第十六話 ユーラットに寄り道


 ヤスは、関所の村をルーサとイレブンに任せた。

 マルスも反対していないので、これが正解だったと思っている。


『マスター。セカンドが、FITで向かっています』


『わかった』


 ヤスがユーラット方面に歩いていると、10分程度進んだ所で、FITが見えてきた。セカンドが運転しているのだが、ヤスが見えてきた時点で速度を落として、手前で停まった。


「旦那様。セカンドです」


「ありがとう」


 セカンドは運転席を降りた。ヤスと運転を変わるのだ。

 運転席に乗り込んだヤスは、窓を開けてセカンドに声をかける。


「セカンドはどうする?」


「トーアフートドルフに向かいます。イレブンの補佐を行ってきます」


「そうか?送るか?」


「いえ、大丈夫です。旦那様。ユーラットにお寄りください。マルス様から、アフネス様に会ってほしいと伝言です」


「ん?わかった」


 ヤスは、マルスからの伝言なら、直接言うか、エミリア経由で知らせればいいのにと思ったのだが、セカンドの仕事として割り振った可能性を考えた。

 急ぎの仕事も無いので、ユーラットに寄り道するのもいいと考えたのだ。


「旦那様。それでは、失礼致します」


 セカンドは、頭を下げてトーアフートドルフ方面に歩き始めた。ヤスは、セカンドの背中をみながら、シートポジションを調整してから、エンジンを始動させる。


 安全運転の範疇で速度を上げながら、ヤスはマルスに話しかける。


『マルス。そう言えば、ミュージックプレイヤーとか、ナビと監視カメラのリンクとかできるのか?』


『ミュージックプレイヤーは、接続出来ますが、音源がありません』


『え?あっそうか・・。カツミの改造だな』


 ヤスはすっかり忘れていたのだが、ヤスの幼馴染が改造したカーナビは音源をSDカードで保存していなかった。音源は、クラウド上においてあって、通信が可能な時にある程度の音源を落として、電源を切る時に消すようになっていたのだ。


『ナビとカメラのリンクは可能です、切り替えも出来ます』


『設定を頼む』


『了』


 通い慣れた道というわけではないが、何度か通っている上に、一本道だ。


『マルス。商隊は、この道を通っているのか?』


『否。殆どの商隊は、石壁に沿って進んでいます』


『そうなのか?』


『安全を考えれば、当然です』


『安全?あぁ・・・。そうか・・・。休憩所の存在だな』


『はい。マスターの指示で作った休憩所がある為に、商隊は休憩所を経由しながら進んでいます。水が必要ないだけでも大きなメリットになるようです』


『そうなのか・・・。使ってくれているのなら、問題はないな』


『はい』


 ヤスは、アクセルを踏み込んだ。

 会話が終了したので、ユーラットに急ぐようだ。用事が有るわけではないが、アフネスがわざわざ呼び出したのには理由があると考えたのだ。


 マルスと話をして、走っている道に商隊が居ない確認が取れたので、速度を出してみた。

 快適に速度があがり、時速140キロ程度になった所で、FITが跳ねるように感じたので、120キロ程度が限界だと定めた。


『マルス。俺が乗る車以外にはリミッターの設置はできるか?』


『可能です』


『車は、100キロ。バイクは、80キロで様子を見てくれ、事故りそうならまた考えよう』


『了』


 ヤスも日本に居た時には、法定速度内で走るように努力していた。制限速度と言って理解してくれる可能性は低い。特に、リーゼとか、カイルとか、サンドラとか・・・。熱くなって速度超過になってしまっている可能性がある。

