第2話

 俺の住む村「ラバト」はとんでもない秘境にある。


 山河、谷、自然あふれる水郷。絶景の峡谷。

 つまりクソど田舎ってことだ。

 人より犬猫の数の方が多く、夜7時になると真っ暗闇に包まれる。


 一応コンビニと呼ばれる店はあるが、10時に閉まってしまうやる気のなさだ。学校も小中高が1校ずつしかないので、他校の生徒と喧嘩なんてありえない。

 

 だから俺は来年、進学のため帝都に出て行くことになる。きっとこの村を離れたら、数年は帰って来れないだろう。大都会の帝都へ行こうとすると、色々乗り継いで1日かかるしんどさだからだ。


 しかしそんな田舎でもよそから人と金が大量に動く期間が3年に一度やってくる。




 それは「帯刀儀」と呼ばれる儀式が行われるからだ。




 実はこの村は、天領である。

 こんなド田舎が帝都の重要な直轄地なのだ。


 というのも高山に囲まれ複雑な地形のおかげで名だたる名水が湧き、プレミアつきで帝都へ水を供給しているせいなのと、他にうちの村が別格とされることがある。



 それはここが有翼族の発祥地であるということ。



 有翼族とは文字通り翼を持つ種族のことで、神話の時代から今へ生き残った少数の一族である。残念ながら今、この村には有翼者は1人もいない。

 そういう俺にももちろん背中に翼は無い。

 彼らは何世紀も経て全国に散らばり、各々の土地に根付き独自の進化を遂げ現代も少数ながら脈々とその血筋を守っている。


 そんでもってそんな彼らが17歳を越える時、必ずこの村に集まり、ある儀式を受けなければならないという決まりがある。


 それが「帯刀儀」だ。


 有翼者の男子は帯刀儀を受けたあと帝都の護りにつかねばならないという、古代からの誓約がある。


 それを「ウケイ」という。


 彼らは2週間、俺の村の奥地で本格的なサバイバル訓練をし、正式な騎士団と認められると村の最深部にある滝の神殿で入団式として「帯刀儀」を厳かに受ける。


 そうやって彼らは、帝都騎士団となる。


 噂では彼らは皆若くて、むちゃくちゃカッコいいらしい。

 らしいというのは、騎士団員を見てはならないという決まりがあるからだ。もし村で遭遇してもガン見してはならないと村の長老に言われてる。


 だけどその期間、村は何となく浮き足立って落ち着かない。

 彼らの翼が生む風が、村の凪いだ空気を吹き飛ばすせいなのか。


 特に村の女子どもは普段しないようなオシャレをしてみたり、ムダ毛を処理してみたりと訳の分からない情熱に駆り立てられている。



 三日前のことだという。


 カヤは女どもと例の、村に一軒しかないコンビニ『ふくろう』へ頼んであった美白ケアセット(何それ)を受け取りに行った際、姉貴がシャンプーとか置いてあるコーナーにいたのに気づいた。

 ナタリーも髪の毛のお手入れなんてするんだー、と少し驚きつつ店を出ようとした瞬間。


 

 彼が入ってきた。



 一瞬、大きなカラスが舞い降りたと思ったそうだ。


 真っ黒な特殊繊維でできたプロテクターで長身の体を包み、背中には刀剣、肩にはライフル。

 背には鋼鉄のように黒光りする豪胆な翼。




 演習中の騎士団員がなぜか、入り口メロディーとともにコンビニに入ってきた。

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