第六話 セバス・セバスチャンの帰還


 ヤスは緊急時の設定を確認していた。マルスに頼んで訓練も行ったのだ。一通りの確認をして問題箇所の修正を行った。

 一人で部屋の端末を操作している。ツバキは、自分に与えられた部屋の掃除を行っている。マルスからの指示で、『マスターの部屋を掃除することになるのだから、自分に与えられた部屋で掃除の練習をせよ』という指示を受けているのだ。掃除の仕方はマルスが説明している。

 ヤスは、できた時間を利用して設定変更を行った物事の確認作業を行っていたのだ。


「マルス!ちょっと確認したいけど大丈夫か?」


 ヤスは確認作業をしている最中に気になったことをマルスに聞くことにした。


『はい』


「討伐ポイントが増えているけどどういうことだ?」


『個体名セバス・セバスチャンが魔の森の平定を行っております。その過程で魔物を倒すか屈服させた結果討伐ポイントが増えました』


「ん?倒して討伐ポイントが入るのは解るけど、屈服はどういうことだ?」


『説明が長くなりますがよろしいですか?』


「かまわない。知らないのは気持ち悪い」


『かしこまりました』


 マルスの説明をヤスは黙って聞いていた。


『現状、解っていることです』


「ありがとう。マルスの説明だと、魔物をセバスたちが屈服させて神殿に所属したことにすれば、神殿は彼らから漏れる魔素を吸収して討伐ポイントに変換する。彼らは神殿の加護が得られるということで間違いないのか?」


『間違いありません』


「討伐ポイントになるのは屈服した魔物だけなのか?例えば、神殿の領域内に住む人は対象にならないのか?」


『なります。ただし、神殿に所属した場合に限ります』


「そうか・・・。神殿に所属するにはどうしたらいい?」


『不明です』


「おい・・・。しょうがないか、何かイベントでもして、神殿に住んでいると認識してもらうしか無いのかもしれないな」


『はい』


 ヤスは、討伐ポインが増えていく状況を眺めていて、ふとしたことに気がついた。


「マルス。討伐ポイントだけど、セバスやツバキ様に分けたよな?」


『はい』


「あれと同じ様に、俺が使う分とは別にマルスが使う分を別にして、増える討伐ポイントはマルスが管理するようにできないか?」


『可能です』


「マルスの分は神殿の強化や維持に使ってくれ、それからディアナの強化やパーツの入手も頼む。俺とセバスとツバキには、マルスが管理する討伐ポイントが足りている状況のときに基準値を下回ったら補充してくれ」


『了。基準値はどうしますか?』


 マルスとヤスは基準値を話し合いで決めた。

 もともとヤスは自分が管理していると全部使ってしまうだろうと思ったので、マルスに管理を丸投げしたのだ。


「マルス。早速で悪いけど、ディアナにコンテナトレーラを接続したいができるか?」


『可能です。フルトレーラですか?セミトレーラですか?』


「セミトレーラで十分だろう。コンテナの準備は大丈夫だよな?」


『はい。ご指示通りにしております』


「冷凍トレーラを用意するよりも、冷凍冷蔵車や保冷車の方が運搬を考えると融通が利きそうだな」


『・・・』


 いろいろ考えていたがヤスは面倒になってきた。仕事で使う車と趣味の車を分けて考える事にした。


「マルス。日本に居たときに持っていたトラックやトレーラと業務車両を準備してくれ」


『了。優先順位はどういたしましょうか?』


「そうだな。準備に時間がかかるものから用意してくれ」


『了』


 ヤスは、パソコンの端末に表示されていた討伐ポイントがカウントアップしていかないことを確認した。

 人が生活し始めれば必要な討伐ポイントも変わってくる。マルスへの丸投げは、ヤスの精神の安定をはかるとともに神殿に住まう者たちにとっても無駄なく運営される公共事業?が恩恵を与えるのだった。

 ヤスが考えもしないで建てまくった施設や家は建っているだけなら問題は少ないのだが、人が生活し始めると”電気”が必要になるような作りになっている。電気が無い世界では変わりに魔素が必要になる。しかし、魔素はそのまま電気に変換できるようなものではない。そのために、討伐ポイントを使って施設や家の維持を行うのだ。


 ヤスの端末に連絡を告げる印が出た。

 これは、マルスやツバキや後々はセバスや住民が、ヤスに連絡を取りたいときに取れる手段が無いかとマルスとエミリアに相談して作ったものだ。メールのような物だ。


”マスター。セバスが戻ってきました。魔物を数体連れてきています。どうしますか?”


