第二十四話 急展開


 ヤスが美味しく夕ご飯の時間に食べる朝ごはんを食べている頃。


 領都は大騒ぎになっていた。


 領都の守備隊が魔物討伐に参加しないのは納得できないが、納得しなければならない理由がある。領都を守護するための守備隊なので、王家直轄領のユーラットに派兵する事はできない。そもそも、魔物がユーラットに向かっているという正確な情報がない上に領都に魔物が来ないという保証がない間は動くことができない。


 守備隊が動かないのは冒険者ギルドも納得していた。

 ユーラットに行くことができる冒険者を領都で募っていた。一部のチームには強制依頼を出した。

 200名を越える冒険者が集まった。冒険者ギルドコンラートは、ユーラットアフネスにも説明ができる数が集まったと考えた。


 問題は、冒険者が集まってから発生した。


 コンラートが、領都の門の前で冒険者と物資を集めに行った冒険者ギルドの職員を待っている所にミーシャが駆け寄ってきた。


「コンラート様!」


「どうした!ミーシャ」


「すみません。やられました」


「だから・・・。どうした?」


 ミーシャがコンラートに説明した事は最悪な状況を示していた。

 守備隊が、領主の次男からの命令だと言って、食料の買い占めを行ったのだ。

 冒険者ギルドにも備蓄は有るのだが、あくまで備蓄で領都が襲われた時のためで、遠征に使うものではない。数も絶対的に足りないのだ。冒険者ギルドの中には、冒険者ギルドの職員と近隣の住民たちが籠もる事を想定している物で量も多くはない。


「本当か?」


「はい。守備隊は、領主からの命令と言ったようですが、動いているのは、第二分隊だけのようです」


「買い漁っているのは食料だけか?」


「いえ、塩や胡椒などの調味料も対象になっています」


「それで?第二分隊で間違い無いのだな」


「はい。ラナの所に来て、食料を徴発していきました」


「は?徴発?何を持って?買っていたのではないのか?」


領主の命令だと言ったそうです。一部では買っていったようですが捨て値です」


「書類は?徴発なら、徴発令状が有るはずだろう?」


 コンラートは動揺してしまった。最悪な出来事に最悪が重なったのだ。買っていったと聞いた部分でも買い占めを行うような行為はできないはずなのだ。


「なかったそうです。剣で脅されたと言っています。ラナから明日には宿屋を閉める事にしたと聞いています。他の一族も同じです。どうやら、第二分隊は、エルフ族の店からだけ徴発したようです」


「はぁ?ちょっとまってくれ、ミーシャ!それは、間違いないのか?」


「間違いであって欲しいと思っていますよ。でも、間違いかどうかはもう関係ありません。私たちは、領都レッチュヴェルトを出てユーラットに向かいます」


 ミーシャの顔は笑顔が張り付いている状態だが、コンラートには解ってしまった。

 本気で怒っている状態だという事が・・・。


「そうか・・・」


「それだけではなく、愚か者の次男様は、守備隊に守ってほしければ、食料や水の配給を受けたければ、リーゼ様を差し出せと言ってきたようです」


「・・・・。はぁぁぁ!?あのバカ!なんてことを、ミーシャ。少し待ってくれ俺が領主様に有って話をしてくる」


「何を待つのですか?私たちは、リーゼ様を守る為なら何でもします。あぁ冒険者ギルドに貸し出している”魔通信機”はそのまま使えますから安心してください」


「な・・・。それでは・・・」


 コンラートの頭には最悪がよぎる。

 多分、領主に貸し出している物は何らかの方法で使えなくするのだろう。


「知りません。今後は、ご自分たちで修理やメンテナンスをしてください。私たちは一切お手伝い致しません。本日までありがとうございました」


「待って、待ってくれ、ミーシャ!」


 コンラートの叫びも虚しく戻っていくミーシャの背中に当たるだけで何も響かなかった。

 ミーシャは、そのままラナが待つ宿屋に向かった。


 そこには、同士といえるエルフ族。それだけではなく、ドワーフ族もいる。獣人と言われる者は、ハーフの者たちもいる。全員、リーゼの母親か父親に世話になった者たちだ。領主の次男がリーゼを差し出せと書状を出してきた事に激怒しているのだ。今すぐにでも、領主の館に押し入ろうと言い出しかねない状況なのだ。

 当のリーゼは安全を考慮して隠れ家で匿っている。リーゼの意思ではなく、皆の意思で決まった事だが、ヤスに置いていかれたと予想通り駆け出しそうになるリーゼを押し留めたのだ。そして、隠れ家に連れて行って落ち着かせたのだ。


