第二十二話 ルーサ


「旦那!」


 おい。おい。


「ルーサ?お前が来たのか?」


「おぉ。セバス殿から連絡を貰って、誰が来るのか揉めたけど、俺が勝ち取った」


「ん?」


「”大将が困っている”と聞いたぞ?」


「そうだな。困っているが、ルーサが来るほどの事ではないぞ?」


「別に、誰が来てもよかったのなら、俺でもよかったのだろう?それに、大型のアーティファクトが必須だと聞いたぞ?」


 たしかに、最初の段階では必要がなかったが、襲撃者が増えてしまった。今では、バスでも狭い。トラックの荷台に詰め込む形がベストだな。

 ルーサが乗ってきたアーティファクトは、トラックだ。

 トレーラーは、ルーサを含めてどうしてもダメだった。そもそも、ハーフトレーラーでも、こっちの人間は運転ができない。


 今回は、神殿で大物を輸送する時に使っている。バンボディタイプだ。10トンクラスで来てくれている。


「そうだな。このタイプだと、ルーサとローンロットにいる奴らくらいか?」


「そうだな。カイルやイチカは別方面に進んでいるからな・・・。あと、イワンだと足が届かない」


 たしかに、イワンは種族的な問題で、足が届かない。

 神殿の中の移動を行うために、ターレを使っているけど、シュールな絵面だけど、便利だと好評だ。ドワーフたちには、ターレを大量に渡して、エンジンは無理だったが、モーターもどきはすでに作っている。それで、ターレもどきを作って、集積所ローンロットで使っている。


「イワンは・・・。そうか、ルーサ。俺に黙っていることはあるか?」


「え?旦那?」


 あぁ何かを隠しているな?


「セバスから、何を頼まれた?」


 正確には、神殿にいるマルスからセバス経由で何かを頼まれたのだろう。


「旦那・・・。あぁぁもう直球で言おう」


「どうした?」


「『神殿では問題は発生しておりません』が伝言で、お願いは『人が増えすぎています』です。『早めの帰還をお願いします』だ」


「ん?増えすぎている?アシュリやトーアヴェルデやローンロットでもか?」


「あぁウエッジヴァイクでも、増えている。特に、帝国から流民が止まらない。ヴェストが対応をしているが、神殿では受け入れを停止している」


「神殿以外では?」


「サンドラから、辺境伯領での受け入れを始めているけど、辺境伯は辺境伯で王国内からの移民で溢れている」


「そりゃぁ大変だな」


「旦那!」


「ん?神殿は、ゲートを通過できれば、受け入れる。それぞれの場所も受け入れているのだろう?俺に他に何ができる?」


「あぁそうだ。セバスがいうには、旦那の物資を運ぶ必要らしい。ディアナが動かせれば、物資の輸送がだいぶ楽ができる」


「あぁそうか、移民や難民や流民の違いはわからないけど、物流が止まっているのだな」


「俺たちもやっているが、追いつかない」


「まだアーティファクトはあるのだろう?」


「ある。今、神殿の住民で、素質がある奴を・・・。旦那の許可があれば、動かせる」


「わかった。許可を出す。それと、エアハルトに聞いてくれ、集積所を他にも作られないか?辺境伯に相談すればいいだろう。集積場まで、物を運んで、そこから、行商人に荷物を運ばせれば多少はよくなるだろう」


「わかった。旦那!それで、俺の役目は?」


「そうだ。捕えたエルフ族を輸送してくれ、セバスに渡せばいい」


「え?旦那。何を?エルフ?」


「あぁ襲われたから、捕えた。賠償ができないらしいから、身柄を押さえた。エルフ族の長老には、承諾を貰っている」


「わかった。それじゃアーティファクトを持ってくる」


「あぁ必要ない。縛り付けて転がしておいた。半日程度なら起きないだろう。餌も必要ない。死んでも問題はない」


「・・・。わかった。旦那に敵対した奴らなのだろう?セバスに渡していいのか?殺してしまうかもしれないぞ?」


「大丈夫だ」


 ルーサから近況報告を聞いて、マルスに命じて、トラックの荷台に捕えていたエルフたちを吐き出す。

 眠らせてから、水と食料を弱そうな奴の近くに置いた。あとは、勝手にやってくれることを祈ろう。それから、灯りを付けておこう。自分たちの状態が把握できた方が、できるだろう。文字が読めるか解らないけど、これから行われることを記載しておいてやろう。俺の優しさだ。

