第26話
千秋と話しながら動物園から歩いて少しした所に食べたり飲んだり、お土産を買ったり色々できる商店街に来た。ここは観光客も多くてよく賑わっているけど色々美味しい物が売っていて私は友達とよく来ている。
「こんな商店街があるんだね」
千秋は商店街に入ってすぐに回りを見渡しながら驚いていた。ここは有名な商店街だと思うけどあんな学校のお嬢様じゃまず来ないだろう。結も聡美も千秋と同じような顔をしている。
「お菓子とか色々安いしいっぱいあるから楽しいんだよここ」
「そうなんだ。泉ちゃんはよく来るの?」
「あぁ、うん。ここで色々食べ歩いたりとかしてプリクラ取ったりするかな?あ、千秋ここだよ」
「あ、うん」
私は話しながら指を指して場所を教えてあげた。入って少しした所にあるカフェは今時のSNS映えを狙った感じがあるけど店内は可愛らしいインテリアとかがあって女子なら好きそうな感じだと思う。しかも今日はそこまで並んでいないからすんなり中に入れた。
席に通されてから三人はそれはそれは珍しいものを見るかのようにきょろきょろしていて私は大丈夫か不安だった。
皆が言っていた通り狭いかもしれないけど内装は可愛いし味は食べてるから保証できると思うけどメルヘン過ぎただろうか。
「……何か、もっと違うとこが良かったかな?」
私はメニューを開いて皆に見せながら聞いた。ダメなら他にも考えてはいる。
「え?すっごく可愛くて私は良いと思うよ」
隣に座っていた千秋は嬉しそうに言ってくれてほっとするけど問題は結だ。結は優しげに笑った。
「そうだね。可愛くて良いんじゃない?見た目が小さかったから中はもっと狭いかと思ったけど案外広いし」
「だね、これは女子なら来そうだわ」
結も聡美も何だかんだ否定的ではないしほっとした。とりあえず安心。あとは食べ物と飲み物だ。私は皆に説明した。
「良かったー。ここさ、ラテアートとチョコが人気でラテアートは3Dみたいに立体的に作ってくれるから頼むと楽しいと思うしチョコは色々種類あるんだけど大体美味しいから好みかなって所だけど、皆苦手なものない?」
一通り説明をして苦手なものをチェックするけど皆特にないみたいで安心した。
それから適当に飲み物とか食べ物を頼んで待っていたらラテアートが来て千秋は本当に喜んでいた。
「わぁ!可愛い!崩すの勿体無いよ」
千秋のラテアートは白い泡を立体的に盛ってあってコップの縁に可愛らしい熊が手をかけているような絵が描いてある。確かに熊も可愛いんだけど喜ぶ千秋の小動物感の方が可愛くて私はいつもより笑ってしまった。
「これ可愛いよね。千秋写真撮っときなよ」
「うん!写真撮る!泉ちゃんのも一緒に撮っていい?」
「うん、良いよ」
私は自分のコップを千秋の方に動かした。私のラテアートは普通にハートだけど千秋はにこにこ笑いながら携帯を取り出して写真を撮った。千秋可愛いなと思っていたら聡美が驚いたように言った。
「案外美味しい」
聡美はラテアートに全く興味を示さずに即来たら飲んでいたけど美味しくて安心した。ていうか、聡美って一体何に興味があるんだろうか。
「確かに。可愛いし美味しいね」
結は千秋と同じ3Dのラテアートを頼んでいたけど写真を撮ったらすぐに崩して飲んでいてこの二人に関しては温度差を感じる。千秋は崩れないように頑張ってたのに、分かってたんだけど複雑。でも、とりあえずは美味しいみたいで良かった。
「良かった。ラテアートとか可愛いから皆好きかなって思ったからさ。それに千秋は絶対好きだと思ったんだよ」
ここを決める時、まず聡美は意見がないからどうでも良いとして結は千秋が楽しめれば大丈夫そうだから千秋を考えて私は決めた。千秋は話していて分かったけど見かけ同様可愛いものが好きだし甘党だしたぶん一番女子力が高いと思った。
結と聡美も可愛くて女子力が高そうだけどこの二人はさっきみたいに落ち着いてるから千秋みたいなリアクションは絶対ないだろう。千秋ってそう考えるとマジ可愛いの原石だと思う。話してるの見てるだけで癒されるもん。
「うん、私すっごく嬉しい。ありがとう泉ちゃん。家に帰ったら作ってもらおうかな」
「……ん?」
ラテアートって難しそうだけど家で作れるの?てか、作ってくれる人がいるの?私は普通に笑いながら言った千秋に話しかけようとしたら聡美がラテを飲みながら口を開いた。
「あぁ、良いじゃん。シェフなら簡単にできそうだし。それかバリスタ雇えば?」
「それ良いんじゃない?バリスタなら大丈夫でしょ。でも、毎日これを飲むのは体にどうかと思うから紅茶とかの方が良いんじゃない?」
「……」
「うん、そうだね。たまに飲む事にするけど可愛くて毎日飲みたくなっちゃうよ」
皆普通に話してるけどバリスタを雇うって……やっぱり次元が違う。いきなりのおやおや展開に庶民は焦る。私はただ黙って笑ってラテを飲んだ。
それから遅れてそれぞれ頼んだガトーショコラや生チョコとがやってきて、皆美味しいって満足してくれた。
