第二話 さて!
俺は日本という国で、愛車の
最初に努めた会社が、不景気を理由にした倒産。世間的には不景気の煽りをモロに受けた事になっている。社長が逃げ出したのが本当の理由だ。
その時、28歳。残っていた上層部と話をして、倒産時の未払い給料の代わりにトラクタを貰い受けた。運転は嫌いではない。荷物運びも好きだ。全国のうまい物や綺麗な場所。そして、その土地々々で出会う
いくつかの会社を渡り歩いて、気がついたら、フリーで仕事を受ける状態になっていた。死んでしまった両親が
工房で、愛車の
廃業した
俺の隠しては居ないが、秘密の趣味が愛車の中で休憩中にラノベを読むことだ。
書籍化されたり、アニメされたり、コミカライズされた小説を読むこともあるが、ネットに投稿されている作品を読むのが好きだ。最初は、スマホで読んでいたのだが、タブレットに移行して、いつの間にか改造されたナビシステムで読めるようになっていた。インターネットが繋がって新着情報を知らせてくれるようになって読むのが楽になっていた。
同級生に、システムに詳しい奴がいたので、ナビシステムもどんどん
最初は、市販の物を組み合わせていたが、どこからか持ってきたテスト機を搭載して、テスト機を俺が使いやすいようにカスタマイズしてくれていた。なんでも内部に組み込まれているのは、スマホと同じ物だと笑いながら説明してくれたが、俺には一切わからない。
解るのは、便利になっている事だけだ。ナビシステムがスマホの様になって、質問を投げると答えてくれるようにもなっていた。
トラクタを完全に一人乗りに改造した。居住スペースもかなり上級な物に変更した。
改造が、カスタマイズの域から飛び出して、パーソナライズされてしまって、俺にしか運転できない状況になってしまっていた。
享楽に生きる友達を沢山持つとこういう時に助かる。
俺の愛車は、俺専用機になった。
実験機体でもあり、使い途がない土地で、自動運転のマネごとをして遊んだ事もあった。おかげで、高速道路を走行する場合にはかなり楽な状態になっている。もちろん、防犯対策もバッチリだ。
俺の愛車は、こうして、愛機となり、誰がどう見ても、トラクタの運転席には見えなくなっていた。
俺に、珍しい奴から依頼が入った。
中学の時からの腐れ縁だが、今まで仕事の依頼をしてきた事が無い奴だ。
「どうした。桜?」
「ヤス。すまん。仕事の依頼だ」
「初めてじゃないのか?」
「違う、二度目だ。それで、大丈夫か?」
奴が二度目というから二度目なのだろう。
「大丈夫だ。何を運ぶ?それによって、マルスに接続するトレーラを選ぶ必要があるからな」
「トレーラは依頼主が用意する。統一規格なのだろう?」
「概ね・・・そうなっている。どこからだ?」
聞かないほうがいいかもしれないと思った。
桜からの依頼だ。断れるような性質では無いのだろう。
「あぁ・・・想像している通りだ」
「そうか・・・。解った。どうすればいい?」
「すまんな」
長い付き合いだ。奴が警察官として、普通で無いのは知っている。
悪い意味で融通が効かない奴だ。中学生当時は、そんな桜が大嫌いだった。俺たちに”できない事”を、”なぜできない”とでもいいそうな顔をしてこなしていく奴が嫌いだったが、20歳の時に起きた事件をきっかけに奴らとの親交が深まった。
そんな桜だが、逆らえない人が数名居る。そのうちの1人が今回の依頼人だろう。
待ち合わせに指定された場所から考えて先生だろう。正確には、先生の教え子が依頼主だろう。珍しく、桜を頼った事から、ギリギリな物なのかも知れない。
待ち合わせ時間と場所を、愛機マルスにセットする。ナビがシミュレートしてくれる。
よくある話として、トレーラが入れられないような場所を指定される事がある。その時には、まずそこに入れるようなトラックを持ち込んで、荷物をピストン輸送してから、相手先に持ち込む必要がある。相手先次第では、同じ事を先方でしなければならない。
通常のナビでは、出てこない情報も、マルスなら検索してくれる。克己と真一が言っていたが、日本の地図は、別々にいろんな情報が散りばめられていて、1つの地図だけでは、不確かな情報になってしまう。それに、マルスの場合には、牽引する物で必要な幅や長さが違ってくる。そのために、複数の地図情報から検索しなければならない。場合によっては、独自計算を行う必要があると・・・2時間に渡って説明してくれたが、俺が理解できたのは、他のナビでは調べられない情報も調べられるという事だ。
今回は、問題なく待ち合わせ場所までは行ける。
先方がトレーラを用意しているので当たり前だ。問題は、持っていく場所だな。
マルスが待ち合わせ時間から逆算してくれる。
先生からの案件である可能性があるので、風呂に入って、身だしなみを整えてから行く事にする。この時間もマルスが計算してくれる。時間まで、仮眠を取る。
荷物を接続したら、すぐに出発しなければならない可能性もある。いや、その可能性が高いだろう。深夜の運転になるだろう。
居住スペースが充実していると言っても、やはり工房にある自分の部屋で休んだほうが疲れも取れる。
