第五話 警告?


「マルス。この警告はなんだ?」


 パソコンのディスプレイに”警告”のアイコンが表示された。


『神殿の領域へ侵入が確認されました』


「侵入?」


『はい。警告アイコンを選択していただければ詳細を表示する事ができます』


 ヤスは内容を確認して安心した。侵入と聞いた時に、思い浮かんだのがスタンピードの残党が居て神殿への攻撃が行われたのだと思ったのだ。しかし、表示されているのは”リーゼ”と一緒に来ている集団が、ヤスの作った場所で野営している状態だ。


 ヤスは表示されている情報から現場の状況が確認できる事がわかったので、映像をディスプレイに表示させてみた。

 テントや馬車の中までは映像で確認する事はできないが、おおよその人数が把握できる。


「マルス。名前が表示されている者と表示されていない者の違いは?」


『神殿に登録されている者は個体名が表示されます』


 ヤスは画面を確認するとミーシャやラナには名前が付いていない。

 リーゼだけが表示されているの。


「状況は解ったが警告が表示されるのは面倒だな。石壁の内側だけを警告範囲にできるか?」


『可能です』


「石壁の内側だけを警告範囲に設定してくれ」


『了』


 ヤスは野営地を一通り見て映像を閉じた。


 小さな集団だが商隊よりは大きい、移住予定の集団が野営できているのだから広さの問題は無いと結論付けた。

 ただヤスは見た目から水場が少ないと感じた。


「マルス。今リーゼたちが居る場所以外の野営予定地の水場を増やしておいてくれ。リーゼたちが立ち去ったら水場を3ヶ所にしてくれ、他は倍でいい」


『了』


 野営地を見て感じたことをマルスに伝えていく。ヤスが気になった部分の修正はすぐにでもできるとマルスが返答した。

 マルスにヤスが変更を命令する前に近くで話を聞いていたツバキが疑問を呈する形で提案してきた。


「マスター。水場の追加を含む休憩所の変更ですが、すぐに行う必要がありますか?」


「ん?ツバキにはなにか考えがあるのか?」


「いえ、”考え”というほどの事ではありませんが、休憩所を使った人の一部は神殿に移住してこられるのですよね?」


「そうだな。リーゼは間違いなく移住してくるだろう。他は、ミーシャとラナは来ると思う」


「リーゼ様やミーシャ様やラナ様がどなたかわかりませんが、休憩所を使われた方のご意見を聞かれてから修正や変更を行うほうが良いと思います」


『マスター。個体名ツバキの意見に賛同します』


「わかった。二人がそういうのなら、ミーシャかラナに聞いてみる事にする。そのつもりで居てくれ、話を聞くときには二人にも聞いてもらうからな」


「はい」『はい』


 ヤスはマルスを一人と数えている。

 マルスもツバキも気がついているのだが指摘しなかった。マルスは”一人”として数える状態になる。ディアナとエミリアは”一人”ではない。ヤスの中でディアナは車に付いている制御系とナビの総称である。エミリアはスマホ本体の事を言っているのでやはり”一人”ではない。


「そうだ。マルス。俺が領都を出る時には、リーゼたちはまだ出発していなかった。1日遅れで出発したとして最初の野営地に到着したのがさっきだとすると、後何日くらいでユーラットに到着する?」