話した内容は動物園と体育祭とまた私には付いていけないとこもあったけどその日はとても充実して終了した。
皆とも距離が近くなった気がするし最初はマジ不安だったけど楽しかった。ただちょいちょい皆と撮った写真を見返すと私は浮いている感じがして切なかったけど。
それから勉強と体育祭の練習とバイトで忙しく皆で頑張っていたら体育祭の練習も大詰めにきた。体育祭はもうすぐだ。最近は少し暑くなってきたけど、この季節にうちはやってくれてありがたいと思う。全学年通しての練習も行って本番の日が来るのはあっという間だった。
だけどその前に私は休日にまた結の家の最寄り駅に結と待ち合わせをしていた。
今日は結がいきなり予定は空いているか聞いてきから空いていると答えたら昼過ぎに待ち合わせね、と言われてここで待っているけど何だろう。何もしてないけど何かしたっけって気になる私の思考を止めたいけど考えずにはいられない。
そのまま考えていたら結は前と同じ高級車でやって来た。
「泉、早く乗って」
「あ、うん!」
結は車から出てくると私に急かすように言ってきたので急いで車に乗り込んだ。今日も結のお嬢様スタイルは決まっている。本当に可愛くて羨ましい。
「今日どうしたの?てか、どこ行くの?」
私は何も知らされていなくてとりあえず体一つでここに来たけど予想もつかないから結に聞いた。
「こないだの約束、今日教えてあげる。タオル持ってる?」
「え!楽しいやつ?!わー、楽しみ!タオル持ってるけど何すんの?」
私はこないだの結が七割取れたら教えてくれる約束の事だとすぐに分かった。こんないきなりだけど嬉しくなってしまう。だけどタオルの関係性がよく分からなかった。
「持ってるなら良い。着いたら分かるよ」
「え?ここまで来てまだ渋るの?結ケチ過ぎるよ」
「今教えたら楽しくないでしょ」
呆れたような顔をした結。気になるけどしょうがないので着くまで待つ事にしたけどいつ着くのかも検討がつかない。
まだかなぁ、私はそわそわしながらしばらく待っていたらやっと着いたみたいで結の後に車から出ると答えはすぐに分かった。
「え?!ちょっと待って、これめっちゃ有名なミュージカルじゃん!これからミュージカル見るの?」
大きなミュージカルのポスターが劇場付近に貼ってあるし有名な劇団の名前も大きく書いてある。私はBlu-rayでしかミュージカルを見た事がなかったけど結は本当に言った事を実行してくれたのが嬉しかった。
「そうだけど、あんたも好きだって言ってたし楽しいって言ったでしょ。ほら行くよ」
「う、うん!結ありがとう!」
私はすたすた歩いて行ってしまう結の後を慌てて追いかけた。劇場は見た目からも大きくて外も中も人が多い。それもそのはず、この演目は大体の人が知っている大きなエンターテイメント会社の話を扱っていて人魚姫が恋をする話だった。私はこれが前から気になっていたから生で観れるのが楽しみでワクワクしていた。
受付を済ませてパンフレットを貰って席に向かうと二階席の真ん中の一番前だった。来た事ないけど舞台全体が見やすいし舞台から意外に離れていないし絶対良い席だろう。私は非日常的な空間に浮かれていた。
「結!結!席観やすくない?やばくない?目があったらどうしよう!」
隣に座った結はさっさと鞄からタオルを取り出して膝に置くと私をいつもみたいにウザそうな顔をして見てきた。
「うるさいから黙れ。とにかくタオルだけ出して待ってろ」
「あ、うん分かった!しばし待って」
私は慌てて鞄からタオルを取り出して膝に置いた。何かもう初めての事に興奮して楽しみすぎて禿げそうだ。私は嬉しくて楽しみでにこにこ笑っていたら結は面倒臭そうに言った。
「それよりトイレは?始まったら立てないから今行っといた方が良いよ」
「え?大丈夫大丈夫。私これすっごい気になってたんだよ結!今日は本当にありがとうね!もう何か嬉しくて死去しそう」
結は私に若干引いていそうだったけど私は興奮し過ぎていて気にならなかった。このワクワクは抑えられない。前から観たいなと思っていたけど結が連れてきてくれて心底嬉しい。結は少し眉間にシワを寄せた。
「子供じゃないんだから…。始まったら大きい声出したりしないでよ?」
「そんなの当たり前じゃん。私を何だと思ってんの?」
「は?そんなのちょっとずれてるバカとしか思ってないけど」
当たり前みたいに即答する結に傷つくけど結だから仕方ない、結はこういう人。うん、私は冗談っぽく笑いながら言ってやった。
「それ酷くない?私のハート砕けたよ。てか、陰口は影でやってくれる?本人いるんですけど」
「陰口じゃないし本音だけど」
「本音とか初耳だよ。もう私悲しみです」
「は?泉何言ってんの?」
結って本当に辛口だよね。マジな顔で言わないでいただきたい。いつも通りの結に私は演目が始まるまでしつこく嘆いた。
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