 結界がはられているので、運転手や同乗者は安全なのだが、商隊にぶつかった場合には、相手側の被害を考えると、もっと速度を落とさせてもいいのかも知れない。


 事故1回ごとにリミッターを10キロずつ落としていけばいいかと考えた。教習を受けたら、リミッターを戻す様にしておけば人まずは大丈夫だろうと考えたのだ。


 運用に関してのルールをヤスはマルスに指示を出した。


 ユーラットが見えてきたので、ヤスは速度を落とした。


 正門では、イザークが立っていた。


 ヤスは窓を開けて近づいた。


「イザーク。久しぶりだな!」


「お!ヤス!そうだな。今日はどうした?」


「アフネスに呼ばれている。今から、裏門に停めて、アフネスの所に行く。お前も来るのか?」


「そうか、俺は今日は表門で待機だ。そうだ!裏門もだいぶ変わったぞ?って、お前がやったのだよな?」


「ん?あぁバス停や荷物の搬入や搬出の場所か?」


「あぁまだ商隊も様子見だけど、大手が出てきたら話が違うだろうな」


「へぇ・・・。アフネスの話もその辺りなのか?」


「どうだろう?俺は、何も聞いてないぞ!」


「わかった。そうだ、イザーク。これをやるよ」


 ヤスは、窓から、りんごをイザークに投げる。

 イザークも、石壁も知っているし、”りんご”や”みかん”も知っている。商隊から話を聞いているので、自由に食べられることも知っている。


「お!悪いな」


「いいって!それじゃぁな」


「あぁカスパルに、たまには表門まで来いと伝えておいてくれ」


「わかった。今、領都に居るから、帰りに顔出すと思うぞ?」


「そうなのか?楽しみにしておくよ」


 イザークは、カスパルがディアスと一緒に領都に行っているのを知っている。

 帰ってきた時には是非からかってやろうと思っているのだ。


 ヤスは、裏門の近くに作られている駐車スペースにFITを停めた。


「旦那様。お疲れさまです。エイトです」


 駐車スペースにある小屋から、メイドが出てきて、ヤスに挨拶をする。駐車スペースに車を停めると、待機しているメイドから認証のカードを渡される。カードと引き換えに、車の移動が可能になるのだ。最初、マルスやセバスやツバキは、ヤスだけは特別対応にする予定だったのだが、ヤスが笑いながら”ユーラットには滅多に行かないから、別に皆と同じで構わない”と言ったので、皆と同じ対応になっている。ちなみに、馬車を預かるスペースもあり、馬車でユーラットに来た者は例外なく馬車を預けることになるのだ。


「頼む。何か、変わった事は?」


「大丈夫です。ありがとうございます」


 エイトは、ヤスが停めた場所のカードを渡す。

 これでロックされるのだ。最初は、ユーラットの守備隊が裏門の開閉をしていたのだが、面倒になってきてしまって、駐車スペースで渡されるカードで開閉できるようになってしまった。仕組みはマルスが指示をだして、ドワーフたちが嬉々として改造したのだ。


 アーティファクトを操作できる者は、神殿の審査に合格したものなので、ユーラットも問題なしとしたようだ。しかし同乗者は、裏門から表門まで移動して、正式な手続きを踏む必要がある。


 受け取ったカードで裏門を開けて、ユーラットに入る。

 宿屋に顔を出したが、アフネスもロブアンも居なかった。リーゼの代わりに雇ったエルフが1人で店番をしていた。店番が、アフネスはギルドに居ると言われたので、ヤスは、そのままギルドに向かった。


「アフネス!」


「ヤス。丁度よかった。今、計算が終わった所だ」


「計算?」


「ヤス殿」


 ギルドの奥から、ダーホスも出てきた。


「ダーホスも居たのか?」


「居たのかじゃ無いですよ。ギルドですから、私が居なければおかしいでしょ?」


「そうなのか?まぁいい。それで、アフネス。用事があるのだろう?」


「そうだった。ヤス。用事は、ダーホスの方だ」


「そうなのか?」


 ヤスは、疲れた表情をしているダーホスを見る。書類の束を持った状態で、ヤスを見ている。


「ヤス殿。石壁の内側は、神殿の領域で間違いないのですよね?」


「そうだな。境界線がわからないが、勝手にさせてもらった」


「それはいいのです。もともと、誰の物でもありません。ですが、神殿の領域としたので問題が発生しました」


「ん?問題?」


「ヤス殿。石壁には、一定の距離で、休憩所がありますよね?」


「それで?」


「はぁ・・・。やっぱり、ヤス殿が作ったのですね。それは、おいておきます。水と食料を提供してくれるのは嬉しいのですが・・・」


「何か問題なのか?」


 ヤスは、本当にわからないという表情で、ダーホスを見る。アフネスを見ても、説明してくれる様子はない。


「ヤス殿。水がどうやって湧き出しているのかは聞きません。聞いてしまうと、後戻りが出来ない気がしています。果物も同じです」


「ん?別に、知りたければ教えるぞ?」


「いえ、知りたくないと言っているのです。もうこれ以上、厄介事を増やさないでください。話を戻しますが、水と果物が”神殿の領域”から提供されている状況が問題なのです」


「ん?だから、何が問題かわからない。教えてくれ」


「・・・。ヤス殿。水と果物の対価はどうしたらいいのですか?」


「え?あっそういうことか!」


「商人や冒険者が水や果物を売ろうとしているのです」


「うーん。別にいいけど・・・。そもそも、大量に持っていこうとしたら、次から採取が出来ないぞ?」


「それも解っています。それでも、売ろうとするのですよ」


「へぇ・・・。止めたほうが、問題が少なくなるようなら、提供は辞めるぞ?」


「それは、それで、別の問題が出てきそうです」


 ヤスとダーホスと話にアフネスが割って入ってきた。


「なぁヤス。これを見てくれ、ドーリスと連絡を取って試算してみたのだが・・・」


 試算していたと言っている書類をヤスに見せたのだ。

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