第十四話 ルーサがやってきた!


 ヤスは驚いていた。

 カイルとイチカだけではなく、子供たちの身体能力が異様な高さを示していた。


「ヤス兄ちゃん」「ヤスお兄様」


 カイルとイチカは、すでに自転車を乗りこなして、スクーターの運転も問題ではなかった。ブレーキの概念もしっかりと把握出来ている。カイルは、”勘”で操作するので

最初に運転ができるようになる。しかし、運転がうまいのはイチカだ。イチカは、ブレーキでカートが止まる理由から、構造が違う自転車ではなぜ構造が違うのか?スクーターの動かし方について、ヤスを質問攻めにした。

 地頭がいいのだろう。操作に不安がなくなると、構造に興味が移る。構造に納得すると、構造を考えながら操作をする。


 今は、モンキーの運転を教えているが、法律や面倒な標識がないので、明日には乗りこなせるようになるだろう。安全に操作できるようになるだけで十分だと考えている。


「カイル。イチカ。問題はなさそうだな」


「うん」「はい」


『マルス。モンキーをカイル専用とイチカ専用にしたいのだけど、どうしたらいい?』


『鍵の認証を登録すれば、二人以外は操作できなくなります』


『それが簡単でいいな。盗まれるのはある程度はしょうがないとして、何もしないのは駄目だろう?何か対策を考える必要があるだろう?』


『マスター。バイクロックを使ってみてはどうでしょうか?』


『うーん。あれってバイクの構造が解る奴にしか効果がないよな?持ち逃げや破壊して持っていこうとしないか?』


『認識阻害の結界を張れるようにして、バイクロックを推奨します』


『認識阻害と、鍵の認証結界を同時に張れるか?』


『大丈夫です。ただし、個体名カイル。個体名イチカの魔力を使っての発動は難しいと判断します。神殿で魔石を設置・配布する方法しかありません』


『まずは、それで運用して、問題点を二人に出してもらって、ドワーフたちと協議だな』


『わかりました。結界のシステムを組み込みます。工房に持ってくるように伝えてください』


『わかった』


「カイル。イチカ。今、操作しているモンキーをお前たち専用にする」


「え?」「いいのですか?」


「ヘルメットもそのまま使ってくれ」


 必要ないとは思っていたが、二人には子供用のヘルメットを渡している。

 耳が邪魔になるかと思ったが、ふたりとも問題なく被っている。ケモミミが備わっているが、特殊な髪型程度に考えるのが良いようだ。


「ありがとう!ヤス兄ちゃん!」「ヤスお兄様。それで、どうすればいいのですか?」


「まずは、鍵を抜いてから、お前たちが魔力を流してくれ、そのまま差し込めばお前たちにしか動かせない状態になる」


「わかった。やってみる」


 カイルが降りて鍵に手をかける。


「カイル。しっかりとスタンドで倒れないようにしてからやれよ」


「え?あっ。ごめん」


 イチカは、ヤスに指摘される前にしっかりとスタンドを使ってバイクが倒れないようにしてから鍵を外して、魔力を流して鍵を認証した。バイクに鍵を刺して始動させる。それだけのことだが、二人はものすごく嬉しそうにしている。


「イチカ。嬉しいのは解るけど、なんでそんなに嬉しそうにしている?」


「え?あ・・・。ヤスお兄様。それは・・・」


「ん?言いにくいのなら別にいいぞ?確かにアーティファクトだから個人所有が難しいのは解るけど、ここならカスパルみたいに車が持てたりするぞ?」


「え?あっ。違います。違いませんが、理由は違います」


「ん?」


「ヤスお兄様。私とカイルは、孤児院にいました」


「あぁ聞いている」


「孤児院では、下着や1-2着の服以外は、皆で使います」


「そうか・・・」


「はい。でも、神殿では・・・。ヤスお兄様は、皆に、個人で所有する様に・・・。してくれます。私も、カイルも、神殿で生活を始めるまで、自分の物は・・・」


「そうか、それなら・・・。カイルとイチカの弟や妹にも・・・。まずは、自転車でいいかな?カートは、仕事をするようになってからだな」


「・・・。よろしいのですか?」


「自転車なら問題は無いだろう」


「ヤスお兄様。私たちの弟や妹だけではなく、他の孤児や子供たちにも自転車を・・・。駄目でしょうか?お金が必要なら・・・」


 キュッと口を結んでイチカはヤスにお願いをする。


「いいよ。もともと、そのつもりだからな。地下に降りられるようになったら、自転車を渡そう。それでいいよな?」


「!!はい!」


 イチカは、怒られる覚悟でヤスにお願いをしたのだ。自分やカイルだけではなく、弟や妹だけに自転車を与えられると、嫉妬されたり、勘違いしたり、弟や妹が特別扱いされているように思うのは良くないことだと考えて、平等に扱ってほしいと思ったのだ。


