第六話 家拡張


 ヤスは、モンキーでのドライブを楽しんでいる。

 舗装されていない山道で、モンキーで走るには不適切かもしれないオフローダーの方が適しているだろうとは思っているが、ヤスは気にしないでスロットルを開けていく、カーブを攻めて日本に居た時だと(法律的な意味で)不可能な運転を楽しんでいる。


 無茶な運転をしているのも、結界を発動している事が大きな理由になっている。


(うーん。楽しい!この山道を、時速60キロで抜けられる。舗装したら、もっと出せそうだな。アスファルトってどうやって作るのだったかな?マルス・・・。作り方を知らないかな?コンクリートでも舗装したらだいぶ違うよな?)


 そんなことを考えながら、夕暮れになって薄暗くなった神殿への道を、ヘッドライトを点灯させて爆走した。


(そういやぁリーゼは、何を持ってどこに行こうとしていたのだ?聞いたら厄介事になるのはわかっているが聞かないと駄目なのだろうな)


(リーゼを連れて行くのなら・・・。ディアナでは大きすぎるし目立つよな?コンパクトカーが丁度いいかな?)


 この時点で、ヤスは大きな勘違いをしていた。ディアナ=トラクターはたしか大きくて目立つのだが、日本では目立つ程度で済んでいた話だ。内装を大きく改造してしまって、それに合わせて外装も法律の範囲内でいじってしまっている。通常のトラクターとは見た目が少し違っていた。しかし、日本では”少し不思議なトラクター”で済んでいたのだ。コンパクトカーで移動すれば目立つ事は無いだろう。多少改造したとしても、痛車やラリー仕様にしなければ、ごくごく一般的な範囲でおさめる事ができるだろう。

 しかし、ここは異世界なのだ。車がなかった世界だ。馬車は走っているのだが、馬やテイムされた魔物が牽いている物だ。それも、材料は一部に鉄やそれに類する金属が利用されているのだが、ほとんどの部分が木材と魔物由来の素材でできている。

 そこに異質な乗り物=車が走っていれば必然として・・・”目立つ”事は自明だろう。


 些細な問題を抱えながら、拠点に到着したヤスは神殿の中に入っていく。

 モンキーを駐輪スペースに置いて、家に向かう事にした。


(エレベータが欲しいな。きっと高いのだろうな。でも、あると便利だよな)


 入り口が複数になるので、認証の問題が発生するのだが、そんな事は考えもしない。自分が楽になる為ならエレベータの設置も考えるだろう。


(ディアナが無いな?マルスと一緒に魔物討伐にでも出ているのか?)


(ん?)


 ディアナアプリを起動すると、ディアナの損傷率が21%になっている。


(!!)


 ヤスは急いて1階部分に上がった。


「マルス!」


『マスター。おかえりなさい。家の設備の確認をお願いします』


「それは、後でやる!ディアナの損傷が21%になっているぞ!大丈夫なのか?」


『現在、4階層で魔物の掃討を行っております。しばらくお待ち下さい』


「違う!”大丈夫か”と聞いている」


『大丈夫です』


「わかった。絶対に無理はするな」


『了』


 少し落ち着いた状態で、エミリアを確認してみる事にしたようだ。

 マルスアプリを起動して、ディアナの現在位置の確認をした。


 確かに、4階層に居るようだ。


「ん?マルス。討伐ポイントが増えている・・・。よな?」


『はい。神殿に居た魔物は消去しないで、ディアナに討伐させています』


「そうなのか?」


『はい。討伐ポイントを利用して、マスターの家の充実を行う必要があります』


「そう・・・。なのか?」


『はい』


 地下4階の状態ではなく、地上1階部分の見取り図を表示した。


(たしかに・・・。何もない。地下に降りる階段位は飾っておくか?)


