第13話

「――見えます? ボス。あの光ってるのがダイヤモンドらしいですよ」


 グランドアークを遠くから見渡せる荒野、私は先行していたリックからの説明を受けていた。


「あまりよく見えないな……もう少し近づけないのか?」

「やめておいた方が良いですね。ダイヤ目当てに近づいた人間が何人も殺されているんです」


 先行しての情報収集役に過ぎない私たちが危険を冒す必要はないか。


「怪獣が率先して人を殺しに来るとは珍しいな」

「今までにデイモンを討伐しようとした奴らは多いですからね。

 恐らくですが、それでもう覚えてしまったんでしょう。我々人間が敵だって」


 言いながらリックが私に自分の望遠鏡を渡してくる。


「少しはハッキリ見えるかもしれません。使ってみてください」


 礼を言いながら受け取ったそれを使ってみる。


「……光の槍みたいだな、あれで人間を貫いているという訳か」

「失せたでしょ? 近づく気が」


 リックの奴め、随分と性能の良い望遠鏡を使っているものだ。

 おかげで良く見えた。太陽光を反射しているあれが数メートルに及ぶダイヤモンドの柱であり、槍のようなそれに撃ち抜かれた人間が貼り付けにされている。

 白骨化した遺体が晒され続けている。


「――あの骨を拾ってやらなければいけないな」

「ダイヤに目が眩んだ盗人ですよ?」

「そうかもしれない。けれど、あいつから富を奪おうとした先駆者だ。怪獣と戦った戦士さ」


 彼は力を持っていなかっただけの話。

 明日は我が身かもしれない。そう思えば、骨くらいは拾ってやろうと思う。

 あのデイモンからダイヤモンドを簒奪しようとした先人の骨くらいは。


「……骨を拾ったら、街の教会に預けましょ? 行方不明者の情報を管理してます」

「そうだな……しかし、あんなものを放ってくる怪獣か」

「今回ばかりはマダムでも危ういかもしれないですね。ここまでの遠距離攻撃は初めてじゃないですか?」


 ダイヤモンドの槍を放ってくるか。

 岩の力で防ぐことができるだろうか? 炎より遠くから撃ってくるだろうか?


「炎を吐く怪獣を食っていなかったら、勝ち目はなかっただろうな」

「……ダイヤモンドって焼けるんですか?」

「焼けるらしいぞ。それにダイヤは焼けずとも、本体の肉は燃やせるはずだ」


 ウィルドマスターの新型・爆裂弾も、その名の通り爆弾を高速で射出するという狂った兵器だ。

 今までの火器に比べれば怪獣への効果も大きいだろう。

 完全に焼き殺してしまっては、ライテスに食わせることができないからそれを考える必要もある。

 無論、敵が強力だった場合、そんなことを考えている余裕もなくなるかもしれないが。


「……けど、今回は初めてのパターンになりますね」

「ああ、敵の位置を特定できていないというのはネックになるだろうな」


 今までは鉱山を掘った先から現れた奴を倒すのが大半だった。

 外に出てしまった奴がいなかったわけじゃないが、完全に隠れられて見失っている相手は初めてだ。

 敵のテリトリーに入ったうえで、先に見つけられればいいが、奇襲を受けることも覚悟しなければいけない。


「しかし、ここで勝てればうちらの防衛隊も盤石になる。

 ライテスに食わせるつもりなんでしょ? デイモン」

「分かっていたか。グランドアークの採掘権もこちらで頂くことになっているからな。ダイヤモンドが無限に手に入るようになるぞ」


 リックが浅く息を吐いた。


「……ボス、貴方はいつまでマダムと一緒にライテスの上で戦うつもりですか?」


 真剣な質問をしてきているのは分かっている。

 そうだ、私たちは既に盤石と言えるほどの地位を手に入れつつある。

 あとは契約を結んでいる鉱山からまた新たに出てきた怪獣を殺して回るだけでも、死ぬまで生きていける。

 莫大な富を動かす立場なのだ。だから、そうだ、考えなければいけない。どこでこの盤上を降りるのか。


「ライテスなしで怪獣を殺せる日まで。ナビアが戦わなくても済むようになるまで」

「……ふふっ、惚れてるんですね。心底」


 自分でも不思議なくらいだ。

 もっとドライに契約相手としてだけ見ることができていれば、こうはなっていないのだろうなとは思う。

 けれど彼女が私のことをどう思っているのかを考えると不安になる。契約相手として都合が良いだけなのではないかといつも思う。


「そういうんじゃない。ただ、彼女と共に死線を潜る人間でなければ彼女に切り捨てられてしまうだけのことだ」

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