第13話 襲撃
「出て行くってそんな急に言われても……」
「そんなすぐにって訳じゃないの」
「でも、僕行くあてがどこもないですよ」
「少し遠いけど、ルセンの国境辺りに小さな街があるわ。その街に行ったらギルドに行きなさい」
「ギルド?」
「エレフェアにはないのだけれど、泊まる場所とかクエストとか受けられ所よ」
「ああ……」
(ゲームとかでは必須の建物だ)
「りゅーはギルド知ってるの?」
劉が納得しているとルゥが聞いてきた。
「向こうにも似たような言葉があって」
「へぇ〜」
ルゥが感心しているとクイファが話を続けた。
「行く先はとりあえずそこでいいわね?」
「はい」
「よろしい。あとはルゥも連れてってほしいの」
「え」
この言葉にルゥは驚く。
「……えっと、それはなぜですか?」
「ルゥにはもっと自由に生きてほしいの」
「自由……」
「私はずっとここにいました。女王になってからは色々と見たりしてきましたが、もう気軽には行けなくなってしまいました」
「それは……」
「エレンが歯止めが効かなくなってきました。このまま私が人間のところにいけば、エレンは人間を襲うかもしれません」
「その、歯止めが効かなくなってきたのはやっぱり……」
「りゅーさんのせいではないわ。りゅーさんを見つけたのはルゥ。そしてここに居ていいと言ったのは私なのだから、気にすることはないのよ」
「でも……」
「もうこの話はお終いにしましょう」
劉はまだ引きずろうとするが、クイファはそれを強引に終わらした。
「話を戻すけど、ルゥには自由に生きてほしいから頼んでるの。さすがに1人は心配だから、りゅーさんなら信頼してますから」
ニコリと微笑むクイファ。その微笑みに劉は顔を赤くした。
「むぅー」
そんな劉とクイファをルゥが機嫌悪そうに見ている。それに気づいた劉は慌てて話を戻す。
「え、えっとルゥにも聞かないと」
「それもそうね。でも、聞かなくても私は分かりますよ」
「え、そうなんですか?」
「あんだけ態度に出てたら分かりますよ、普通なら」
「ええ?」
劉はクイファの言ってることが分からず、ますます首を傾げるのだった。
「わ、わたしはりゅーと一緒がいい!」
「そ、そう」
意外と声が大きかったため、少し後ずさる劉。
「むぅー」
劉のその態度を勘違いしたルゥが不機嫌そうになる。そして拗ねた声でこう言った。
「わたしと一緒は嫌なんだ」
「いやいや、そんなことないよ」
「ほんと?」
「うん。ルゥは大事な友達だからね」
「・・・・・」
ルゥが黙ったので不思議に思い、声を掛ける。
「おーい、ルゥどうしたの?」
「ふーんだっ」
ルゥはさらにそっぽを向く。
「ふふふ、本当に仲が良いですね」
「そ、そうですかね」
「ルゥも悪いのだけれど、りゅーさんももう少し乙女心を分かっていないとこの先苦しいですよ?」
「言葉に出してくれないと難しいですよ」
「少しずつで良いですよ。……あら、もうこんな時間ですか。2人とも今日はとりあえず寝てください。また後日話し合いましょう」
「分かりました」
色んな出来事が重なった今日も終わりが来たのだった。
●●●
それから3日後に事件は起きた。
あの騒動の日から翌日と2日目は特になにもなかった。劉はいつも通りに訓練して帰るという日々を過ごした。3日目の今日も日が暮れるまで訓練をして帰る途中に人間を見つけた。5〜6人の集団だった。
(なにしてるんだろう……)
劉が練習している草原はあまり人気がないらしく、人がいない。いるのは魔獣ぐらいだ。なので、劉が不思議に思うのは当然だった。
(初めて見るな)
劉はここに来て初めて人間を見た。今までは妖精や精霊としか会ってないからだ。
(あんまり話すの得意じゃないし無視しよう)
劉は少し遠回りしてエレフェアに向かった。少し歩くと騒がしい音と声が聞こえた。
「悲鳴……?」
微かにだが、悲鳴らしきものが聞こえた。劉はなんだか不安に駆られ走った。
「こ、れは……」
劉がエレフェアに着くとそこは戦場となっていた。大人数の|人間(・・)がエレフェアを襲っていたのだ。悲鳴は妖精や精霊達のもののようだ。
「早く、助けないと……っ!」
劉は近くにいる妖精のところに向かった。
「大丈夫?」
「あ、りゅー……」
倒れていたのは大木の家で仲良くなった妖精だった。
「なにがあったの?」
「人間達が、突然襲って、きて、それで……クイファ様やエレン様が対応してるけど、人数が多すぎて対処しきれていないの……」
「他の妖精達もやられてるのか……」
「うん。……ねえ、りゅー」
「なに?」
「人間のりゅーに、頼むのは違うと思うけど、エレフェアを助けて……っ」
「もちろん助けるよ。僕の手が届く範囲で頑張ってみる」
「ありがとう、りゅー!」
「僕にとってエレフェアは大事な場所だしね……とにかく君をとこかに休めないと」
劉はそう言って大木の家へ向かう。
「そういえば君の名前は?」
家に向かう途中にそう話しかける。
「私はナノ」
「ナノは襲ってきた理由知ってる?」
「知らないの。私達はいつも通り過ごしていたんだけど、急に人間達が出てきて……ここは結界があるから見つからないはずなのに、どうしてなんだろう……」
話している内に大木の家に着いた。
「誰もいない……」
中に入ると誰もいなかった。
「とりあえず、ナノはここにいて」
「……いや」
「え?」
「私も行く」
「怪我してるのに大丈夫なの?」
「みんなが心配だもん……」
「分かった、一緒に行こう」
「うん!」
「離れちゃダメだよ」
「分かった」
劉はナノと一緒に大木の家を出る。
(クイファさんとルゥを探さないと)
「ナノはなにか魔法使える?」
「探知系なら使えるよ」
「クイファさん探せる?」
「うーん、クイファ様は気配が強いからいけると思う」
「んじゃ、頼んだよ」
「分かった【サーチ】」
ナノが探索魔法サーチを唱える。サーチは物の把握やトラップなどを見つけるための魔法だが、風の魔法熟練度が70を超えると人の気配も探せるらしい。
「……見つけた」
「どこ?」
「エレン様の家のほうだからあっちかな」
ナノは大木の家と瓜二つの大木を指した。
「向こうの大木周辺にいると思う」
「ありがとう、ナノ」
劉はそう言ってナノの頭を撫でる。
「っ……り、りゅー!早く行こ!」
それに照れたナノは顔を赤くしながら大声でそう言う。
「わ、分かった」
劉はなにか良くないことをしたのかと思ったが、今はそんなことを言わずに走り出す。
5分ぐらい走っていると大木が近くなってきた。もう少し走ると大木の目の前ではクイファとエレンが数十人の男に囲まれていた。
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