第16話 クイファとエレン
ルゥを探すため走り回っているとあちこちから戦いの音が聞こえる。
「リューさん止まって下さい」
「どうしたんですか?」
「リューさんが倒したのはこの賊のリーダーですよね?」
「多分そうだと思います。他の奴らはアイツに従ってましたし」
「・・・」
(おかしいですね。普通はリーダーがやられたら統率が取れなくなり、逃げるはず。やけになって暴れたのかしら?それとも別のなにかがいるとでも……)
考え込んでいるとリューの声がした。
「クイファさん、大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込んでくるその瞳をなぜか見れなく、顔を逸らしてしまう。
「だ、大丈夫です。それよりリューさん……」
クイファが自分の考えを話そうとすると遠くから大きな音が聞こえた。
「っ、なに?」
「リューさん大樹のとこからです!」
クイファが指を指すところにはこのエレフェアで一番神聖な場所、大樹だった。大樹の近くから今も魔法が発動したのか撃ち合ってるような音が聞こえる。
劉は嫌な予感がして駆け出す。
「あ、リューさん!」
「クイファさん早く行きましょう!」
僕とクイファさんは急いで大樹の元に向かった。
●●●
「な、なにこれ……」
「あれは……」
大樹の近くに着いた劉とクイファは唖然としていた。なぜなら大樹の傍にはなにかがいた。黒いマントを着ていて姿がわからない。しかし、人間のものとは違う気配を感じる。そしてその手にはルゥがいた。
「な、あれはルゥ!?」
ルゥに気づいた劉は駆け出そうとする。
「待ってください」
それを止めたのはクイファだった。
「なんでですか!早くルゥを助けないと!」
「気持ちは分かりますが無闇に行ってもあの敵には敵わないかもしれません」
「ど、どうしてそんなことが……」
「私でもあの敵の気配はあまり感じたことがありません。あの気配は平気で生き物を殺そうとしています。まるで……」
『まるで魔王みたいってか?』
クイファが言おうとすると劉からそんな声がした。
「え?」
クイファが目の前を見るとそこには先程の焦ったような姿ではない薄ら笑いをしている劉がいた。
「もしかして悪神様?」
『そうだ。今は少しだけこいつの身体を借りて話している』
「それも言いたいことがありますが一先ず置いとくとして、先程の魔王みたいというのは一体……?」
『マントを羽織っているが、あの気配は多分魔王の配下だな。それもかなり魔王に近い力をもっていやがる』
「そんなのが分かるのですか?」
『眠ってたとはいえ、一応悪神だぜ?それに雰囲気っていうのは時間が経ってもあんまり変わんねぇよ。強い気配とかは特にな』
「なるほど。ちなみにあの敵には勝てるのでしょうか?」
『無理だな』
「そんなはっきり……」
『|今の段階(・・・・)ではな。俺が倒すとこいつのためにならないし、まあちょっとした特訓だな』
悪神はおどけて言う。
「魔王の配下相手に特訓……」
クイファは悪神の考えに呆れていた。
『そろそろ意識を切り替える。お前は巻き込まれないように気を付けろよ』
「それは一体……きゃっ!」
クイファが問い返そうとした瞬間ものすごい風が吹いた。それに驚いて少しよろけてしまう。しばらくして
から劉がいた場所をみるとそこに劉はいなかった。かわりに剣戟が聴こえる。そちらに視線を向けると信じられない光景があった。
「・・・・・」
その光景を見たクイファは声を出せなかった。 今もクイファが見てるものが信じられないのだ。呆然としているクイファのところに誰かが来た。
「あんたなにやってんの、こんな所で」
エレンだった。
「エレン」
「で、なにあれ。説明してほしいんだけど。しかも戦ってるのってあの人間よね?」
「……あれは魔王の配下らしいです。戦ってるのはたしかにリューさんです」
「魔王の配下!?そんなのに敵う訳ないじゃない!」
「それなら見ていたらいいですよ。あの戦いは私ですら手が出せないレベルですよ」
「そんなこと言ってもここは私たちの場所じゃない。なら私たち女王が守らないと!あんな人間なんかに守って貰う必要はない!」
エレンはそう言って駆け出そうとする。その手を掴むクイファ。
「まだ分からないんですか」
「なにを!」
「昔と今は違うのです。私たちがそんな昔に縛られていると皆が苦しいままです。確かに私たち女王の役目は規律を守り、エレフェアを守ること。でも、それは誰の手も借りてはいけないことではないはずです」
「でも、人間はさっきだって襲ってきたじゃないはか!」
「……でも、人族全員がそうではないでしょう。昔のことは私も覚えていますし、決して許せることではありません。でも、それに縛られていくのは違うでしょう。ずっと篭っているよりこちらからも歩み出さないと」
「それは、でも……っ!」
クイファは正しいことを言っている。エレンもそういうことは少し考えた。でも、駄目だった。人間と仲良くなる未来なんて想像出来なかった。エレンもエレンで苦しいのだ。女王として伝統を守るか、変えていくのか。
「リューさんはここにきた最初は散々な扱いでした」
クイファが不意に話し出す。
「最初は寝る場所もなく、話せる相手は私かルゥだけでした。でもリューさんは挫けずに努力し続けました。この世界に来て右も左も分からず、信頼する相手も少ない。住もうとしたとこではぞんざいな扱いをされる。あなたも経験はあるでしょう」
「……それとこれは違うでしょ」
「剣も魔法も素人で、あまり成長も見込めない。それなのにリューさんは努力し続けました。分かりますかこの大変さが?今では妖精たちと仲良くしていますが、精霊たちはまだ警戒している。なぜ?リューさんはここに来てからなにも悪いことはしていません。ただ努力してただけです。なのに人間というだけで嫌悪し、警戒する。それは本当に正しい行動なのでしょうか?私は人間全員と仲良くしたいとは思っていません。私が信じれる人を信じたいだけです。エレン、あなたはどうですか?」
「そんなの私だって分かってる!でも分かっていてもまだ、信じれないんだ。人間に会うとどうしても怖いんだ」
「なら、1人だけ信じてみたらいいじゃないですか」
「1人……?」
「ええ。リューさんは今1人で戦っています。それはルゥを助けるため。それにこのエレフェアを守るため。少ししかここにいなかった人が必死に戦っているのにあなたはまだ、信じれないですか?」
「……分かった。とりあえずこの戦いは見ておいてやる」
「今はそれでいいです」
クイファはそう言って微笑んだ。
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