第3話

「うおぉ、重たい――こんなに、量があるのか……」

「だから呼んだんだろ。頑張れ、拓朗」

 男二人、大きな荷物を担ぐ帰り道。生活用品や食料品まで買い込んだので、かなりの重量がある。先を歩く、少女二人の手にも、衣服や細かい荷物――。

「すみません、こんなに……」

「いえいえ、これぐらいならお安いご用ですよ」

 アイリの申し訳なさそうな声に、一転して爽やかな声といい笑顔で応える拓朗――まあ、いいけどさ。汗を流しながら、せっせと歩く。

 家までの短い距離。それを歩きながら、荷物を抱え直す。

「折角だから拓朗、飯食っていくか? 今日は金なしでいいぞ。手伝ってくれたし」

「お、マジか」

「しかも、アイリの手料理」

「マジで!?」

 えらい勢いで食いつくな、おい。

「――いいよな? アイリ」

「はい、構いませんよ? ふふっ、いろいろ食材も買っていただきましたし。オリーブオイルとか、スパイスとか……ふんだんに使った、お洒落な洋食でも」

 アイリは楽しそうに笑いながら、ぎゅっと大事そうに服の入った袋を抱き締める。

「いろいろ、買い物に付き合って下さったお礼です。矢崎さんも、召し上がっていってください」

「やっほぃっ! 女の子の手料理だっ! 彩豊かな料理ッ!」

 テンションが爆上がりする拓朗。冷やかな視線を送り、僕はにっこりと荷物に手をかける。

「悪かったな、いつも色気がなくて。それだけ元気なら、もう一つ行けるだろう?」

「おおおおっ、調味料を載せるな、腕、腕えええええッ!」

 意外と細腕らしい拓朗の悲鳴を聞きながら、アパートに辿り着く。馴れた様子で、サラが鍵を取り出し、僕の家の扉を開ける。

 ――ん? あれ? そういえば、なんで合鍵持っているの?

 拓朗は慣れた様子で部屋に入り、荷物を廊下に置いていく。その後に続き、アイリはぺこりと頭を下げて部屋に上がる。

「お邪魔します……あれ、リント、どうかしましたか?」

「いや――この家で、礼儀正しいのは、アイリだけだと思ってな……」

 サラはさりげなく靴を揃えているが、拓朗は脱ぎ散らかしている。家主に断りも入れず、エアコンをつけ、テレビをつけているのを見ると――。

「……羨ましいです」

 ぽつり、とアイリは小さくつぶやいた。見ると、彼女は遠慮しがちに廊下に立ったまま、その居間のくつろぐ二人を見ている。

 少し寂しげに見える笑みを見せ、彼女はぎゅっと胸の前で掌を握る。

「なんだか、家族、みたいで……いいですね。この家は」

 この光景で――なんでその結論が出るか、分からないが……。

 その言葉がすごく儚げで、アイリが一人に見えてしまって……。

 なんとなく見ていられなくなって――僕は、その頭を軽くぽんと撫でた。

「――その一員だろう? アイリも」

「……え?」

 軽く目を見開くアイリ。その彼女に小さく笑いかけながら、荷物を居間に運び入れる。

「まだ、短い付き合いではあるけれど――まだ、一日とか二日だけだけど……アイリも、この家で暮らしているんだから――」

 そのまま、そっと手を引っ張り、居間の方に引き寄せながら――自然と告げる。


「僕たちは、もう、家族だよ」


 気づけば、サラも拓朗も視線を上げて、笑いかけてくれる。サラはエアコンの調整を終えて、ぱたぱたとアイリの傍に駆け寄って手を取る。

「ね、一緒に料理作ろうよ――そんな、遠慮なんてしなくてもいいし!」

「くつろぎたければ、くつろげばいいんだ……なあ、鈴人、綿棒どこにしまった?」

「てめえは、もう少し遠慮しやがれ」

「俺も家族なんだろー? いいだろー? おかんー」

「僕はこんなふてぶてしい奴を生んだ覚えはねえぞ……ほれ」

「おお、悪りぃ、悪りぃ」

「――なんだかんだで、リント、綿棒出してあげるんですね……」

「おかんだよね、本当に」

 狭い六畳間の部屋を、四人がわいわい賑わっている。その光景に、ほっこりする。

 サラとアイリが並んで料理をして。

 僕と拓朗が居間でくだらない馬鹿話をして。

「――こんな、にぎやかなのは、本当に久しぶりだな」

「おお、まるで実家に帰ったみたいやで」

 にやっと笑う拓朗と、笑い合いながらテレビを見つつ、時間を過ごしていく。

 やがて、アイリが主導で用意した洋食は、本当に豪華で――何故か、拓朗は感動に目を潤ませていた。実際に、それだけ美味しかったわけであって。

 とても楽しくにぎやかな夕餉を、心行くまで堪能させていただきました。

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