第十話 呼び出し
報告会が行われてから、皆が動き始めた。
アデレードとオリビアとサンドラは、神殿の主であるヤスに許可を求めた。
最悪の状況をしっかりと説明をした。
正直な話として、神殿が受けるメリットは少ない。”ほぼない”と言ってもいいだろう。それでも、ヤスは作戦の実行を許可した。
リーゼの安全が確保されていることや、マルスからも作戦の実行中に神殿部分に被害はないだろうと推測している。
危険なのは、トーアヴェルデとウェッジヴァイクだろう。二つ目には、戦力を配備している。帝国に面している森にも戦力を配置している。
会議が終了してからも、細部を決めるために、呼ばれる者を変えながら、会議が行われた。
ヤスが、許可を出したのは、神殿の住民として受け入れ始めているオリビアの安全と立場を確立するためだ。
--- ユーラット
ギルドの一室。
「アフネス殿。どういう事ですか!?」
部屋はドアを閉めているが、ギルドマスターのダーホスの怒号が外まで響いている。
「ダーホス。少しは落ち着け」
「落ち着けだと?落ち着いていられるか!アフネス殿。貴殿が大丈夫だというから、見逃していたのだぞ!」
「先ほどから謝っているだろう?」
「謝って済む問題ではない。元帝国の姫というだけで、他のギルドから睨まれているのに・・・」
「亡命を受け入れたのは、神殿のヤスだ。ユーラットではない」
「そういう建前の話をしているのではない!」
「ダーホス。神殿に居るドーリスからの報告か?」
「そうです!ドーリスが扱いに困って、報告をしてきました」
「困ったものだ」
「ドーリスは、ギルドの人間です。神殿の人間ではありません。報告は、当然の事です」
「わかった。わかった。それで?」
「それで?”それで?”と言いましたか?」
「貴殿が何を望んでいるのか解らないから対処ができない。腹の探り合いもいいが、毎回だと胃に凭れる。はっきり言え」
「それでは、はっきりと言わせていただきます」
「・・・」
「帝国の姫が書いているという日記を処分するか、ギルドに渡して貰いたい」
「は?ダーホス。何を言っているのか解っているのか?」
「解っていますよ。帝国の姫が、日記の形で神殿の情報を書き留めているのだと認識しています。神殿の情報が漏れるのは・・・。困りますが、ギルドの問題ではないので、いいでしょう。しかし、ギルドの機密に近い情報や、周りの情報や、戦力はダメだ。アフネス。解っていますよね?日記ではなく、密偵に渡す情報だと考えています」
「何を・・・。そこまでいうのなら、ダーホスは、中身を見たのだな」
「見ていません。だから、確認の為に、持ってきて欲しい」
「ドーリスに頼めばよかろう」
「何度でも言いますが、ドーリスはギルドの人間です」
「だから、ギルドの命令で、日記を取り寄せればいいだろう?」
「無理です。帝国の姫が、ギルドに登録をしてくれれば、可能ですが、違いますよね?だから、貴女に頼んでいるのです」
「なぁドーリス。頼むというのは、こちらへのメリットの提示が必要だとは思わないか?」
「・・・」
「無理なら、この件は、貴殿が対応するしかないだろう?」
「・・・。解りました。アフネス殿。ギルドではなく、私個人として、帝国からの亡命姫である”オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィット”を呼び出します」
「それが、貴様の判断なのだな。神殿と事を構える可能性もあるぞ?」
「覚悟の上です」
「せめてもの慈悲だ。我が、呼び出し状を持って神殿に行く」
二人の話は、部屋の中で行われていた。
ギルドマスターの怒号と、ユーラットのまとめ役を行っているアフネスの会話は、静まり返ったギルド内に響いていた。もちろん、ギルドに呼び出されていた、3人も話を聞いていた。
部屋の扉が乱暴に開けられて、ギルドマスターであるダーホスが出てきた。
呼び出していた3人を軽く見ただけで無視をして、ギルドマスターの部屋に向かう。そこで、オリビアを呼び出すための手続きを行う。ギルドとして動くのではなく、個人としての呼び出しだ。
ダーホスが、ギルドマスターの部屋から出て、アフネスが待っている部屋に入って、書類を渡す。
