第19話 丹下教授
エリーは真由美をエスコートして丹下教授の元に連れて行った。入学したばかりの真由美が体験で研究所に行くのは異例な事だった。通常、一年生が入るとすれば特別成績が良くないといけないからだ。高校時代、成績が常に中の下ぐらいだった彼女の事を一番知っている愛莉がそう思っていた。それにしても、愛莉として接することが出来ないのがもどかしかった。
「こちらが丹下犯罪学研究所です。お父様には色々とお世話になっております。何度もミステリー研究会でお会いしておりますから、あなたの事を良く聞いております」
丹下教授は真由美をそう言って歓迎していた。やはりこれはコネなんだと分かった。でも何故、犯罪研究所なんかという疑問があった。
「はじめまして、教授。安養寺真由美です。父から伺っております、古今東西のミステリーにも通じておられるそうでして。早速ですが依頼しても良いですね? メールで送ったのですが読んでいただけましたか?」
真由美はそういって教授に手渡したのは、愛莉の写真だった!
「実は、この人を探しています。理工学部の学生だった山村愛莉さんです。一月に逮捕されてから全くの行方不明でして、父がいろんな伝手を使っても見つけられなかったのです。どうも”闇の司法部”の・・」
そこまで言ったところで、丹下教授は真由美の口に手を当て、周囲を警戒しながらエリーにカーテンを引くように指示して、膨大な蔵書がある書架の中央に移動した。
「あなたは、その”闇の司法部”の事を知っているのですね。安養寺君も娘さんに話しているとはね、今回の依頼ってとても危険なのですよ。なんだって”闇の司法部”の正体は、ここ帝央のOBとOGたちなんですからね。ここ法学部の!」
丹下教授は小さな声で言った。愛莉は初めて聞くことに驚いていた。それが自分を全身拘束刑にした連中なのかもしれないと。
”闇の司法部”というのは、ここ帝央大出身者の同窓会の中でも法曹界や政治家のエリートのことであった。その存在を知っているのは、ごく限られていた。その構成員は検事、判事、弁護士のほか、政治家や一部財界人であり、陰でこの国を動かしていると噂されてきたという。従来は相互補助活動であったが、近年この国で大きな影響を与えた政策を推進していた。刑務所の新たな囚人の受け入れ停止と、人体の機械化や人造人間導入の推進だった。
前者は犯罪者の高齢化に伴う養老院化の是正と、後者は少子高齢化によって不足している労働者を補う手段として、サイバノイド技術による障碍者や高齢者などの肉体強靭化と、アンドロイドやガイノイドの導入促進などであった。その政策が融合したものが人体拘束刑の導入であった。
それらの政策は死刑制度の廃止を求めてきた、いわゆる人権派と呼ばれる立場から、一部人類の機械化奴隷に陥れるものとして反対が根強かったが、反対意見が多くても国益に叶う政策だとして与党によって強行採決によって施行が決定したが、その強引な動きをしたのも”闇の司法部”だったといわれている。
そんなことを丹下教授はこっそり真由美に教えていた。それにしても大学教授という人種、いや教師という存在は質問されたことを逸らすために、関係がありそうな別の話題をするのかと、愛莉は呆れて聞いていた。まあ、質問を質問で返すような連中よりかはマシであったが。
「それで、愛莉さんはどうなったのかご存知ではないのですね? ただ”闇の司法部”が関与していると」
真由美は長い説明を理解しようと頑張っていたが、なんとなく分かった事があった。愛莉はもしかすると全身拘束刑にされたのではないかという疑念があるということを。
「そうなんだあ、わしの教え子の・・・名前は言えないが、どうもこの大学に人体実験している連中がいるという噂があってな、その山村愛莉さんは脱法的な手続きで、刑罰を受けているのじゃないかというんだよ。詳しくは分からないが・・・だからな」
「だから?」
「そこのエリーを使っても良いから、彼女を探すのを手伝ってもらいたまえ。なんだってガイノイドは人類の奉仕の為の存在だからな!」
それを聞いた愛莉は思いきり二人にぶちまけたい衝動にかられたが、それは出来ない事がもどかしくて仕方なかった。
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