第18話
「普通じゃない?」
この位のスキンシップだったら大体やるだろうに。結は照れてるくせに顔が怒っていそうに見えるのは結なりに照れ隠し何だろうけどこの時の結は可愛らしい。
「……私には泉みたいな友達いなかったから」
「じゃあ、私は結の初めての楽しい友達だね」
「……そうかもね」
結はため息をつくとおもむろに私の頭に手を伸ばすと髪を整えるように髪を撫でてきた。こりゃ相当寝癖がついていた?私は少し恥ずかしく思っていたら結は呆れたように言った。
「髪をどうにかしろ」
「寝癖ヤバい?」
「バカなのが見た目から分かるみたいについてる」
「マジか。いつもヤバいんだよね、ありがとう結」
結は一通り私の髪を整えるとまたため息をついた。結って何だかんだ面倒見が良くて落ち着いててため息つくだけでもお姉さんって感じがする。私が話しかけようとしたら結は呆れたように笑ってから先に口を開いた。
「バカで世話が焼けるけど、泉といるといつもより楽しく感じる」
素の笑顔で耳を赤くしてるくせに結は素直に思った事を言ったんだろう、私はそれにまた昨日の胸の高鳴りがした。
さすがに二日連続でこうなると私も戸惑うけど認めないとならない。結の素の笑った顔を見て、結の心に触れて、私はたぶん惹かれている。
信じられないような話だけど私は女の結に恋をしている?今まで恋なんてした事なかったのに、まさか女の結に恋をするなんて。
この胸の高鳴りは今までした事がないし結から目が離せなくて何だか自分がおかしいからそれしか考えられない気がするし間違ってないだろう。私は結が恋愛的に好きになってしまったみたいだこの短期間で。
「泉?」
私が内心動揺していたら結は怪訝そうに私を見た。さっきの今でまだ胸が高鳴るけど私は平然を装って笑った。結にバレる訳にはいかない。
「なぁに結?結はやっぱり私が大好きなんじゃん。昨日あんなキレてたくせに素直じゃないんだから~」
私は笑って結をからかってみるけど結は照れて眉間にシワを寄せている。
「はぁ?そんな事言ってないだろ」
「そう照れるなって~」
「調子に乗るな」
私のからかいに結は手で拳を作ると中指の第二間接でおでこを殴った。
「いっった!!めちゃめちゃ痛いんだけど!」
強烈な痛みに思わずおでこを擦ると結はニヤリと笑って起き上がって腕を引っ張ってきた。
「調子に乗るからでしょ。もう早く起きるよ。いつまでも寝てるなバカ」
「益々バカになるから止めてよもう。起きるから待ってよ」
私はそうしてじんじんするおでこを擦りながらやっとベッドから出た。でも、こうやって普通にしていたら胸の高鳴りも収まってくれた。
ベッドから出た私は貰った服に着替えて朝食を食べた。朝食は夜みたいなコースじゃなくてプレートに色々乗っかって出されてテーブルマナーを気にしなくて良い事にほっとした。それから歯磨きとか化粧とか色々済ませてからまた勉強に取り掛かる。
結は昨日の復習をしながら勉強をしっかり教えてくれて、本当にためになった。
結は先生よりも解りやすいし私の分からないにとことん付き合ってくれて本当に私はよく理解できた。
結が教えてくれるから真面目に聞いて真面目に考えて勉強をしていたけど、問題ができるようになると結は本当に少し笑うからそれが私は何だか気になって仕方なかった。
朝感じたあの気持ちは、もう勘違いじゃない。結が笑うとやっぱりときめいて見入ってしまう。
いつもは鋭く睨んだりするのに笑うと本当に優しそうな顔をしている結に私は集中を時折切らしていたけどバレないように頑張った。
「もう休憩にしよう」
一通り勉強を終えてから結はやっと休憩にしてくれた。昨日教えてもらったからだいぶ早いペースで進められてもうすぐ終われそうだけど私は休憩に喜んだ。
「やったー!休憩休憩、結ピアノ聴きたい!」
私は早速ねだってみた。疲れたから休憩挟んでくれて有り難いけど私はピアノが聴きたかった。でも結はいつもみたいにウザそうな顔をした。
「はぁ?まだ勉強終わってないじゃん」
「えー!良いじゃん休憩なんだから聴きたい!」
「勉強終わったらって昨日言ったでしょ」
結は呆れていたけど確かに結の言った通りだよね。はぁ、仕方ない。私はしょうがなく諦めたくなかったけど一旦ピアノは諦めた。
「はいはーい。あとちょっと我慢しますよ。で、今日は何弾いてくれるの?」
「考えてない」
だいぶワクワクしてたのに考えてもくれていなかったなんて酷い。まぁ、でも言われても分からないから良いのか?私は分からないなりにリクエストしてみた。
