第四話 人非人?


「ヤス。もしかして、ヤスは人非人にんぴにん?」


人非人にんぴにんがわからないけど、多分違うぞ?」


人非人にんぴにんを検索・・・一部成功。人非人にんぴにん・・・人あらざる人の意味で使われている。元々の意味は、人で有りながら人の道を外れた行いをする人。ひとでなしの意味』


「そうなの?」


「あぁそもそも、人非人にんぴにんがわからないけどな」


 リーゼは、人非人にんぴにんを説明してくれた。

 俺、リーゼが言っている人非人にんぴにんだな。

 でも、一点だけ違う所がある。俺はリーゼの言葉が解るリーゼも俺の言葉が解る。少なくても、リーゼが知っている人非人にんぴにんは言葉が通じなかった事になっている。エルフの長老が言うにはという前置きがあるけど、少なくても”人非人にんぴにん”で言葉が通じた状態になった者は1人も居ないようだ。

 リーゼが聞いた限りだと、力や魔法が強かったけど、言葉が通じない事から、人の形をした人以外の人となっていた。俺と同じ転移者なのだろう。日本人かはわからないけど、リーゼが聞かされた話としては、力や魔法が強くて気に入らないとすぐに暴力に訴える獣の様な人なのだと教えられたらしい。


「そうか・・・でも、俺はリーゼの言葉がわかるからな。リーゼも俺の話している内容が解るだろう?」


「うん。でも、アーティファクトが話している言葉・・・わからないよ?」


「それは、アーティファクトだからな。古代語かもしれないだろう?」


「え?あっそうだよね。人非人にんぴにんなら、僕を助けてくれたりしないよね。その場で殺して食べているよね」


 異世界はやっぱり怖いな。人食が行われているのか?

 それとも、人非人にんぴにんだけが人を食べると思われているのか?


「リーゼ。聞いていいか?」


「うん。僕が知っている事なら、そういう約束だからね」


 聡い娘だな。自分の役割をしっかりと認識している。


「ユーラットってどんな街?」


「ヤス。ユーラットを通らなかったの?」


「あぁすまん。その辺りの記憶は全部なくなっていて、”わからない”としか言えない」


「・・ごめん。そうだったよね・・・あのね。ユーラットは、小さな港町だよ」


「へぇぇ港町・・・か・・・。おいしい物も多いのだろうな」


「うん!すごく多いよ。あっ!もし、宿が必要なら言ってね。僕が女将おばさんさんに紹介して安くしてもらうからね」


「リーゼ。そこは嘘でもタダにしてもらうとか言えよ」


「えぇそんな・・・。”タダ”なんて言えないよ。あっ!でも・・・。でも、大将おじさんにお願いすれば一食くらいなら”タダ”にしてもらえるかも!」


 へぇ今の感じだと、リーゼは”ただ”の従業員じゃ無いのだろうな。

 家族ではないけど、かなり親しい間柄なのだろうな。もしかしたら、リーゼもハーフエルフと言っているし、なにか事情があるのかもしれないな。


「宿屋の主人は、僕のおじさん?だよ・・・僕のお父さんの弟さん」


 言い方が少し・・・なにかあるのかもしれないな。


「わかった、食事も気になるし、リーゼが仕事しているところを見るのもいいだろうから、落ち着いたら行くよ」


「うん。待っているね。ねぇヤス。この馬車・・・。どうやって走っているの?」


「あぁ・・・説明が難しいけど、こういう物だと思ってくれよ」


「そう?なにか、魔法かな?と、思ったけど違うみたいね」


「古代魔法の一種ではあるけどな」


「そう・・・古代魔法だと再現は難しいね。でも、すごく早いみたいだけど・・・」


「そうだな。普通の馬車の5~6倍の速度で走っているからな」


「え?そんなに?それじゃユーラットに一日くらいで着くの?」


「このペースだと、明日には到着するぞ?遅ければ、もっと飛ばすぞ?」


「ううん。違う。早いからびっくりしただけ・・・」


「そうか、これ以上スピードを出すと、跳ねたりして話ができないからな」


「うん」


「リーゼ。それで、ユーラットは他に何がある?どんな町だ?」


 ユーラットは、バッケスホーフ王国の辺境にあって、農作業には適さない街らしくて、少しの果実畑があるだけで基本的には漁業で生計を立てている街のようだ。幸いな事にユーラットでしか捕ることができないエビが有るために王都のヴァイゼに頻繁に運ばれると言うことだ。


