第十五話 ギルドマスター


 ヤスが冒険者ギルドに到着したらミーシャが出迎えてくれた。


 ヤスに見えない場所で、荷物の運搬で不正を働いた者たちの処分が降された。

 不正を働いた者たちは、盗もうとした物と同額の罰金を言い渡されていた。殆どの者が払えるはずもなく、冒険者ギルドの狗となる事が決定した。犯罪奴隷に落とされないだけましである。


「ヤス!」


「おっ悪い。それでどうしたらいい?」


 冒険者ギルドの中でキョロキョロしていたヤスにミーシャが声をかける。


「査定は初めている。ギルドマスターに会って欲しい」


「わかった」


 明らかにホッとした表情をするミーシャだが、ヤスは自分がそんなに威圧していたのかと思って少し凹んでいた。

 ミーシャが見ていたのはヤス本人ではない。本人も確かに不気味だとは思っているのだが、ヤスの後ろにアフネスが控えているように感じてしまっているのだ。


 ミーシャに連れられて、冒険者ギルドの3階に上がる。


「ヤスは、冒険者にも登録をしているのでしたよね?」


「あぁしているよ。リーゼともパーティーを組まされている」


あねさんですか?」


「アフネスからの提案というのも有ったのだが、ダーホスも手続きがしやすいとか言っていたからパーティーを組んでおくことにした」


「確かに・・・。その方がいいでしょうね」


「よくわかっていないけど、その方がいいのだろう?」


「えぇそうですね。ここです。マスター。ヤス様をお連れしました」


 ミーシャは、ノックをしてから扉の前で中に問いかける。

 ヤスの事を、”ヤス様”と読んだ事から、ヤスから話を聞きたいのはギルドマスターなのだろう。


「入ってもらってくれ」


 ヤスは少しだけびっくりした部屋から聞こえてきた声は、男性だがかなり高い。それにかなり若そうだと考えた。


「(ヤス。ギルドマスターは、身長と声のことを言われるのを嫌う。機嫌を悪くしてしまう。避けてもらうと助かる)」


「(わかった)」


 扉を開けてヤスとミーシャが中に入る。


 ヤスは、吹き出しそうになるのを我慢した。


 ギルドマスターを探すが声が高そうな者が居ない。

 ヤスが入った部屋には、背が低くずんぐりむっくりの髭面の男性が一人いるだけだ。


「ドワーフ族?」


 ヤスは見た目からドワーフ族だと思って呟いたのだ。ミーシャがうなずくので間違いは無いだろう。


 ギルドマスターと思われるずんぐりむっくりの髭面の男性が、顎でミーシャに合図をする。話すのが苦手なのだろうか?


「ヤス様。ひとまずお座りください」


「あぁ」


 ヤスは言われるままミーシャが案内する場所に座った。


 ミーシャが奥にある扉に向けて声をかけると二人の女性が飲み物を持ってきて3人の前に置いた。


「ヤス様。こちらが、領都レッチェヴェルトの冒険者ギルドのギルドマスターをしているコンラートだ」


 ヤスは立ち上がって手を差し出しながら名乗りを上げる


「ヤスです。それで、俺はなんで呼ばれたのですか?」


 ヤスは、理由は知っていたのだがあえて聞く事で話を先に進めようとした。


 コンラートがミーシャに耳打ちする。


(いいよ。普通に話してくれよ)


 ヤスの心の声が聞こえたのか、ミーシャがコンラートに言葉を返す。


(CV:山下大輝)「ヤス殿」


 声を聞いた瞬間にあまりのギャップでヤスはミーシャを見てしまった。


「あっはい。コンラート様。神殿の事でしょうか?」


「それもある。あるのだが、アーティファクトのことも教えて欲しい」


「まず、神殿だがユーラットのギルド長のダーホスはなんと言っている?」


「ヤス殿が”掌握”したと報告してきている」


「それだけではダメなのか?」


「・・・」


「ヤス様」


 ミーシャが助け舟を出すようだ。


「あ?」


 ヤスは徐々に面倒になってきている。

 神殿の攻略は成り行きの事で望んだ事ではない。しかし、攻略してマルスが把握している状況なので、問題は大きくしたくない。ヤスが考えているのは、自給自足ができる状況になるまではおとなしくしていたいと思っているのだ。