「じゃあ昨日みたいな凄いやつ聴きたい」
「凄いやつ?」
結にはよく分かんないみたいだから私は自分なりに頑張って説明した。
「んーと、何かめっちゃ早くて、気持ちが高ぶる?って言うか、おぉ!って感じになるやつ」
「……意味分からないんだけど」
結は顔を歪める。頭の良い結にはこんなよく分かってない私のアバウトな説明じゃ伝わらなかったんだろう。でもピアノとかやった事ないし全く知らないから仕方ないよね。とりあえず撤回しよう。
「ごめん。結のお任せで頼むわ」
「はいはい。それより、今度の皆で行く動物園は案内に誰か呼んだ方が良いんじゃないかってパパに話してみたら言われたんだけどいた方が良い?」
結は首を傾げながら聞いてきたけど友達の中に知らない人がいたら楽しくなくないだろうか。案内は有り難いけどパンフレットがあるだろうし、私は否定した。
「いや、いない方が良いんじゃない?いたら何か気まずいだろうし好きに回って見た方が楽しいと思う」
「じゃあ、断っとくわ。でも、一応何かあった時のためにボディーガードは何人かつけた方が良いよね?三人くらいで丁度良い?」
「え?ボディーガード?」
私は困惑した。ボディーガードって確かに皆お嬢様だけど動物見に行くだけだよね、何かあるのか?でも、結は真面目な顔をしているしマジなんだろう。
「だって女四人で行くんだよ?一人なら守れるけど三人も何かあったら守れないし」
戦いに行くとかじゃないのに結は当たり前みたいに言うから驚いてしまう。心配性と言うかどこまでも真面目だ。しかも結本人が守る気だったのがビックリするけど私の事投げてたし私が盾になるより断然良いか、何にもないだろうけど。
「そんな心配しなくても大丈夫じゃない?ただ動物見て歩くだけだし、人だって沢山いるんだから問題ないでしょ」
私は極めて当たり前の事を言ったけど結は少し納得していないようだった。
「でも、何もないなんて言い切れないでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど。でも大丈夫だよ、何かあったら私が何とかするし携帯もあるんだから警察とか呼べるじゃん」
私じゃ頼りないけど何かしらはできると思うし携帯あれば問題ないだろう。結は少し考えるように黙ってから答えた。
「……あんた何かできんの?」
不審そうな表情に私は普通に答えた。
「いや全然。結みたいに投げたりとかはできないよ」
「ダメじゃん」
結の言った事は確かなんだけどなぜかすんごい心に刺さる。でも私は笑った。皆最近友達になったばっかりだけど私は何かあったら逃げるようなやつじゃない。
「ダメだけど平気だよ。私が前に出れば良いだけだし、そしたら私に注目が行くから守れるじゃん。ナンパとかなら無視か流せば良いし」
「……なにかっこつけてんだバカ」
「え?かっこつけてはないけど」
何かまた結の耳が赤くなってきたけど今のどこに一体照れたんだろう。しかも悪態ついてるしどういう事なの?結は顔をしかめた。
「何にもできないのに前に出たらやられて終わりでしょ?バカなの?」
「でも、やられても皆逃げれるし大丈夫じゃん」
「何にも大丈夫じゃないだろ」
「え?だって皆助かるじゃん何かあったら」
私がやられてる間に警察とかに連絡すれば良いし死ぬような事はさすがに起きないだろうに、もしもの話なのに結は少し怒ったように言った。
「泉が助かんなかったら皆じゃないでしょ?」
「あぁ、それは、そうかもしれないけど…」
「友達がやられてんのを見てられる程私は人間できてないの。泉がやられてるのを見て何にも思わない訳がないし私は泉をおいて逃げれないから。私はそんな薄情なやつじゃないの」
真面目に本心で言ったであろう結は私に凄まじく悪態をついたりするのに友達として大切に思ってくれているみたいで私は何だか内心照れてしまった。
結の人となりは本当に良いと思う。
「…ありがとう。じゃあ、一人くらいにしといたら?私は何にもできないけど何かあったら頑張るし、結も一緒にいてくれるでしょ?」
私は真面目な結の気持ちを汲んだ。嬉しい事を言われてこれ以上何か反論したりはできない。結はそれに鼻で笑った。
「そうするわ。私一人じゃ何かあったら限界があるけど、いないよりはいた方があんたも何か役に立つだろうし」
「うんうん、そうだね」
嫌味を言う結に私はまた好感が持てた。
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