第80話 遥拝

遥拝


確か年度の果て、あたりに見事な紅梅を知って

瞼に縋ってくるものだから、

約立たずの罅我硯の隅に ほんのり引っ掛けて

おいたはずだが。


そう、今年も彼方様がいいはります


綴らの間にはありますでしょう

私が大事に懐に転がしていた種を返しますと。


思い持ち直しまして、


来世の扉の鍵穴に朽ちた枝を親身に削り

其れを無愛想な腕に見立て、

これは私達がしまったものでしたね


ほら、つららを汲んで出来上がる

溶け残った雫だけが滲ませる


冬、の古紙

からつぼみのたねをあなたと、

衣を翻し葛籠の底には うめて、さく。

幾重にも、ちってしまって、

確かに、春、が御座いましたから


また冬が待ち遠しく在りましょう。






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