「ヤス様。神殿をどうされるのですか?」


 ヤスはげんなりした顔を晒してしまった。

 ミーシャもヤスの顔を見てしまったと思ったがもう遅かった。


「コンラートの質問もそれでいいのか?」


 コンラートはミーシャを見てからうなずいた。


「俺は別に何も考えては居ない」


 コンラートが身を乗り出して、ヤスに向かって言葉をぶつける。


「それでは!神殿の管理を」 ヤスが手を出してコンラートの高めの声を遮る。


「それとこれとは話は別だ。管理をギルドや国に任せるつもりはない。もちろん、貴族にも同じだ」


 ミーシャは、コンラートをにらみつける。

 ヤスはそれを見てギルド内部でもいろいろ有るのだと解釈した。


「コンラート殿。ミーシャ殿。俺は、神殿を攻略した」


 二人がうなずく。


「俺は別に何かをするつもりはない。建国に面倒だし平穏に暮らしたいだけだ」


「「・・・」」


「ただ・・・」


 ヤスは、ここで一息入れるために出された飲み物を口に含む。


「ただ、俺の平穏を乱したり、俺の周りにちょっかいをかけたり、俺の大切だと思う者を傷つけたら容赦するつもりはない。使える物を使って報復する。それが誰であっても・・・だ!」


 ミーシャは、なぜか嬉しそうな表情をヤスに向ける。

 コンラートは、少しだけほんの少しだけ困惑した表情を浮かべたがすぐに取り繕った笑顔を見せる。


 コンラートがわざとらしく咳払いをしてからまとめるようだ。


「神殿の処遇はわかりました。もともと、攻略者に権限がある事ですので問題は無いでしょう。攻略の方法は?」


「必要なのか?」


「・・・・」


 コンラートが黙ってしまったので、ヤスはミーシャの方を向いて、ミーシャを問いただす。


「ミーシャ殿?必要なのか?」


「必要ありません。ヤス様が神殿を攻略されて把握されているのは、ダーホス殿とアフネス様が確認しています。それ以上の説明は不要です」


「ミっミーシャ!」


 コンラートが慌てるがミーシャは全部を言い切っている。

 冒険者ギルドとしては神殿の所有は無理でも管理には食い込みたいと思っていた。ユーラットのダーホスから話を聞いて、冒険者ギルドのトップとしての共通認識なのだ。しかし、ヤスと険悪になる事は絶対に避けるべきだという認識を強く持っている。そのために探りを入れている状態だったのにミーシャが全部を告げてしまったのだ。


「わかった。それなら、神殿の話は終わりだ」


 コンラートがまだ何か聞きたい雰囲気を出していたがヤスは無視する事にした。付き合っていられないというのが正直な感想だ。一つのことを許すとどこまでも入ってきそうだし一人の思想で動いているエルフアフネス達は一人と話をすればいいのだが、冒険者ギルドはここのギルドマスターはコンラートだが王都に行けば上層部もいる。誰の思想によって動いているのかわからない間は話が変わってしまう事もあり得る。


「それで、ミーシャ。武器と防具の査定はいつ終わる?」


「2日ほどいただきたい」


「わかった。それで、魔石も買い取りでいいのだよな?」


「問題ありません」


「魔道具も一応持ってきているけど、買い取りできるのだよな?」


「はい。ただ、効果がわからない物は相談させてください」


「わかった。俺は待っていればいいのだな?」


「そうしてくれるか?リーゼ様に付いていて欲しいのだが・・・」


「護衛なんてできないぞ?」


「護衛ではない。一緒に居て欲しいだけだ」


 ミーシャが望んでいるのは”ヤス”が”リーゼ”と一緒にいる事だ。ヤスが感じたのは”男避け”に使おうとしているのだなという事だ。微妙に違うのだが結果が同じなので、お互いに口に出すことは無い。ヤスは了承してソファーから立ち上がった。

 コンラートがまだ何か有るような雰囲気を出していたのだが、ヤスは”話は終わった”と言わんばかりに立ち上がって部屋から出ていってしまった。


 残されたコンラートは慌ててミーシャに後を追わせるだけで精一杯だった。

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