海を歩く人

未知乃みちる

(一)

 あしの内側にある薄い皮をひよりという。僕の心の内側にある薄いものは淡い色をした曖昧あいまいなものである。そこに不可思議ふかしぎ感触かんしょくがある。

 この気持ちは、恋とすにはまだ少しだけ遠い。

 あの子は僕から遠い。

 近くに在ったはずのあの子が遠くに行ってしまうまで、自分の内側にずっと在った薄い透明なものを僕は知らなかった。

 透明であったものに色が付き始めて、ようやく僕はその存在を知った。

 風の無い日和の下で、ぽたぽたとしたたる雨はお天気雨だ。空は晴れている。

 僕が今乗っている船は日和見により出航した。ぐんぐん岸から離れていき、終いには島がまるで小さく映った日から随分と経っていた。航路は順調のようである。

 空気を吸いに甲板に出ると風はなかった。

 海上はぎ続けていたが、次第にぽつぽつと雨が降り出した。

 僕はどうしてか、船内に移動することをしなかった。

 船によって起こる飛沫しぶきとその向こうに見える凪をぼうと見比べていた。

 それは僕の外側と内側にみ込んでいる感覚に似ているような気がする。だから僕は船内に戻らずに、じっと海を見つめてしまっていた。

 一瞬の時あかりに、僕は、僕の内側にある薄いものが、新たな淡いなに色を覚えた気がした。

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