 こんな状況になっていると知らないヤスは朝食を食べ終えてトラクターをセバスの眷属たちに委ねた。


「マスター。ご許可いただきたい事があります」


「なに?」


「マスターが討伐した魔物の死骸をこのままにしておくとアンデットが産まれる可能性があります。また野生動物が魔物の肉を食べて凶暴化する可能性があります。そのために、野生のスライムをテイムして吸収させたく思います」


「ん?テイムなんてできるの?」


「はい。スライムは、眷属の末端です。そのために、野生ですので眷属化は無理でもテイムなら可能です」


「そうか・・・少し待ってね」


「はい」


 執事服を来たエントが頭を下げて一歩下がる。


 ヤスは、FITに乗った状態だったのだが降りてエミリアを取り出した。


「エミリア。今の話だけど、神殿の領域にスライムを出現させる事はできる?」


『可能です』


「それなら、野生のスライムよりも、出現させたスライムのほうがテイムしやすいよね?」


『はい。セバスの眷属なら、スライムを眷属にする事も可能です』


「わかった。ありがとう」


 ヤスは、執事服のエントを手招きした。


「はい」


「うーん。神殿の領域に、スライムを出す事ができるけど、それをテイムするなり眷属化したほうが楽だよね?」


「よろしいのですか?」


「あぁテイムするか眷属化するかは任せるけど、スライムを出す位ならいいよ。どのくらい?」


「数が居たほうが作業は捗ります。どれほどの数が可能なのでしょうか?」


 ヤスは、エミリアを操作してスライムの項目を見る。

 ”無属性/火/水/風/土/光/闇”がそれぞれ存在していた。魔力ポイントも全部同じで10ポイントで今なら何体でも問題ない。

 ヤスは注意書きをよく読まない癖がある。しっかりと、スライムの注意点が書かれていた。10体集まると、ヒュージスライムになって、100体集まるとビックスライムになる。そして吸収した魔物や物質によって進化するのだ。


 ヤスは考えないで、属性のスライムを各100体出現させた。

 2万もの魔物の後始末をするのでそのくらいは必要だろうと考えたのだ。


「魔物が持っていた武器や防具も使えそうなら貰って帰ろう。必要なければ吸収させちゃってね」


「はい」


 セバスの眷属達は驚きながらもヤスに感謝の言葉を告げる。


 ヤスは、結果を見ること無く領都に向かったのだ。


 ヤスが領都への道をギリギリの速度で走らせている頃・・・。

 セバスの眷属達は、スライムを眷属化して魔物の死骸を片付けていった。魔石や素材になりそうな者は除外しているのだが、それでもかなりの分量を吸収する事ができた。それも本来なら吸収することなどできない上位種も含まれていた。スライムたちが異常進化しても不思議ではない状況が揃っていたのだ。

 ヤスが進化したスライムたちを見るのは後日になるのだが、そのときにヤスは説明をしっかり読まなかったことを”ほんの少し”だけ後悔する事になる。


 ヤスが領都の近くまで来てから不思議に思った事があった。


「エミリア。誰にもすれ違わなかったよな?もう夜になっているからなのか?」


『わかりません。マスターの言葉通り、呼称名レッチュヴェルトから人族が出た形跡はありません』


「だよな?魔物の討伐隊を組織するとか言っていたけど辞めたのか?まぁほとんど討伐したし残りは雑魚だけだろうから、セバスの眷属達でも倒してしまうだろう?」


『可能です』


「そうか、それじゃ問題はないよな?さっさと、ミーシャとリーゼに会ってアフネスからの言葉を伝えてユーラットに帰ろう」


『はい。マスター。呼称名レッチュヴェルトの入り口に個体名コンラートが居ます。どうしますか?』


「ん?本当だ?なんだ?今から行くのか?それなら丁度いいよな?」


『はい』


 ヤスは、速度を落とした。砂煙が収まっていく。コンラートの姿は目立つ。なぜかはヤスは考えないようにした。しかし、ハイビームだったライトを落として近づくことにした。

 コンラートが手を振っているのがヤスにもわかった。


(俺を呼んでいるのか?)


「エミリア。コンラートが何を言っているのか解るか?」


『わかりません』


「・・・。しょうがない。近づけばわかるよな」


『了』


 ヤスは、速度を更に落として、コンラートの手前20m程度の場所で停止した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る