「カイル。イチカ。認証の登録が終わったら、ギルドに行ってアーティファクトの登録をお前たちの名前でしてこい。そのときに、ギルドの登録も一緒にしてこい」


「!!」「ヤスお兄様。ギルドは?」


「カイルは、冒険者ギルドに登録したいだろうが、成人してから登録しろ。今回は、お金を引き出したり、調査をしたりするのに困らないように、商業ギルドに登録しろ。ドーリスには伝えてある」


「わかった」「はい。商業ギルドに登録します」


「そのあと、バイクと一緒に工房に向かってくれ、結界を発動する装置の取り付けと、盗難抑止の装置を付ける。工房にメイドの誰かが待っていると思うから、行けば解る」


「わかった!」「わかりました。ユーラットには、明日向かえばいいのですよね?」


「手紙は、ドーリスに渡してあるから、ドーリスから話を聞いて対応を頼む」


 カイルとイチカがアーティファクトを所持することが出来た。

 これは、神殿に居住する者のテンションが上がる出来事となった。自転車の貸し出しは行っていたが、所持までは考えていなかったが、カイルとイチカでも出来たのだから、自分たちでもできるのではないかと考える者たちが増えてきたのだ。

 セバスやツバキに質問して、神殿への貢献が認められて、地下に降りる許可が出れば、自転車の所有が認められる。

 エンジンが付いているアーティファクトに関しては、それから、適正を見る試験があるが、神殿内での運用に限っては許可される状態になっていった。


「旦那様。お時間を少々頂いてよろしいですか?」


 カイルとイチカがヤスから離れたのを確認して、ツバキが話しかけてきた。


「大丈夫だ」


「ありがとうございます。ルーサ様が、旦那様への面会を求めていらっしゃいます」


「ん?ルーサ?どっかで聞いた気がするけど・・・」


「カイル様。イチカ様たちの脱出を助けた人物です」


「あぁぁぁ思い出した。スラム街の顔役だな」


「はい。そのルーサ様が来られています」


「ん?認証の問題はなかったのか?」


『マスター。個体名ルーサが率いるスラム街の者たちは、犯罪行為を行っていましたが、問題なしと判断しました。しかし、認証を通したのは、特例として個体名ルーサだけです。個体名ルーサにも特別な処置と伝えてあります』


『わかった』


「それで、ツバキ。ルーサは、どこに通した?」


「はい。神殿の守りテンプルフート横に作られた待機所に居てもらっています。今、身を清めて服装を改めてもらっています」


「誰か付いたのか?」


「ファーストが付いています。栗鼠カーバンクルの眷属が見張っています」


「わかった。武器を持ってきていたのか?」


「いえ、武器はユーラット近くにおいてきたと言っています。部下たちも、神殿まで来て認証が通らなかったので、ユーラットで待機するようにしていると話しています」


「そうか・・・。おっ丁度いいところにバスが来たな。バスで、神殿の守りテンプルフートまで行くか」


「かしこまりました」


 ヤスとツバキは、丁度やってきたバスに乗って神殿の守りテンプルフートに向かった。

 間が悪い事にバスの運転手はカスパルの代わりにバスの運転を始めたばかりの人物だった。ヤスとツバキが乗り込んできて普段よりも緊張してしまって、普段ならそれほど疲れない距離の運転でも、性も根も尽き果ててしまった。ヤスとセバスが降りた後で乗客から拍手をされたのがせめてもの慰めになったのだった。

 あとで、この話をリーゼから聞いたヤスはバスには極力乗らない様にするのだった。乗る場合でも、セバスの眷属が運転しているバスを選ぶようになったのだ。この件を受けて、ヤスは神殿内だけで運用するハイヤーを考えたが、無駄だと思ってやめた。自分用に、手軽な移動手段を考えることにしたのだ。

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