと腰を曲げて自分の肩に結の腕をかけてから体を支えてあげた。やっぱり行かせられない。


「保健室に行こう。リレーなんかいいよ」


「だから、私は平気だからとにかく校庭に…」


「平気じゃないでしょ?!」


頑なに言い張る結に私は思わず怒鳴ってしまった。結は驚いたような顔をしたけど私は真面目に冷静に言った。


「何で無理するの?こんな状態じゃ走らせられないよ。やっぱりさっきやられたんでしょ?何で言わないの?私は結を心配してるから言ってるんだよ。無理してほしいから言ってるんじゃないんだよ」


結の真面目で優しい部分は好きだけど強がって無理をする結は見ていられない。でも結は困ったような悲しいような何とも言えない顔をした。


「……泉もやられてるのに、私が痛いなんて言えない。……私は、後で自分で何とかするからいいし……泉に……心配かけたくない」


結は自分に責任を感じているかのように言ったから私は益々悲しくなった。あんなの結のせいじゃないし私にくらい心配をかけさせてほしい。友達なんだからそんな事気にしないでほしかった。


「あれはあいつらのせいなんだから結のせいじゃないよ。私がやられたのは私が勝手にあの中に入ったからで私は結を守りたかったから別に気にしてないし、友達なんだから……そのくらい言ってくれたって良いじゃん」


「……うん。ごめんね泉」


まだ反論してくると思っていた私は結が素直に頷いて謝ったのに少し驚いた。結は暗い表情のまま俯くと小さな声で呟いた。


「本当は、足も腕も殴られて……凄く痛い。……歩くの辛いし……立ってるだけでも痛い……」


やっと言ってくれた結の本音に私は思わず笑ってしまった。そんなに痛いくせに我慢するなんて、真面目もここまでくると困ってしまう。


「最初からそう言ってよ?強がりなんだから。じゃあ、おんぶしてあげる。保健室近いし絶対落とさないから安心して」


私は結の体を離すと結の前でしゃがんだ。結のためなら頑張らないとならない。結はそれに戸惑って断ってきた。


「…な、何してるの?そんなの我慢するからいい。恥ずかしいし歩くから」


「えー?痛いんでしょ?いいから早く、今の時間じゃ誰も見てないよ」


「でも‥」


「結ー?痛がってるの放っておけないから、早くして?」


「……わ、分かった」


私は結を急かすように言うと結は遠慮がちに私の首に腕を回して背中に乗ってきた。

全く素直じゃないお嬢様だ。私は結の足を掴んでゆっくり立ち上がる。


「よし、じゃあ行くか。揺らさないように気を付けるけどちゃんと掴まっててよ?」


「う、うん。分かってる」


結の返事も聞いたところで私は結の体を揺らさないように気を付けて歩いた。結は見かけが華奢だからこうやっておんぶすると軽いのがよく分かる。こんな細くて小さい体で我慢をさせてたと思うと私にも非を感じる。結は少し素直じゃない所があるから何かあったらちゃんと聞いてあげた方がいい。


私が結の事を考えながら気を付けて歩いていたら結は首に強く抱き付いてきた。


「泉……」


小さな声で私を呼ぶから私は優しく聞き返した。


「ん?なに?痛い?」


ちょっと揺らしちゃったかなと思ったけど結は違うと否定してから言った。


「……ありがとう。……凄く、嬉しい…」


結の言葉に胸が熱くなるのを感じる。私をこれ以上好きにさせないでほしいのに勝手にどんどん惚れ込んでいく私は滑稽だ。でも友達として答えた。


「…全然いいよ。友達だもん」


「うん。でも、ありがとう」


「いいえ」


柄にもなくまた照れてしまった私は今顔が見えない状態で本当に良かったと思った。見られたら結に不振がられる。私はその後も慎重に結を保健室に運んであげた。



保健室につくと保健室の先生は結の状態に驚きながらも結を手当てしてくれて結はこのまま帰る事になった。打撲が酷いから一応レントゲンの検査もした方が良いと言われていて私はずっとおろおろしていた。

結が大丈夫なのか心配だけど何したら良いのか分からない私に先生は事情を聞いてきたからあった事をそのまま話した。


先生は琴美ちゃんの話をすると呆れたように頷いてまたあの子かと呟いていた。琴美ちゃんは学校でもどうやら問題児みたいで先生はちゃんとした対処をすると言ってくれた。


私も一応傷の手当てをしてもらったけど私は軽いと思うからそのまま残ろうとしたけど結が先生を巧みに丸み込めて私も帰る事になった。私は動けない結のために教室に鞄を自分のと一緒に取りに行くと結の家の高級車で帰る事になった。


私は大丈夫って言ったんだけど結は医者に見てもらわないとダメだからと結の家に連れてこられて結の家で本当に白衣を着た医者に診てもらった。

私は骨に特に異常がある訳もなく湿布を貼って安静にするように言われたけど問題は結だ。結は一応近くの病院でレントゲンを撮ったらしいけど骨に異常はなかったみたいで安心した。だけど酷い打撲みたいだった。



結はすぐに結の部屋のベッドで安静に横にさせられて私は何だか心配で心配でどうしたら良いのか分からなかった。

結の細い腕や足には湿布と包帯が巻かれていて本当に大丈夫なのか心配になってしまう。


「あの、結?大丈夫?」


「痛いけどもう大丈夫だってさっきから言ってんだろ」


私が何度も大丈夫?と聞くから結は若干キレているようだったけどこの状態の結を見ると心配が消えてくれない。


「ごめん、何か見てるだけで心配で」


「はぁ?医者も異常がないって言ってんだから平気でしょ。痛いけど安静にしてれば治るから」


「そうだよね。うん、分かった。落ち着く」


私はベッドの縁に座って結の様子を伺うけど痛々しくてやっぱり落ち着けない。結は特に痛そうにはしないけど今もそれなりに痛いだろうし早く気づけば良かったと少なからず後悔する。


「それより……誰かに、聞いたの?」


私が落ち込んでいたら結は少し言いづらそうに言った。


「琴美の事とか……私の事。何か、知ってるみたいな言い方だったから」


「……聞いたって言うか……聡美が教えてくれた」


秘密にしといたのに怒ってしまってよく考えなかったから結はあの時察したようだ。正直に答えた私に結は申し訳なさそうな顔をした。


「聡美か、……最近琴美が何もしてこなくなったから平気だと思って何も言わなかったんだけど話しとけば良かったよね、ごめん」


「何か色々事情があるみたいだからそんなに気にしてないよ。……結構、その……仲悪いの?」


私の質問に少し眉間にシワを寄せる結。聡美から間接的にしか聞いてないから何とも言えないけど結は視線を下げてしまった。


「仲悪い訳じゃなかったんだけど目の敵にされてる。昔はあんなんじゃなかったんだけど私が気に入らないみたいでいつも突っ掛かってくるから相手にしないようにしてるんだけど、今回はなぜか相当頭にきてるみたい」


「そうなんだ。でも、あれはやりすぎだよ。頭にきたからってあれはダメだよ。結こんなに怪我しちゃったじゃん」


肌の白い結はやられたであろう足も腕も赤くなっていたし結があんなに痛がるんだからあいつらは結を相当殴ったに違いない。ムカついたからってやって良い事と悪い事がある。結は私に視線を戻すと少しだけ笑った。


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