 ツバキからの連絡だったのだが、セバスが帰ってきたことを知らせるメールだった。


 ヤスは、すぐにメールを返す。


”神殿前の公園で待機させろ。すぐに行く”


 ツバキから了承との返事が来て、ヤスは着替えをしてエミリアを持って神殿の公園に向かった。

 公園は、建物を建てて満足した所で出口付近に作った物だ。集会場は別にあるのだが、神殿に来たばかりの者たちが寝泊まりする場所が必要だろうと考えたのだ。石壁付近に作った休憩所と同じ様にしただけの場所だ。水場とトイレだけは作ってある。その辺りで排泄されるのをヤスが嫌ったからだ。


 ヤスが、バランススクーターで公園に到着すると入り口にツバキが待っていた。


「マスター。セバスが到着しております」


 バランススクーターをツバキにあずけて公園に入る。


 セバスとセバスの眷属の5人がヤスを迎える。


「御主人様。ただいま帰還致しました」


「ご苦労。セバス。魔の森の様子はどうだった?」


 ヤスの言葉遣いは、マルスから指摘されて修正した。セバスやツバキが望んでいるからと言われたが、なかなかできなかった。それでも、対面があり人が多い場所ではお願いしますと言われたので従うことにしたのだ。


「はい」


 セバスが、魔の森の様子を説明する。

 説明自体は意味がない事は、セバスも解っている。ヤスは、マルスから詳細なデータを入手できるのだし、神殿の領域になっているので、感じることができるのだ。


「わかった。ご苦労。それで、後ろに並んでいるのが報告にあった配下に加えたい者たちか?」


「はい。御主人様」


 並べられている魔物?をヤスは端から見ていく。


「セバス!」


「はい」


「種族がバラバラなようだが?」


「はい。種族の代表だけを連れてきました」


「そうか、わかった。それでどうする?神殿内に住まわすのか?それとも、魔の森に住み続けるか?」


「御主人様にお願いがあります。彼らを、神殿に住まわせていただけませんか?」


「いいぞ?何か問題があるのか?」


「彼らは、魔の森では上位に位置する種族ですが安全に住める場所が限られています」


「説明にあった知恵なき魔物たちか?」


「はい。1対1なら負けることは無いのですが、知恵なき魔物たちは、1体で勝てなければ10体。10体で勝てなければ100体で攻めてきます。そのために、犠牲が出てしまうこともあるようです」


「少し待ってくれ」


「はっ」


 セバスや5人衆が頭を下げるのと同時につれてこられている魔物?たちもヤスに向かって頭を下げる。

 ヒト型の魔物は存在していない。ヤスは、魔物ではなく獣として認識しているようだ。


『マルス。セバスの連れてきた者たちを神殿の中で住まわすことはできるか?その時の問題点は?』


『個体名セバス・セバスチャンが連れてきた者たちの正確な数が不明な為に憶測ですが、地域名魔の森のバランスが崩れることが考えられます』


『どうしたらいい?』


『定期的に、個体名セバス・セバスチャンや眷属に狩りをさせる必要があります。また、個体名セバス・セバスチャンが連れてきた者たちを神殿内で強化を行い、地域名魔の森の狩りに帯同させることが考えられます』


『わかった』


「セバス。彼らを神殿の内部に入れるのにはいくつかの条件がある」


「はい」


 魔物たちもヤスの言葉が解るのか頷く。


「まずは、魔の森が不安定になってしまうことへの対処が必要になる。具体的には、定期的に狩りに出かけてほしい」


「はい」


「それから・・・」


 ヤスは魔物たちを見回した。


「戦える者は、神殿内部の掃討を行いつつ強化を行い、然る後に魔の森への狩りに参加する様に・・・。種族的なこともあるだろう。住処は、セバスとマルスで相談して決めてくれ」


「はっ」


 控えていた魔物たちは慌てて頭を下げる。魔物たちを眷属にまかせて自分はツバキの所に移動して引き継ぎや打ち合わせを行うようだ。

 ヤスはすでにセバスには対外的な窓口をしてもらうことは伝えてある。ツバキが神殿内部のことを行うことになることも承知しているようだ。

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