『マスター。時間です』
マルスに、起こされる。
きっちり2時の仮眠だった。
そのまま、風呂に入って、身だしなみを整える。
予定通りの時間に、予定通りの行動をする。
工房に向かう。
マルスの火は既に入って、俺が乗り込むのは待っている。
マルスに近づく。運転席が光って、ドアが開く。
本当に、
待ち合わせ場所には、5分前に到着した。予定通りだ。
やはり、長嶋先生が待っている。
マルスから降りて、先生に挨拶をする。
「すみません。大木くん。森下くんに相談したら、君が適任だろうと言われまして、恥を忍んでお願いに来たのです」
「先生。俺たちは、いや、俺は、先生に返しきれない恩義があります。先生のために動けるのなら、喜んで動きます」
「そう言って貰えると嬉しいのですが、仕事として考えて下さい。無理だと思ったら、断ってくれていいですからね」
本当に、先生は変わらない。
学校の先生は引退されて、田舎に引っ込んだと聞いていたのだが、今でもあの時のままの先生が目の前に居る。それだけでも俺は嬉しくなってきてしまう。
「それで?」
「もうすぐ来ます。あぁ彼らです」
「彼らは?」
「詳しい身分は言えませんが、海洋生物の研究をしている者たちだと思って下さい」
「わかりました」
先方の代表らしき者が、先生に挨拶をしている。先生は、俺を紹介して、今回の運搬を行ってくれる人だと説明した。
「それで荷物は?トレーラは、そちらで用意すると聞きましたが?」
「はい。トレーラまでは・・・確保できたのですが、トレーラというのが、後ろの部分だけだとは知らずに・・・」
「あぁそうなのですね。中身を聞いてもいいですか?」
研究員らしいやつが一歩前にでる。
「中身は、魚の標本だ」
「標本ですか?振動に弱いと思っていいのですよね?」
「そうです。ホルマリン漬けになっているので、そこまで激しい振動でなければ大丈夫だと思う」
「そうですか・・・それにしてはでかいトレーラですね。標本は1つですか?もし複数なら、中身同士が当たらないように固定したりしないと運べませんよ?」
「標本は1つだ。固定は大丈夫だと思うが、確認してみてくれ」
「え?よろしいのですか?」
「構わない。先方には、何の標本を届けに来たのか告げないと、受け取り拒否される可能性がある。自分たちが立ち会えない事も考慮しておきたい」
積荷の確認は当然行うつもりで居たが、こういう訳あり積荷の場合には、確認を拒絶する場合がある。その時に、断る事になってしまう。保険にも入っていないだろうし、そんなヤバそうな匂いがする物は運びたくない。
研究員と中身を確認する。
”りゅうぐうのつかい”とかいうやつじゃないのか?こんなに綺麗な標本があるのか?
固定もしっかりされている。安全も担保されている。大丈夫そうだ。
確認を終えると、研究員が書類を持ってくる。
保険に加入しているという証明書類だ。この手の荷物で保険に入るのは珍しいが、嬉しい誤算だ。
「それで、どこに、何時までに、運べばいいのですか?」
「荷物は、東京の・・・」
場所はよく知っている大学の研究所だ。
時間は、3日後までに送ってくれれば大丈夫という事だ。
小切手は換金が少し面倒だ。しかし、けして安くない金額を提示したのに、その場で小切手を切ったのには驚いた。
交渉一切なしで、俺が提示した金額を言い値で飲み込んでくれた。気持ちがいい客のようだ。
口約束だが、契約の最終確認をしてから、マルスにトレーラを繋ぐ。
普通に移動しても、半日あれば余裕で到着できる場所だ。
訳あり荷物の場合には、指定時間のプラマイ5分とかで指定される場合もある。これなら、通常の運送会社でも引き受けたと思うが、何が訳ありなのかわからない。わからないが気にしてもしょうがない。俺は、俺ができることをやるだけだ。
早く着く分には問題ないということなので、SAで休み休み行く事にした。マルスで確認してから、先方に大体の到着時間を告げる。
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荷物は指定された場所に先回りして来ていた、研究員にわたす事ができた。
これで終了となる。
帰りは首都高は使わずに、川崎から東名に入った、海老名で休もうと思ったからだ。
いつもどおり、海老名で休んで中井あたりで食事と仮眠を取るつもりだ。
今日は、厚木を越えた辺りから霧が立ち込めていた。
霧の中を走るのは疲れる。厚木辺りで霧が出ていると、箱根辺りではもっと濃くなる事が考えられる。霧が収まることを期待して、中井パーキングエリアで軽く食事と取ってから、マルスの居住スペースで仮眠を取る。
身体は疲れていたが、眠くなるまで、ネットで投稿小説を漁っていた。いつの間にか寝てしまったようだ。
辺りが明るくなってきていた。
独り身とはいえ、家は恋しい。居住スペースから出て、運転席に座った。
火を入れて、辺りを見回す。
え?ここ・・・どこ?
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