 簡単に死ねると思うなよ。リーゼを犯して殺すと行ったやつには、自分が口にした苦しみを与えてやろう。死なないようにして、男娼として使い続けてやろう。他の捕えたやつらも喜んで使ってくれるだろう。意識も壊れないように、ケアをしっかりとしてやる。あぁ前は使えないように、切り落としてやろう。自分の物を食べる栄誉を与えてやる。


 ルーサがドン引きしているけど、気のせいだろう。

 解りやすい場所に、張り付けておく、これで、自分たちの運命が判るだろう。自殺なんて、つまらない方法を選んだ場合には、死ねないアンデット状態にして、神殿で働いてもらおう。侵入者との戦闘で、死んでも生き返る状態で使い続ければいい。


「さて、ルーサ。これで、全部だ。頼む」


「おぉ!わかった」


 ルーサが、運転席に乗り込んで窓を開ける。

 少しだけ粗野な感じがするルーサが乗るには、トラックは似合いすぎている。今の俺では、少しだけ・・・。本当に、少しだけ威厳が足りない。俺の主観だから、他の奴に聞いていないが・・・。


 FITに戻ると、リーゼがむくれていた。


「リーゼ?」


「ヤス!僕も連れて行ってよ!」


「ルーサの奴から近況を聞いただけで、面白い話はないぞ?」


「それでも!ヤスと一緒に居たかった!」


「わかった。わかった。悪かった。それで?」


 ラフネスを見ると、ラフネスは少しだけぐったりしている。交渉が長引いたのか?


「ヤス様」


「どうした?」


「・・・」


 なぜか、リーゼを見た。

 リーゼがわがままを言って、ラフネスが止めていた。そんな構図か?


「ヤス様。馬車の準備ができました。あと、アーティファクトは結界の中に入れて欲しいそうです」


「ん?入れていいのか?」


「はい。『このまま、神殿の主が使っているアーティファクトを外に置いておくと、何人が捕えられるかわからない』が理由のようです」


 そうだよな。

 近づくだけならいいが、盗もうとしたり、攻撃性のスキルを使ったり、問題がある行動をした時点で捕えられる。そして、そのまま神殿に連れ帰ることになっている。これ以上、エルフから”奴隷”になるような者たちを出したくないのだろう。


「わかった。それで、このまま進んでいいのか?」


「お願いします。リーゼ様?」


「ん?何?僕?」


「リーゼ。準備はいいよな?」


「あっそういうこと?大丈夫だよ。ヤス。行こう!」


 すっかり、機嫌が戻ったリーゼに苦笑しながら、FITを動かす。

 運転席に座っていたリーゼは、助手席に移動している。器用に運転席から車内で助手席に移動する。


 エンジンに火を入れる。

 どんなエンジンでも、この瞬間が好きだ。目覚める瞬間に立ち会う感じがする。


 さて、浸っていてもしょうがない。


「ラフネス。それで、どこに行けばいい?」


「案内をします」


「頼む。あと、アーティファクトを止めておく場所も指示してくれ」


「わかりました」


 ラフネスの指示の通りに、動かした。


 結界を越える時に、マルスが違和感を訴えた。

 どうやら、俺たちの想像があったようだ。


 景色が変わる。

 森の中に一本の道がある。


 景色が変わってすぐの場所に、馬車が待っていた。

 その横に、FITを停める。


 馬車からは、交渉を担当した長老が降りて来る。


「神殿の主殿。お待たせしました」


「大丈夫だ」


「ありがとうございます。それから、我らの同胞が無礼を働いてしまって、申し訳ない。襲撃者は約定通りに処分していただいて構わない」


「わかった。貴殿からの謝意を受け取ろう」


「ありがとうございます。襲撃者たちの派閥を粛清いたしました」


「そうか、わかった。数日になるとは思うが、世話になる」


「その言葉、嬉しく思います。リーゼ様。お待ちしておりました」


「え?僕?あっうん。よろしく」


 リーゼの顔を見ると、解っているとは思えない。

 それでこそリーゼだ。


 リーゼの頭を撫でていると、長老やラフネスが嬉しそうな表情を浮かべている。理由は解らないが、間違っては居ないようだ。

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