「アフネス殿」
「わかった。わかった。何時だ?」
「すぐに行ってもらう。準備も必要だろうが、すぐに行動してくれ」
「わかった。それで?オリビア姫は、何時までにこちらに来るように言えばいい?」
「即日だ。それが条件だ」
「無理だと言えば?」
「ギルドから正式な呼び出しになる。最悪は、解っているだろう?」
「王都の査問委員会を動かすか?」
「それだけの事案だ」
「わかった。オリビア姫には、すぐに動くように伝える。護衛は?」
「必要か?神殿との往路は、安全だ。それに・・・」
ダーホスは、ここまで言って、ドアからダーホスとアフネスの話に聞き耳をたてている、ヒルダとルルカとアイシャを見る。3人は、ダーホスとアフネスの視線に気が付いて、横を向いた。しっかりと聞いていたのは、はっきりと解ってしまっている。
「わかった」
アフネスは、ダーホスから書状を奪い取るようにしてから、部屋を出た。
そのまま、3人の方向に歩く。
「貴様たち」
「なんだ!」
ヒルダは、虚勢だがアフネスの問いかけに答える。
ルルカとアイシャも同じように、威嚇をするように構える。
「ははは。そんな、野栗鼠が歯をむき出しにいきがっても怖くない。それよりも、話を聞いていたのなら解るだろう?」
「何を!だ!話?何のことだ?」
「弱いだけではなく、演技も下手だったのか・・・。まぁいい。貴様たちの姫。あぁ亡命が認められているから、元姫だな。元姫が、ユーラットに来るが貴様たちには会わせない。意味は解るな?」
「何!貴様にそんな権利はない!」
「権利?面白いことをいう。元姫は、お前たちの借金を肩代わりする条件を飲んだぞ?」
「貴様!」
「もっと、言葉はないのか?さっきから、同じ事しか言っていないぞ?」
「何を、姫様が、私たちを」
「違うな。貴様たちの行いで、元姫は多額の負債を抱えた。負債の利息の代わりに、債権者が求めたのが、ユーラットにいる元部下や帝国との連絡を断つことだ。元姫様は、悩まれたが、貴様たちがユーラットで行ったことを聞いて、承諾された。だから、元姫と貴様たちは会えない。貴様たちの行いの結果だ。よかったな」
「何が!よかっただと!貴様たちが、姫様と私たちを・・・」
ヒルダが激昂した所で、ルルカとアイシャが間に入った。ヒルダが話を続けたら、この場で戦闘になるのは解り切っている。今までも、何度も近い状況になって回避してきた。
「ははは。そっちの二人は解っているようだが、一人、考えが足りない者も居るようだ。こんな者でも騎士を名乗れるのだな。だから、ここ数年は負け続けているのだな。帝国の人材も底をついたのか?」
アフネスは、言葉になっていない音を、ヒルダが発しているのを無視して、ギルドを後にした。
近くに待機していた。ディアスを手招きする。
「旦那は?」
「もうすぐ来ると思います。警備隊に顔を出しています」
「そうか・・・。貴様まで来るとは思わなかったぞ?」
「ヤス様の指示です」
「ヤスの?」
「はい」
「??」
「・・・」
ディアスは警備隊の屯所から出てきたカスパルを指さす。
「そうか、飲まされるな」
「はい。時間が、時間ですし、久しぶりなので、可能性として、高いだろうと・・・。それに、ユーラットの警備隊は、今・・・」
「問題を抱えて、ピリピリしている。カスパルが能天気に飲み物を持って訪ねたら・・・」
「はい。私は、カスパルが飲まされた時の交代要員です」
「?と、いうことは?」
「はい。ユーラットまでの運航許可とカスパルと同じ免許に、合格しました」
「それはおめでとう。安心して、任せられる」
「はい」
千鳥足ではないが、確実に飲まされた雰囲気があるカスパルは、アフネスに謝罪して、妻であるディアスに鍵を渡す。
ヤスとしては、久しぶりだからゆっくりと飲んできてもいいと言ったのだが、カスパルとディアスが役目を全うしたいと言い出したのだ。
停留所から離れた場所に、ライトバンが置かれている。
カスパルの
盛大な茶番の始まりは、ディアスが吹かすエンジン音だ。
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