 ユーラットは特殊な地形で、3つの山に囲まれるような形状になっていて、小さな砂浜はあるが、断崖絶壁の海岸線になっているので、そこから抜ける事はほぼ不可能。海も地元の人間でさえ潮目を間違えるほどで、知らない人間は座礁してしまう可能性が高い。


 陸の道も一つだけ抜けられる街道があるだけの街のようだ。


 魔物の森とも隣接しているために、冒険者たちも居るらしいのだが、魔物の数は多いが、それほど強い魔物や素材になるような魔物が少ないために、第一級の冒険者は滞在していないという事だ。


 思っていたとおり、貴族が居るらしいのだが、ユーラットは王家の直轄領になっている。

 リーゼは、直轄領という事は知っていたが、理由までは知らないらしい。


 3方向を山で囲まれて、全面には海。魔物が確認されている森がある。

 街として詰んでいるのは間違いなさそうだな。

 そもそも、なんでそんな場所に町を作った?捕ることができないエビだって確かに珍しいが必需品では無いだろう?贅沢品だろうから無くても困らないだろう?


 一本抜けられる街道・・・ディアナで通られるかな?

 無理なら、どこかに道を通す必要がでてきてしまうな。それは面倒だから避けたい。


「ヤス。そろそろ暗くなってきたけどどうするの?」


「どうするって?」


「えぇ・・・と、野営とか・・・だけど・・・」


「あぁそうか、リーゼが嫌でなければ、そこ使っていいぞ?俺は、ここ運転席で寝られるからな。気になるようなら、奥の・・・そうそう、その部分に取っ手があるだろう?それをスライドさせると、壁ができるし、中から鍵がかけられるからな」


「へぇ・・・ううん。そうじゃなくて、ヤスがここで寝るのでしょ?僕、外でもいいよ」


「ダメだ。ディアナが回りを見ているからって、女の子を外で寝かせるわけには行かない」


「ありがとう・・・。でも・・・」


「大丈夫だ。慣れているからな」


「うん。わかった。ヤス。ありがとう。あっ!そうだ。ヤス。僕!食べ物を持っているから一緒に食べよう。明日着くのなら、食べちゃっても大丈夫だよね」


「あぁそうだな」


 さすがに、ディアナの中で食事するには狭いので、ディアナを停めてから火をおこして食事にすることにした。


 夕方に差し掛かっていて、空を見上げると星空が見えている。

 知力H(笑)の俺でも解る。日本から見えていた星空ではない。大気汚染なんかもないのだろう。すごく綺麗な空に見たことがない星々。そして、月なのだろうか・・・・


「今日は、双子月が綺麗だね」


 空を見上げている俺に気がついた。


「双子月?」


「え?ヤスの所ではそう呼ばないの?」


「覚えていないのだよな。月だって言うのは解るけどな」


「そう・・・」


 そう言って、リーゼは月に関する話をしてくれた。

 本当にあった話だと仮定しても、いわゆる”おとぎ話”だ。唄うように話すリーゼの話に聞き入ってしまった。


 美形で声までいいとか・・・こりゃぁ将来が楽しみだな。


「ヤス?」


「ん?あぁすまん。あまりに綺麗な声だったから聞き入っちゃったよ。どこかで唄っているのか?」


「僕の声?ううん・・・。でも、ありがとう」


 少し照れた顔が悔しいほどに可愛い。

 火は異世界でも同じなのだな。物理法則も同じようだし、リーゼの歌から、この世界が丸い球体だって事は理解しているようだな。


 それにしても、英雄は居るのに、魔王や勇者の存在は歌には出てきていない。俺には関係ない。


 まぁせっかく異世界に転移したのだから、楽しめば・・・いいよな。


 愛機マルス・ディアナ・エミリアも一緒だし、困る事はないだろう。なんとかなるよな?

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