Heart 14. 棘―TOGE―(夏目漱石『草枕』冒頭から抜粋)


※ 山本彩さんの『棘』のメロディーで唄えます。


山路を登りながら、こう考えた

智に働けば角が  立つ

情に掉させば 流される

意地を通せば窮屈だ

とかくに、人の世は住みにくい


住みにくさが生じると、

安いところへ越したくなる

どこへ越しても住みにくいと悟ったとき

詩が生まれて、画ができる


人の世を作ったものは、

神でもなければ、鬼でもない



(スロー)


やはり三軒両隣に、

ちらちらする唯の人である


唯の人が作った人の世が

住みにくい からとて、越す国はあるまい



あれば人でなしの国へ

行くばかりだ

人でなしの国は

人の世よりも、猶、住みにくかろう


越すことのならぬ世が住みにくければ

住みにくい所をどれほどか

寛げて、束の間の命を

束の間でも

住みやすくせねばならぬ


(スロー)

ここに詩人という天職ができて

ここに画家という使命が降(おり)る


(刻み)

あらゆる芸術の士は

人の世を長閑(のどか)にし

人の心を豊かにするが

故に尊(たつ)とい


(刻み)

住みにくき世から

住みにくき世を長閑(のどか)にし

人の心を豊かにするが

故に尊(たつ)とい


住みにくき世から

住みにくき煩いを引き抜いて

難有(ありがた)い世界を

まのあたりに

写すのが詩である、画である。





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