 表示されている1階の見取り図を拡大して、地下に降りる場所を入り口から近くした。

 ヤスなりに考えた結果だ。排気ガスは出ていないのだが、気分的な問題として家の中を走らせるのは”駄目だろう”と考えた。地下に繋がる場所を、そのまま表現在の入り口とは違う場所に繋げた。

 これで、家が駐車スペース=神殿と完全に分離した形になる。

 当初、ヤスがマルスに命じた設定が崩れたのだが、ヤスはこれが正しい形だと思っているようだ。


 討伐ポイントを確認したヤスはマルスに問いかける。


「マルス。討伐ポイントは、どこまで使っていい?」


『マスターの物です。お好きにお使いください』


「わかった」


 ヤスは討伐ポイントを確認してニヤリと顔を歪めた。


 討伐ポイントは、500万ポイントほどまで増えていた。


 ディアナは、現在4階層の魔物を掃討している。この時点で、溜まった討伐ポイントになる。


 ヤスがまず手を付けたのは、出入り口を自動シャッターにする事だ。

 130万討伐ポイント程度が必要だったのだが、ヤスは躊躇せずに自動式のシャッターを選択して購入した。シャッターの操作は、エミリアで行う事ができるようだ、ほかにも音声入力にも対応している。音声を登録しておく事で、シャッターの開閉ができるようになっている。大型車も大丈夫なように、ある程度の大きさにしたのだが、本当の大型車は別に車両用エレベータを設置する事を考えている。今は必要ない物なので、設置は後日に回すようだ。


 家の内装を整える事にしたヤスは、当面は自分しか入らない場所なので、遠慮する事なく”日本由来と思われる”物を多数配置した。

 エアコンのような物は、寝室にした部屋とリビングにした部屋に設置した。拡張が後からできる事もわかっているので、今は2LDKの広さにしている。他にも、風呂とトイレにはポイントをつぎ込んだ。


「マルス。家電が有るけど、魔力で動くのか?」


『神殿からの供給です』


「神殿の魔力は大丈夫なのか?」


『問題ありません。使わないと、魔物が自動出現する可能性がありますので、魔力を消費してください』


「わかった!」


 給湯システムは、日本式ではないようだが、火の魔法が・・・とか説明は書かれていたが、ヤスは適温のお湯が出て、浴槽にお湯を貯めることができれば問題ないと説明は読み飛ばして、どんどん設置していく。トイレは3か所作った。もちろん温水洗浄付き便座だ。

 布団も討伐ポイントで購入できるようだ。ヤスは、高級布団を購入する事にしたようだ。

 キッチンもオール家電魔力の物があったので設置した。冷蔵庫にスチームレンジも、料理なんてしないのに配置をした。欲しいと思っていた、料理家電もいろいろと購入して配置していった。家具は、日本式ではなかったので、使いやすそうな物を適当に購入していった。

 地下1階から家に入るためのエレベータも設置した。日本由来の物かと思ったが、魔物素材でもともと魔法で動作していた物があり、思った以上にやすかったのだ。


 ヤスは気がついたら、500万近くあったポイントも残高が7万ポイントになってしまっていた。


「さて、なにか食べるものを・・・」


(ん?サ○マドロップだけしかない?)


 マルスアプリの討伐ポイントで交換できる物リストの中を探しても、食料になりそうな物はサク○ドロップだけだ。それも、べらぼうに高い。


「マルス!食料が無いぞ!」


『消耗品は、マスターがお持ちになっていた物だけです』


 マルスが無慈悲に告げる。


 慌ててヤスはアプリを確認する。

 確かに、ディアナに積んでいた記憶がある物だけしか購入できない。


 ドロップの他には食料は見当たらない。

 ティッシュペーパーや(ちょっと高い)トイレットペーパーが有るのは嬉しかったのだが、食料と思われる物がリスト上に存在しないのだ。飲み物は、インスタントコーヒー庶民コーヒーやティーパックのお茶と紅茶や”SA”や”PA”で飲むために買っていた飲み物が交換できるようになっている。


 しかし・・・腹にたまる物ではない。したがって、今日食べる物が何も無いことになるのだ。


 呆然としてしまったヤスは勢いで、ドロップを購入して今日はドロップを食べて飢えをしのいで起きたらユーラットに戻る決心をした。

 そして、ユーラットで食料を買ってこようと考えたのだ。


 腹が減っているが、疲れていたのか・・・。風呂にお湯を張って、湯船に使っていると眠気が襲ってきた。タオルは購入できたので、タオルで身体を拭いてから、全裸のまま布団に潜り込んで寝てしまう事にしたようだ。


 3分もしたら、布団からはヤスの寝息が聞こえてきた。

 マルスは、エアコンの温度を数度上げて、ヤスの睡眠を妨げないように配慮したのだった。

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