『速度を平均化して計算します・・・。マスター。個体名リーゼの集団が地域名ユーラットに到着するのは早ければ5日後です』


「そうか・・。遅いと?」


『不明です。個体名リーゼの集団が、遅くなる要素は無いと思います』


「わかった。そうだよな。魔物はセバスたちが始末したのだろう?森林側から魔物が街道に出る事も無いのだろう?」


『個体名セバス・セバスチャンの眷属たちが魔物を討伐しました。森林側からの襲撃はありません。ただし、海側からの魔物や獣の襲撃までは防げません』


「海側からの襲撃はしょうがない。リーゼだけじゃなくて戦える者も居るだろうし、それに護衛も居るだろうから大丈夫だろう」


『はい』


「マスター。リーゼ様をこお迎えに行かなくていいのですか?私がマスターの代理で赴きます」


「ん?なんで?必要ない。それに、確かにリーゼの家は作ったけど、ユーラットにとどまると言い出すかもしれないからな」


『個体名リーゼが地域名ユーラットにとどまる可能性は皆無です』


「可能性は皆無でも全く無いと言えないよな?アフネスに命令される可能性だってある」


『はい』


「そうなのですか?リーゼ様はマスターの伴侶ではないのですか?」


「違う!ただアフネスとの付き合いや領都で発生した出来事から神殿で匿うのが一番いいと思っているだけだよ」


「わかりました。伴侶様ではないのですね」


「そうだ。だから、ツバキもリーゼたちに”様”付けしないようにしてくれ」


「かしこまりました」


「マルス。セバスにも伝えてくれ」


『了』


 ヤスは一通りの指示を出してから寝室に向かった。

 眠くなってきた事もあるのだが、リーゼたちの到着予定を聞いてまだ時間がある事がわかってホッとしたのが大きな要因だ。


 ヤスは忘れていたのだが、リーゼたちがユーラットに到着し、神殿に向かう事になるとヤスが作った広場や検問所を通る必要がある。検問所でリーゼたちが到着した事がわかる。家以外の事なので来る事が解ってから対応しても問題は無いのだ。


---


 ヤスは昼過ぎまで惰眠を貪った。二度寝をして気がついたら太陽がてっぺんに居た。


 寝室からマルスに話しかける。


「マルス。リーゼたちが神殿の領域に入って警告が出たのはわかるが、魔物とかが神殿の領域の外から入ってきたらわかるのか?」


『わかります』


「俺への警告は必要ないぞ?」


『了』


「広場の城壁に近づいてきたら警告を出してくれ」


『”近づく”が曖昧です』


「そうだな。城壁から50m以内に魔物が入ったら教えてくれ」


『警告が鳴り続けますがよろしいですか?』


「鳴り続ける」


『はい。城壁から50m以内に魔物が存在します。51mにも存在して移動すれば50mに入ります』


「そうか・・・。マルス。城壁は魔物の攻撃ですぐに壊れる可能性はあるのか?」


『”すぐに”が曖昧です』


「5分以内に壊す事は可能なのか?」


『魔の森と森林部で認識されている魔物でマスターが作られた城壁を壊すのは不可能です』


「それなら、城壁に接触したら警告を出すようにしてくれ」


『了。マスター。広場には結界が設置していますが、城壁に触れたらで警告を出す事にしますか?城壁に接触されたというタイミングは結界が突破された時です』


「結界?あ!そうだった。結界のダメージはわかるよな?」


『はい』


「それなら、結界に触れられたパソコンに警告を表示。結界の損傷率が10%を越えたら、セバスとツバキとエミリアに警告。損傷率が30%を越えたら広場全域に警告音を鳴らす」


『了』


 ヤスが警告に関して調整をしている頃、リーゼを中心にした集団は順調に進んでいた。

 ミーシャが時折集団から離れて海に近づいて何かを探しているのだが、デイトリッヒと何やら相談しながら進んでいる。


 マルスが予想した5日後ではなく6日後にユーラットに到着した。

 一日遅れたのは、孤児院の子供の一人が体調を崩した事もあり安全が確認された野営地を2日に渡って使ったためだ。


 ユーラットに到着した一行は石壁のスタート地点に用意されている広場で野営地を作る事にした。

 リーゼは、すぐにでも神殿に向かおうとしたのだがミーシャとラナが必死に止めた。アフネスに会わないで神殿にリーゼを行かせたら怒られると思ったからだ。リーゼも挨拶をしないで移動したらアフネスだけではなくロブアンが神殿にやってくると考えて、ミーシャの進言に従う事にした。


 イザークとミーシャが話し合った結果。

 ユーラットの中に入るのはリーゼとミーシャとラナとデイトリッヒに決まった。

 それ以外の者はユーラットに残ることを希望する場合でも、アフネスとミーシャ/ラナの話し合いが終わるまで町の外で待機する事になった。


 ユーラットにあるギルドで話し合いが行われる事になった。

 そこには、緊張した面持ちでアフネスの到着を待つ3人の顔が並んでいた。


 右からミーシャ/ラナ/ダーホスだ。

 アフネスをギルドで行われる開示にできれば話に加わりたくないイザークが呼びに行った。デイトリッヒも居たのだが「自分は護衛だ」と言ってギルドの前で立っている事にした。

 リーゼは話に加わるつもりで居るのだがイザークがアフネスを呼びに行くのに一緒に連れて行った。今から行われる話し合いの内容をリーゼに聞かせたくないとアフネスが考えるようなら理由を作って宿屋においてくるだろう。連れてくるようなら聞かせても大丈夫なのだろう。

 イザークはリーゼの処遇をアフネスに丸投げする事にしたのだ。


 ギルドの入り口でデイトリッヒが挨拶をする。アフネスがギルドに入ってきた。


「ミーシャ!ラナ!それで?何があった?」


 椅子に座る前にアフネスは同郷二人に話しかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る